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二日前の朝、サベリオは町を歩き回っていた。
橋の釘。シェルター裏のぬかるみ。屋台の脚に足りない留め具。配線が引っかかりそうな角。前の周回で見た危うさが、地図のように頭に浮かぶ。それを順番に潰していくしかない。
表通りの角で、ヌバーが声をかけてきた。
「また歩いてる」
「またって何」
「朝から三周目。今度は何拾うの」
サベリオは手にした麻袋を見せた。中には外れた金具、小さな釘束、補修用の紐、誰かが置き忘れた札が入っている。
「足りないものと、危ないもの」
「それ、名前つけたほうがよくない?」
なぜそこで名前が要るのかと思ったが、ヌバーはもう楽しそうに考え込んでいる。
「歩き回って拾ってつないでるから……ランブリング」
「何それ」
「なんかそれっぽい」
「それっぽさで決めるなよ」
「いいじゃん。ランブリング作戦、誘ってるんですけど」
そのまま本当に、ヌバーは近くにいたミゲロまで巻き込んだ。ミゲロは苦笑しつつも袋をのぞきこみ、「運ぶのは手伝う」と言う。そこへハルティナまで現れた。
「危ない場所を先に拾うんでしょ? 人に話すのは私やる」
「何で知ってるの」
「顔に書いてある」
三人で町を回ることになった。
橋へ行けば、ヌバーが通行の邪魔になる木箱をひょいとどかし、ミゲロが重い板を担ぐ。ハルティナは近所の家へ声をかけ、余っている布や滑り止めの砂袋を借りてくる。サベリオ一人なら半日かかったことが、あっという間に片づいていった。
「最初からそうすればよかったのに」
ハルティナが言う。
「一人で全部見える人って、たまにいるよね。でも見えるだけだと、手が足りないの」
返す言葉がなかった。
昼すぎには、裏路地のぬかるみに板を渡し、シェルター脇の段差に白布を結び、屋台の重しも増やせた。町のあちこちに、小さな手当てが増えていく。
サベリオは少しだけ肩の力を抜いた。死に戻りのことは言えない。けれど、「ここが危ない」と言うだけで、動いてくれる人はいるのだ。
夕方、ヌバーが両手を腰に当てて宣言した。
「これ、明日もやります。ランブリング班です」
「班になったのか」
「なりました」
ミゲロが笑い、ハルティナは名簿まで作り始める。
町を歩くだけのはずだった。それが、人をつなぐ仕事に変わっていく。
サベリオは麻袋の口を結びながら、少しだけ胸が軽くなるのを感じた。孤独に急ぐより、誰かと歩くほうが、春の町はちゃんと前へ進むらしい。
#死に戻り