翌朝、詩帆はさわやかな気持ちで目覚めた。
昨日の事を思い返すと嬉しくて顔が自然に綻ぶ。
あんな素敵な誕生日は、今まで経験したことがなかった。
海でコンビニケーキのお祝いに始まり、夜は素敵な店での食事。
そしてプレゼントまでもらった。
まだ知り合って間もない涼平は、詩帆が望む全てを叶えてくれた。
そんな涼平に詩帆は感謝の気持ちでいっぱいだった。
今年の誕生日は朝から夜まで一日中幸せ気分だった。
詩帆はその楽しかった時間のお陰で、身体中にグングンとパワーが漲るのを感じていた。
今日詩帆の仕事は休みだったので、素早く身支度をすると画材を持ってアパートを飛び出した。
朝の空気は着実に少しずつ涼しくなっている。
こうして徐々に秋が深まり冬へと移行していくのだろう。
日の出の時刻も段々と遅くなり、もう少し遅くなったら仕事の時間に間に合わなくなる。
(朝のスケッチは今週いっぱいで終わりかな?)
そう考えると詩帆は少し寂しく感じた。
その頃、涼平はいつもより早く起きて仕事へ行く準備をしていた。
今日は定時で上がってパーティーへ行く予定なので、早めに事務所へ行くつもりだ。
涼平も詩帆との楽しい時間を過ごした事により、グングンとやる気が漲っていた。
事務所へ着くと、加納と佐野もいつもより早めに来ていた。
仕事前に三人はコーヒーを一杯飲みながら雑談を始めた。
話題はもっぱら優子へのプレゼントは何にしたかという事だった。
「俺は毎年恒例、花屋に寄って花束を買って行く予定です」
「涼平ちゃんは心憎いねー」
加納が茶化すように言った。
その加納は、加納の妻が前もって用意しておいた香水をプレゼントにするらしい。
加納の妻は優子と仲良しなので、優子の好みを知り尽くしていると言った。
佐野はというと、優子に似合いそうなキュートなTシャツを用意していると言った。
「お前、どうせ別れたあの子に選んでもらったんだろう?」
加納がからかうと、佐野はバツが悪そうな顔をしてエヘヘと笑う。
どうやら図星だったようだ。
その日三人は定時で上がれるよう仕事に集中する。
途中、涼平はクライアント先との打ち合わせで外出した。
その際涼平は、少し大きめの案件を取って来たので、加納は「でかしたぞ!」と涼平を労う。
「涼平! お前、最近なんだかやる気満々だな」
「自分でも不思議なんですよ、なんかこうやる気がどんどん湧いてくるっていうか。やっぱり引っ越したら運気が変わったんで
すかね?」
すると佐野が涼平に聞いた。
「そう言えば、今日涼平さんが連れて来る女友達ってどんな子なんっすかー?」
「超かわいい子だぞ!」
詩帆に会った事がある加納がニコニコして言った。
それを聞いた佐野が叫ぶ。
「加納さん、なんで知ってるんすかー?」
「この前海で会ったからな」
「そうなんっすね。いやー今日会えるの楽しみですわー」
と佐野がニコニコしながら言ったのを聞いて、
「オマエ、絶対に手を出すなよ」
涼平は佐野に釘を刺した。
加納は思わずクックッと笑っていた。
夕方になり、詩帆はアパートの前に立っていた。
もうすぐ涼平が迎えに来る時間なので待っている。
手には優子へのプレゼントが入った袋を持っている。
優子は詩帆が描いた絵を見たがっていたので、
念の為にこれまで描いた絵を写真に撮って携帯のアルバムに保存しておいた。
これなら手軽に見てもらえる。
パーティーの服装については涼平に聞いていた。
皆ジーンズなどのカジュアルな服装がメインだと言っていたので、
今日の詩帆の服はモカブラウンのロングスカートにボーダーのカット―、
その上にざっくり編まれたオフホワイトのカーディガンを羽織った。
その時向こうから涼平がゆったりと歩いて来るのが見えた。
涼平はこの日ジーンズにオフホワイトのパーカー、
その上にネル素材のチェックのシャツジャケットを羽織っていた。
サーファーらしいカジュアルなスタイルは涼平にとてもよく似合っていた。
涼平は手に真っ赤なバラを持っていた。おそらく優子へのプレゼントだろう。
詩帆に気付いた涼平は、手を振ってから足早にこちらへ向かって来た。
涼平が近づくと、反対側の手にもう一つミニブーケを持っていた。
そちらはピンクのバラとカスミソウで作られた可憐なブーケだ。
涼平はアパートの前まで来ると「ハイ!」と言ってミニブーケを詩帆に渡した。
詩帆がびっくりした顔をしていると、
「こっちは詩帆ちゃんに」
と言って微笑む。
詩帆は感激してそのブーケを受け取った。
「ありがとうございます」
詩帆はすぐにピンクのバラに花を近づけ香りを嗅ぐ。
そして「いい香りー」と嬉しそうに笑った。
「あ、じゃあちょっとお花を活けてきますね」
詩帆は慌てて言いうと、一旦アパートの部屋へ戻って行った。
そこで詩帆の部屋は二階の203号室だという事がわかる。
それから詩帆が戻ってくると、二人で歩き始めた。
10分も歩かないうちに菊田の家に到着した。
その家は涼平が言った通り大豪邸だった。
外観はコンクリート打ちっぱなしのモダンな造りで、
表に面した部分には車が3台は停められそうな大きなガレージがある。
二階の一部が全面ガラス張りになっており、中からはオレンジ色の灯りが漏れていた。
涼平は門の前に行くとインターフォンを押した。
するとすぐに優子の声が聞こえて、鍵がカチッと自動で開いた。
涼平は門を開けて詩帆に入るよう言った。
コメント
2件
涼平さん、さりげないミニブーケ💐のプレゼントが心憎い🥰✨ さぁどんな素敵な出会いがあるんだろう⁉️そして詩帆ちゃんからの🎁も楽しみ😊🎉
優子さんのパーティーも楽しみですね🎶 また 素敵な出会いがありますように....🍀✨