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七枚目の死亡通知には、
私の名前がある。
水城澪。
死亡日時。
明日 午後六時。
そして、
母の手紙には書いてあった。
最後の死亡通知は破ってください。
私の計画ごと、終わらせてください。
私は、
その二枚を並べて見た。
母は、
最後だけ私に選ばせた。
でも、
母の計画を乗っ取った誰かは、
最後まで私に選ばせない。
スマートフォン。
新しいメッセージ。
18:00までに来なければ、一人死にます。
「行きます」
私が言うと、
真壁刑事がすぐに首を振った。
「その時間には行かせません」
「でも誰かが」
「人質が本当にいる証拠はありません」
「今まで何人死にました?」
真壁は黙った。
高瀬。
久我。
篠宮恵美。
もう、
ただの脅しだとは思えない。
「だったら余計に、一人では行けません」
「一人では行きません」
私は七枚目を持ち上げた。
「でも」
紙を見る。
「これの言う通りにも行かない」
父が眉を寄せる。
「どういう意味だ」
「午後六時は、犯人が決めた時間」
母が残した本当の集合時間は、
午後十一時四十分。
「私は」
七枚目の端を掴んだ。
「どっちにも従わない」
そして。
破った。
ビリッ。
部屋に、
紙の裂ける音が響いた。
父が息を呑む。
私はもう一度。
縦に。
横に。
死亡日時を裂く。
自分の名前を裂く。
水城
と、
澪
を、
別々にする。
七枚目の死亡通知は、
八つの紙片になった。
何も起きなかった。
赤い文字も戻らない。
腕にも、
日付は浮かばない。
ただの紙だった。
「終わり」
私は言った。
誰に言ったのか、
自分でも分からない。
母に。
犯人に。
それとも、
二十九年間、
誰かが決めてきた私の人生に。
スマートフォンが鳴った。
全員が画面を見る。
七人目の死亡通知が破棄されました。
その下。
選択を確認しました。
私は息を止めた。
さらに。
水城澪を死亡対象から除外します。
「解除された?」
父が呟く。
違う。
そんなに簡単なはずがない。
次の一文。
代替対象を選定します。
やっぱり。
「ふざけるな」
声が出た。
母の仕組みと同じ。
一人が逃げれば、
別の人間を差し出す。
「誰も選ばせない」
私は画面へ言った。
当然、
返事はない。
そのとき。
表示が変わった。
代替対象
一文字ずつ、
名前が浮かぶ。
早川由紀子
「やめて!」
病院にいる。
刺されたばかり。
まだ、
まともに歩けない。
真壁がすぐに電話する。
「病室を確認してください!」
数秒。
返事。
真壁の表情が変わる。
「いない?」
「病室が空です」
私は立ち上がった。
また。
「防犯カメラは」
「確認中」
スマートフォン。
画像が届いた。
旧産科病棟。
あの階段。
椅子。
そこに、
由紀子が座っていた。
腕を固定されている。
包帯の下から、
血が滲んでいる。
時計。
17:12
今日だ。
今。
「まだ明日じゃない」
私は言った。
死亡通知では、
明日の午後六時。
なのに。
もう始まっている。
メッセージ。
18:00までに来てください。
来なければ四人目を処理します。
残り。
四十八分。
「行きます」
「水城さん」
「でも、通知には従いません」
「同じことです」
「違います」
私は破いた紙を、
机の上へ置いた。
「死亡通知があるから行くんじゃない」
由紀子がいるから。
助けたいから。
私が決める。
それだけ。
真壁が私を見た。
少しして、
頷いた。
「なら警察も行きます」
「相手は見てます」
「見せればいい」
真壁が言った。
「あなた一人を選ばせるゲームにはしません」
その言葉で、
初めて。
少しだけ、
怖さが減った。
*
午後五時四十一分。
岸本総合病院。
旧産科病棟。
警察は、
建物を包囲している。
でも。
突入はしない。
人質がいる。
仕掛けがある可能性もある。
私は、
防弾ベストを着せられた。
「ここから先は」
真壁が言う。
「指示に従ってください」
「はい」
「勝手に走らない」
「はい」
「何かあれば戻る」
「……はい」
「最後の間が気になります」
「気のせいです」
こんなときなのに、
真壁が少しだけ笑った。
午後五時四十八分。
旧病棟へ入る。
湿った匂い。
剥がれた壁。
止まった時計。
十七年前。
私はここにいた。
いや。
「水城澪」と呼ばれた少女が、
ここにいた。
それが私なのか。
まだ分からない。
階段。
一段ずつ上がる。
二階。
写真に写っていた場所。
椅子はある。
でも。
由紀子はいない。
「由紀子さん!」
返事なし。
椅子の上。
スマートフォンだけ。
画面に、
動画。
再生。
由紀子。
『澪ちゃん』
録画だ。
『来ないで』
私は画面を見る。
『私は自分でここに来ました』
「また……」
前にも同じことをした。
私を呼び出すため。
でも今回は、
顔色が違う。
『捕まったんじゃない』
『私が三田村さんに頼んだの』
私は息を止めた。
『七人を集めてって』
「由紀子さんが?」
動画の中。
由紀子が泣いている。
『千佳の計画を終わらせたかった』
『でも私たちだけじゃ無理だった』
『みんな、また逃げるから』
『だから死亡通知を使った』
私は、
何も言えなかった。
真壁も動画を見ている。
