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夜の風が、冷たい。
遥は、手すりに触れたまま、動けずにいた。
(……静かだ)
昼間あれだけうるさかった声が、
暴言も、笑い声も、
全部、ここまでは追ってこない。
(やっと、何も聞こえない)
それだけで、少し楽になるのが怖かった。
(俺がいなくなれば)
(ちゃんと、整うんだ)
蓮司の声が、頭の奥で再生される。
――役割は終わった
――空気を良くする選択
(……そうだよな)
俺は、ずっと邪魔だった。
いるだけで、場を濁して。
黙っていても、見ているだけでも、
“気持ち悪い”って顔をされる。
(何もしなくても、悪い)
じゃあ、何をしても無駄だ。
(俺が悪いんだ)
そう思うと、楽だった。
誰かを恨まなくていい。
世界を疑わなくていい。
(俺が欠陥品なだけ)
幼い頃から、ずっとそうだった。
叩かれても、蹴られても、
嫌だと言えば、もっとひどくなった。
(耐えられるかどうかが、価値だった)
耐えられなくなった時点で、
もう失格。
(今まで、よく持った方だ)
そう言ってくれる人はいないけど、
自分で自分に言ってやらないと、
全部が無意味になる。
(助けて、って)
喉の奥で、その言葉が引っかかる。
(言ったら、どうなる?)
困らせるだけだ。
迷惑をかけるだけだ。
「またか」って思われるだけ。
(日下部も)
一瞬、顔が浮かぶ。
すぐに、打ち消す。
(もう、関係ない)
切られた人間が、
期待していい相手じゃない。
(俺は、ひとりで終わる)
それが、一番きれいだ。
怖くないわけじゃない。
でも、怖さよりも――
(これ以上、生きる方が怖い)
明日も、
教室で笑われて、
名前を呼ばれて、
物みたいに扱われて。
(それを“当たり前”として受け取る自分に)
(なりたくない)
最後くらい、
自分で選びたい。
(……もう、いい)
手に、力が入る。
そのとき。
背後で、
微かに、足音がした。