テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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昼すぎのしずくシェルター裏は、煮込みの匂いと笑い声でむんと温かかった。モルリの屋台班は準備が早い。早いぶん、置きっぱなしの包丁やぐらつく台、通り道をふさぐ樽まで、危ないものも一緒に増えていく。
「勢いで何とかなる!」
鍋のふたを開けながらモルリが宣言すると、ホレが帳面を閉じて顔をしかめた。
「何とかならないから表を作ってるんだけど」
「表より先にお腹が空くでしょ」
「祭りは給食じゃないの」
いつものように二人がやり合い、周りが笑う。けれどサベリオは笑いきれなかった。前の周回では、ここで急いで運ばれた炭が通路に転がり、雨の日に人を足止めした。小さなつまずきが、夜の混乱へつながるのを知っている。
「モルリ、その樽、入口の横じゃなくて奥に置こう」
「えー、売る時に遠い」
「人の流れが詰まる。鍋も火元も近すぎる」
いつもなら勢いで押し切られるところだが、今日はミゲロがすぐ横から加勢した。
「この前も言ってただろ。重い物は奥の壁際」
「ミゲロまで?」
「サベリオ、今日は顔が本気なんだよ」
モルリはむっとしたあと、ふっと笑った。
「わかったわかった。そんなに本気の顔なら、ちょっと聞いてやる」
そこでホレがすかさず紙を差し出した。
「じゃあ、置き場を決める。火元、材料、食器、通路。勢いはそのあと」
「出た、段取りの鬼」
「鬼で結構」
やり取りはいつもと同じ調子なのに、流れが少しずつ整っていく。サベリオは樽を運び、ミゲロが台を直し、ホレが導線を書き込み、モルリは文句を言いながらも鍋の位置をずらした。
ふと見ると、デシアが少し離れた場所で録音機を向けていた。
「何録ってるの」
サベリオが聞くと、彼女は鍋を混ぜる音のほうを見た。
「笑いながら準備してる音。これ、たぶん舞台の途中で効く」
「屋台の音が?」
「食べ物の匂いまで思い出せそうな音ってあるから」
そう言って、彼女はモルリの高い笑い声まで丁寧に拾っていく。
サベリオは少しだけ肩の力を抜いた。全部を止める必要はない。止まらないものを、そのまま危なくない場所へ流せばいいのだ。
モルリの屋台は今日も止まらない。けれど前より、ちゃんと明日のほうを向いていた。