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夕方。
四人は町外れの小さな宿に入った。
木の看板が風で揺れていた。扉を開けると、暖炉の火が弱く燃えているのが見えた。
宿の主人が顔を上げる。
鎧姿の陽和を見ると、少し目を見開いた。
「勇者様ですか?」
陽和は言った。
「候補です」
主人はうなずいた。
「同じようなもんです」
基準がよく分からない。
レオルが前に出る。
「四人部屋はありますか」
主人は言った。
「ありますとも」
少し間を置いて、
「勇者様なら歓迎です」
すでに決まっているらしかった。
階段を上がる。
鎧が鳴る。
ぎし、と音がする。
ミナが言った。
「宿中に位置が伝わるわね」
陽和は言った。
「外していいですか」
レオルが言った。
「だめです」
迷いがなかった。
部屋に入る。
四つの簡素なベッドが並んでいた。
窓の外は暗くなり始めている。
石の壁は冷えていた。
陽和は椅子に座った。
鎧が重かった。
しばらくすると、ミナが言った。
「……あれ」
窓の近くに立っていた。
「さっきより寒くない」
レオルも手をこすりながら言った。
「確かに暖かいですね」
フィルがうなずく。
「祝福です!」
陽和は言った。
「たぶんそうです」
はっきりとは分からないが、周囲の空気が少しだけ柔らかくなっている気がした。
外は冷えているはずだった。
しばらくして扉が叩かれた。
主人だった。
「失礼します」
中に入る。
一歩踏み込んだところで止まった。
少し考える顔をした。
そして言った。
「やっぱり暖かい」
確認に来たらしい。
部屋の中央まで来て、手をかざす。
しばらく黙る。
うなずく。
「暖房いらんな」
陽和は言った。
「そうですか」
主人は言った。
「宿代半分でいいです」
陽和は少し考えた。
「なぜですか」
主人は言った。
「薪が減らん」
現実的だった。
ミナが言った。
「ついに役立ったわね」
陽和は言った。
「戦闘以外でですけど」
フィルが言った。
「生活を守るのも勇者の役目です!」
初めて聞いた。
主人は満足そうに言った。
「冬は大歓迎だ」
そう言って出ていった。
扉が閉まる。
しばらくしてまた叩かれた。
今度は知らない男だった。
「すみません」
顔だけ出す。
「少し扉開けておいてもらえませんか」
ミナが聞いた。
「なぜ?」
男は言った。
「廊下が暖かくなるんで」
陽和は少し驚いた。
そんなに広がるのか分からない。
レオルが言った。
「構いませんよ」
男は頭を下げた。
「ありがとうございます」
扉が少し開けられる。
冷たい空気が入る。
しばらくすると、それも少し和らいだ。
ミナが言った。
「暖房扱いね」
フィルが言った。
「聖なる温もりです!」
陽和は言った。
「宿の設備みたいですね」
夜。
寝る準備をする。
陽和は鎧を着たままだった。
レオルがうなずく。
「安心です」
ベッドに入る。
しばらくして気付く。
三人とも近かった。
隣のベッドとの距離が妙に短い。
陽和は言った。
「近くないですか」
ミナが言った。
「半径三メートル以内で一番暖かい場所よ」
フィルが言った。
「聖域です!」
レオルが言った。
「よく眠れそうです」
陽和は天井を見た。
暖かかった。
少しだけ。
陽和の祝福は、初めてはっきり役に立った。
戦闘ではなく、
宿代の面でだった。