『最初は』
由紀子が続ける。
『本当に殺すつもりなんかなかった』
また。
十五年前と同じ。
最初は。
その言葉。
『高瀬さんも、死ぬ予定じゃなかった』
『でも誰かが死亡日時を書き換えた』
『私たちの計画にも』
一度、
息を呑む。
『別の人が入ってきた』
母の計画を乗っ取った人物。
さらに。
三田村たちの再現計画まで、
乗っ取った人物がいる。
「じゃあ三田村さんも犯人じゃない?」
父が呟く。
動画。
『三田村さんは今』
ノイズ。
『地下にいます』
『捕まっています』
私は真壁を見る。
「地下」
地下資料室。
七人を集める場所。
動画の最後。
由紀子。
『澪ちゃん』
『死亡通知は破って』
私は息を止めた。
『それが、千佳が最後に残した正しい答えだから』
画面が暗くなる。
終了。
その直後。
館内放送が入った。
ザッ。
古いスピーカー。
女の声。
『確認しました』
若い。
聞いたことがある。
スーパー。
病院。
名前のない少女。
『七枚目は破棄されました』
私は上を見る。
「どこにいる!」
声が返る。
『それでいい』
「由紀子さんは!」
『地下』
「三田村さんも?」
『います』
「あなたは誰!」
沈黙。
そして。
『それを知るために、ここまで来たんでしょう』
旧病棟の奥。
ガチャン。
地下へ続く防火扉が、
自動で開いた。
「行かないで」
真壁が止める。
私は、
階段の下を見る。
暗い。
でも。
下から光が漏れている。
時計。
午後五時五十六分。
「あと四分」
スピーカー。
『十八時になれば、一人死にます』
「誰が?」
『あなたが選ばなかった人』
また。
選択。
「選ばない」
私は言った。
『選ばなければ、こちらで決めます』
「それもさせない」
『どうやって?』
私は、
破いた七枚目の紙片を取り出した。
ポケットに入れていた。
そして。
一枚ずつ、
階段へ落とした。
水城。
澪。
九月。
午後六時。
死亡。
全部。
足元へ落ちていく。
「もう死亡通知はない」
スピーカーの女が笑った。
『紙を破っただけ』
「違う」
私は言った。
「ルールを破った」
沈黙。
「母も」
「三田村さんも」
「あなたも」
「みんな同じ」
人に二つしか選択肢を与えない。
自分が死ぬか。
誰かを差し出すか。
名前を戻すか。
消すか。
母を選ぶか。
娘を選ぶか。
「私はどっちも選ばない」
『そんな選択肢はありません』
「ある」
私は答えた。
「今、作った」
長い沈黙。
その瞬間。
午後六時。
旧病棟の時計が、
鳴った。
ボーン。
一回。
照明が消える。
「水城さん!」
真壁の声。
真っ暗。
そして。
地下だけ、
赤い非常灯がついた。
スピーカー。
女の声。
『死亡日時になりました』
私は、
生きている。
何も起きない。
『水城澪』
一拍。
『あなたの死亡は確認できませんでした』
私は笑った。
「でしょうね」
死亡通知は、
外れた。
いや。
違う。
私が、
外した。
『では』
女の声。
『最後の処理を開始します』
地下から、
機械音。
ガコン。
金庫のような、
重い音。
真壁が叫ぶ。
「地下に動きがあります!」
私は走った。
今度は止められても、
止まれなかった。
階段を降りる。
地下。
資料室。
扉が開いている。
中。
七脚の椅子。
榊原。
父。
佐伯。
柿崎先生。
由紀子。
そして、
三田村。
いつの間にか、
全員が集められていた。
六人。
空いている椅子が一つ。
私の席。
でも。
私は座らなかった。
中央。
古い金庫。
扉が開いている。
中には、
三つの箱。
そして。
一枚の紙。
黒い縁。
八枚目の死亡通知。
氏名。
水城千佳。
その下。
作成者。
初めて、
名前が書かれていた。
私は息を止めた。
その名前を、
知っていた。
ずっと探していた。
三人の娘のうち、
まだ本当の名前を持っていなかった人物。
スピーカーの女が、
私の背後で言った。
今度は、
録音ではない。
すぐ後ろ。
「やっと」
振り返る。
私と同じくらいの女。
スーパーの映像。
病院の写真。
十五年前の少女。
彼女は、
帽子を取った。
そして。
「最後の死亡通知を破ってくれた」
泣きながら笑った。
「これで」
彼女は言った。
「千佳の娘は、もう誰もいない」
私は、
その顔を見つめた。
似ている。
私に。
ひかりに。
そして、
若い頃の母にも。
女は、
八枚目を手に取った。
「だから今度は」
静かに言う。
「私たち三人の名前を、返してもらう」
最後の死亡通知を破った瞬間。
母が作った物語は、
終わった。
そして。
その先に隠されていた、
私たち自身の物語が――
ようやく始まった。
コメント
1件
いやあ、このエピソードはすごかった……! 澪が七枚目の死亡通知を「破る」瞬間、あの紙の裂ける音が脳裏に焼きつきました。ただの反抗じゃなくて、母が残した「最後だけ選ばせた」という選択肢すらも拒否して、自分でルールごと破棄した——その決断の重みと潔さに鳥肌が立ちました。そして由紀子が実は計画の共同立案者だったという衝撃、さらに地下に待つ「もう一人の娘」の登場。母・千佳の物語が終わり、今度は「三人の娘たち」自身の物語が始まる——このラストの余韻がたまらないです。続きが待ち遠しい!
350
82
#王子
すっこ
173
#主人公最強
杯雪乃
1,309