翌朝。
陽和は鎧を着たまま宿の外に出た。
朝の空気は冷えていたが、鎧の中は少しだけ暖かかった。自分の能力のせいなのか、単に動きにくいだけなのかは分からない。
歩くたびに金属が鳴った。
ぎし、ぎし、と音がする。
ミナが後ろから言った。
「音で位置が分かる勇者ってどうなの」
陽和は言った。
「外していいですか」
レオルが即座に言った。
「だめです」
迷いがなかった。
「昨日の戦いで証明されました」
証明された覚えはない。
フィルがうなずいた。
「勇者様は守護されております!」
陽和は言った。
「鎧にですけどね」
町の通りに出る。
人が少しずつ動き始めていた。
何人かがこちらを見る。
視線が集まる。
そして気付く。
ひそひそ声が聞こえた。
「勇者様だ」
「昨日のゴブリンを」
「倒したらしいぞ」
陽和は足を止めた。
「違います」
誰に言ったのか分からなかった。
通り過ぎる老人が頭を下げた。
「ありがとうございました」
陽和は言った。
「転んだだけです」
老人は笑った。
「謙虚ですな」
通じなかった。
ミナが言った。
「説明は諦めなさい」
レオルが言った。
「勇者様の戦いは皆が見ていました」
陽和は言った。
「倒れてたところですか」
レオルは真顔だった。
「前線でした」
違うと思う。
そのまま四人は冒険者ギルドに入った。
木の扉が重かった。
中は朝の光が差し込んでいて、人はまだ少なかった。
受付の女性が顔を上げる。
鎧姿の陽和を見ると姿勢を正した。
「勇者様ですね」
陽和は少し慣れてきていた。
「はい」
受付は帳簿を開いた。
羽ペンを取る。
「昨日の討伐の記録を行います」
陽和は言った。
「えっと」
受付は書き始める。
さらさらと音がする。
「ゴブリン三体討伐」
レオルがうなずいた。
「間違いありません」
受付が言った。
「参加者四名」
陽和は言った。
「いや」
受付は顔を上げた。
「はい?」
「自分は戦ってません」
受付は首をかしげた。
「勇者様は戦闘区域におられましたよね」
「いましたけど」
「では参加です」
早かった。
ミナが言った。
「基準がゆるいわね」
フィルが言った。
「勇者様の存在が勝利を導いたのです!」
受付がうなずいた。
「そのように報告を受けています」
誰が報告したのかは分かっていた。
レオルだった。
レオルは真剣な顔で言った。
「勇者様は前に立たれていました」
陽和は言った。
「倒れてましたけど」
レオルは言った。
「敵の攻撃を受け止めました」
それは事実だった。
だが自分の意思ではない。
受付は書き続けた。
「勇者候補 陽和」
さらさらと音がする。
「戦闘参加確認」
陽和は帳簿を見た。
確かに書いてあった。
きれいな字だった。
陽和は言った。
「確認されたんですか」
受付は言った。
「はい」
理由は分からなかったが、確定したらしい。
受付はさらに書いた。
「報酬をお渡しします」
小さな袋が置かれた。
四つ並ぶ。
陽和は言った。
「もらっていいんですか」
受付は言った。
「参加者全員に支給されます」
ミナが言った。
「存在給ね」
フィルが言った。
「当然です!」
レオルが言った。
「勇者様の働きです」
陽和は袋を持った。
軽かった。
しかし、妙に重く感じた。
ギルドを出る。
外はもう明るかった。
レオルが満足そうに言った。
「これで正式な戦闘記録が残りました」
陽和は言った。
「初めてなんですけど」
レオルは言った。
「はい」
まっすぐだった。
フィルが言った。
「伝説の始まりです!」
ミナが言った。
「ぬるい伝説ね」
陽和は歩いた。
鎧が鳴る。
ぎし、と音がする。
陽和はまだ一度も戦っていない。
それでも。
戦ったことになっていた。






