詩帆は今までこんな大豪邸には入った事がなかったのでかなり驚いていたが、
涼平は何度も来ているのか慣れた様子でどんどん奥へ進む。
そして玄関を入り、用意されていたスリッパを履いて二人は廊下を進んで行った。
涼平が突き当たりのドアを開けると、そこはかなりの広さがあるリビングだった。
30畳は優に超えているだろう。
詩帆はその広さに驚く。
部屋は全体にシンプルでシックなインテリアだったが、奥の壁際にはカウンターバーがあり、
店のように沢山の種類の酒が並んでいた。
そしてアイランドキッチン寄りに置かれている大きなテーブルには、既に沢山の料理や取り皿が並んでいた。
まるでちょっとしたホテルのビュッフェのようだ。
料理は菊田の店から持って来たのだろう。
料理の他にもデザートやフルーツも並んでいた。
広い芝生の庭に面した窓際には、革張りの大きなソファーセットが置かれている。
(ホテルのラウンジみたい!)
詩帆がそう思うくらい、菊田家のリビングは本当にホテルのようだった。
部屋には既に十人くらいの人が集まっていた。
来客はソファーやダイニングテーブルの前に座り会話を楽しんでいた。
涼平と詩帆が部屋に入ると、
「涼ちゃん、詩帆ちゃん、いらっしゃい!」
優子は笑顔で近づいて来る。
「優子さん、お誕生日おめでとうございます!」
涼平はお祝いを言いながら優子にバラの花束を渡した。
それを受け取った優子は、バラに顔を埋めてから言った。
「うーーん、いい香り! 女はいくつになっても花を貰うと嬉しいものよ。涼ちゃん、ありがとう」
優子はニコニコしながら言った。
続いて詩帆が優子に言った。
「優子さん、お誕生日おめでとうございます。あの、これ、つまらないものですが…」
詩帆は恥ずかしそうに自分でラッピングしたプレゼントを渡した。
詩帆はラッピングにもこだわったつもりだったが、ソファー前のローテーブルに置かれている優子へのプレゼントを見て、
少し気後れしていた。
なぜならそのプレゼントのほとんどが、有名ブランドの物だったからだ。
(手作りのプレゼントなんて場違いだったかも…)
詩帆は急に恥ずかしくなる。
しかし優子は詩帆からのプレゼントを嬉しそうに受け取ると、
「ありがとう! 開けてみてもいい?」
と言って包みを開けた。
そして中からアンティークの額縁に入った小さな絵が出て来ると、思わず感嘆の声を上げる。
「素敵! これ、詩帆ちゃんが描いたの?」
「はい、すみません…こんなもので……」
「ううん、そんな事ないわ! すごく素敵! こんなに素敵な絵が描けるの? 素晴らしいわ!」
優子は嬉しそうに微笑むと、ソファーに座っている人達へその絵を見せながら、
「こんな素敵な絵をいただいたわ」
と叫んだ。
すると座っていた全員が
「おーーっ!」
感嘆の声を上げる。
それから優子は詩帆に言った。
「これ、大好きな辻堂の海よね? 嬉しいわ! 折角だからお店に飾らせてもらおうかな? その方が色々な人の目に触れる
しね。詩帆ちゃん、ありがとう!」
優子が心から喜んでくれているようなので、詩帆はホッとする。
そんな詩帆の様子を、涼平はニコニコして見ていた。
それから優子は詩帆を、一人一人に紹介した。
詩帆が涼平に連れられて来た事を知ったメンバー達は、皆一斉に驚く。
「涼平が女性を連れて来るなんて久しぶりだなー」
と、皆口々に言った。
詩帆はその言葉を聞いて思った。
(という事は、だいぶ前に女性を連れて来たのね)
涼平が以前連れて来た女性は一体どんな人なのだろう?
詩帆は少し気になっていた。
その時、またインターフォンが鳴って招待客が入って来た。
来客は女性三人で、一人は優子と同年代の女性、あとの二人は詩帆と同年代の女性だった。
優子はしばらく三人と立ち話をしていたが、会話が一段落すると詩帆の方を振り向いてこっちにいらっしゃいと手を振った。
詩帆が四人の傍へ行くと、女性三人を紹介された。
一番年上の女性は、優子のサーフィン仲間の下村女性だった。
下村は優子と同じ五十代で、フラダンス教室を主宰しているらしい。
横にいる女性二人は下村のダンス教室の生徒で、
一人は詩帆より二歳上の高田美奈子、もう一人は詩帆より一つ年上の吉川綾だった。
三人は同世代なのですぐに意気投合した。
そのまま三人でダイニングテーブルへ移動して、座ってお喋りを始める。
そこで詩帆より二歳上の美奈子が言った。
「今日は独身の男性がいっぱいいるから下村先生においでって誘われたの。なんか5~6年前に恋人を事故で亡くして以来ずっ
と恋人を作らないサーファーがいるんですって。周りの人達はその男性を心配して、なんとかいい出会いをさせてやろうと思っ
ているみたい」
それを聞いた詩帆は驚く。
すると綾が、
「私も聞いたわ。その人結構イケメンなんですって! ね、ね、その人あの中にいるのかな? どの人だろう?」
綾はワクワクしながらソファーに集う男性陣の方を見る。
「年は私達よりも5歳くらい上らしいわ。どの人だろうね?」
美奈子がそう答えると、
「じゃ、あそこにいる人かな?」
綾がチラッと涼平を見て言った。
「そうかもね」
美奈子の返事を聞いた綾は急に笑顔を見せて言った。
「カッコイイー! 素敵な人じゃない? ねぇ、あの人のお名前知ってます?」
綾が詩帆に聞いて来たので、
「夏樹さんです」
と綾に教えた。すると綾は詩帆にお礼を言ってから、
「ちょっとお話して来るぅー」
そう言っていそいそと涼平の隣へ行き腰かけた。
それを見た美奈子は肩をすくめて言った。
「綾はいつも男に対して行動が早いのよー」
詩帆は頷きながら困ったように微笑む。
しかし頭の中には先ほど美奈子から聞いた衝撃的な言葉が渦巻いている。
(恋人を事故で亡くしたサーファー)
詩帆は涼平と知り合ってから、涼平の中に何か寂しさのようなものがある事に気付いていた。
涼平は普段はそれを完璧に隠している。
しかしふとした瞬間、それが見え隠れしてしまうのだ。
今まではそれが何によるものなのかがわからなかった。
しかし今詩帆はそれがわかってしまった。
(彼も私と同じ心の傷を持っている……)
詩帆はそう確信していた。
コメント
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有名ブランドの物よりこの世に1つしかない🌊🖼️の方がどれだけ優子さんを喜ばせるか❣️詩帆ちゃんの力作を喜んでくれて本当に嬉しい😊🌷 そして詩帆ちゃんと同じ痛みを持った涼平さんの訳を知った詩帆ちゃん。 綾さんは涼平の元に行ったけど、涼平さんは詩帆ちゃんしか見てないよ👀 でもノルノルはモヤって面白くない😾
優子さんが、海の絵のプレゼントを喜んでくれて良かったですね🌊🎁✨ 涼平さんが心に同じ傷を持っていることに気づく詩帆ちゃん.... 二人がさらに距離を縮め 愛を深めていくことを願いたい🍀✨ 涼平さんに限って 他の女性に声をかけられても揺らぐことは無いと思うけれど、イケメンでモテるから ちょっとモヤモヤ~💦