その後、女性三人が自己紹介をした。
その中で、千尋が連れて来た女性は、千尋の大学時代の友人だということがわかった。
名前は桜田香(さくらだかおり)、37歳。彼女もバツイチで子供はいない。
「じゃあ、このバツイチメンバーの中で、子供がいるのは、葉月と宮本さんだけかぁ」
社長の宮本には、高校一年生の娘がいるようだ。
(千尋ったら……思春期のお嬢さんがいる相手で大丈夫なのかなぁ?)
葉月は自分のことよりも千尋のことが気になっていた。
千尋と宮本が話しているのを見ると、まるで長年連れ添った夫婦のようにとてもしっくりくる。
だからなおさら心配だ。
その時、葉月の向かいに座っている舟木が話しかけてきた。
「芹沢さんは損害保険会社で働いているんですよね?」
「はい。事故受付のオペレーターをやっています」
「そうなんだ。交通事故って結構多いんですか?」
「高齢化社会なので、今は結構増えていますねぇ」
「なるほどね。僕は車には乗らないのであまり実感がないけど、増えてるんだ」
葉月は一瞬、耳を疑った。
「え? 運転はされないんですか?」
「はい。免許も持っていませんから」
葉月はさらに驚いた。
(お仕事上、現場に行ったりしないのかな?)
疑問に思った葉月は、舟木に質問をしてみる。
「エクステリア系のお仕事だったら、外に出る事も多いのでは?」
「もちろん。その時は会社の子に運転してもらいます。でも8~9割は内勤ですけどね」
舟木は穏やかに言った。
(車乗らない人は無理かも……)
葉月は小さくため息をついた。
舟木の穏やかで知的な感じには好感が持てたが、舟木が車に乗らない事を知って一気にテンションが下がる。
もしパートナーが出来たら、葉月にはささやかな夢があった。
それはパートナーが運転する車の助手席で、居眠りをする事だ。
離婚後葉月は、息子の人生の舵から車のハンドルまで全て一人で握ってきた。
だからパートナーが出来たら、ほんの一瞬でもいいから全ての舵やハンドルから解放されたいという願望がある。
その時、葉月達がいる半個室スペースに店のスタッフが入って来て、申し訳なさそうにこう告げた。
「店内が混雑してまいりましたので、お隣のテーブルにもう一組ご案内してもよろしいでしょうか?」
するとリーダーシップのある宮本がすぐに答える。
「全然問題ないですよ、どうぞ」
「恐れ入ります」
スタッフは礼を言うと、後ろに控えていた男性三人を中へ案内した。
「「「すみません、お邪魔します」」」
三人は軽く会釈をしながら隣の席に着いた。
葉月が三人の方をチラリと見ると、30代の男性三人組だった。
二人はわりときちんとした格好をしていたが、一人だけジーンズにパーカースタイルのカジュアルな服装だ。
三人とも爽やかなイケメンで、つい見とれてしまう。
慌てて葉月が視線を前に戻すと、そこには少し色褪せた40代のバツイチ三人が座っている。
(ああっ、隣にいる若さ溢れる爽やかなイケメンのせいで、彼らが霞んで見えるわ……)
その時葉月は千尋と目が合った。
おそらく千尋も同じことを思ったのだろう。しきりに葉月に目で訴えかけてくる。
『超ピッチピチじゃん!』
『だよね、おまけにイケメン揃い』
『うちらの前にいる男達が霞むからヤメテ~~~』
『笑』
目と目で会話をした後、二人はすまし顔に戻る。
その時、新たに三人の若い女性が半個室スペースに入って来た。
「「「遅れてごめんなさーい」」」
20代後半くらいの綺麗な女性三人組は、葉月達のテーブルを通り過ぎて若者達の前へ座った。
(あぁ、あっちはピッチピチの若者未婚同士の合コンかぁ)
そこでまた千尋と目が合い、同時に苦笑する。
その時、香が葉月に話しかけてきた。
「葉月さんのお子さんは今中学二年生なんですよね? 反抗期とかって大丈夫なんですか?」
その会話に男性陣が乗ってきた。
「中学二年なら中二病だろ?」
「おおっ、色々こじらせる時期ですねぇ」
「もしかして毎日親子喧嘩勃発とか?」
そこで葉月が答えた。
「去年までは反抗期が酷かったんですけど、最近は趣味に夢中ですっかり腑抜けてますよ」
「趣味ってどんな趣味?」
「あ、写真です。一眼レフカメラを買ってから、毎日撮りに行ってますね」
すると河内が言った。
「俺のサーファー仲間にも写真が趣味の奴いますよ。そいつはもっぱら風景写真ばっかりだけど」
「へぇ、そうなんですねー。ちなみにうちの子も最初は風景ばっかりだったんですが、最近は少しレアな方向に傾いちゃって……」
葉月が言葉を濁すと、今度は舟木が言った。
「偶然ですね! 実は僕も写真が趣味なんですよ」
「えーっ、そうなのぉ~~~?」
千尋がわざとらしく声を上げる。どうやら千尋が葉月へ推したいのは、舟木らしい。
仕方なく葉月は舟木に聞いた。
「どんなものを撮られるんですか?」
「色々ですね。風景、人物、植物、建築物、あ、飛行機なんかもたまに」
「えっ? だったらアレ知ってます?」
「アレ?」
「えっと、なんて言ったかな……あっ、そうそう『流し撮り』っていう方法?」
「『流し撮り』? なんですかそれ?」
宮本が話に首を突っ込んでくる。
「なんかそういう撮影方法があるらしいんですが、何度やっても上手くいかないって息子がブツブツ言ってたんで」
すると舟木が答えた。
「その方法は聞いたことがありますね。でもごめんなさい、やり方まではわからないなぁ」
「ですよね。すみません、変な事を聞いちゃって」
「お役に立てず申し訳ない」
そこでサーファーの河内が葉月に聞いた。
「芹沢さんの息子さんは、その『流し撮り』とかいう方法で何を撮ってるの?」
「電車です」
「おーっ! 息子さん、鉄ちゃんだったのかぁ」
「撮り鉄君?」
「撮り鉄って言うほど鉄道に詳しくはないんですけど、たまたま近所に江ノ電が走っているので、練習で撮っているうちにハマっちゃったみたいで」
「なるほど」
男性陣はうんうんと頷く。
その時、葉月のすぐ隣に座っていた男性が、葉月達の会話を聞いていた。
男性の名は、桐生賢太郎(きりゅうけんたろう)、34歳。
賢太郎はその若さで、既に著名な鉄道写真家としての地位を築いていた。
そう、賢太郎は、先日葉月が事故の受け付けをした『フリーランス』のあの男性だ。
もちろん賢太郎は、今、葉月達が話していた『流し撮り』には詳しい。
自身の写真にもその技法はよく使われている。
賢太郎が『流し撮り』で撮った夜行列車の写真は、有名な賞を取ったこともある。
しかしここで自分がでしゃばるのもおかしいだろうと思い、賢太郎はただ黙って聞いていた。
その時、賢太郎の前にいる清楚な女性が言った。
「賢太郎さんは、また写真集を出すって本当ですか?」
その言葉は葉月の耳にも入ってきた。
(賢太郎? なんかどっかで聞いたような……それに写真集? ってことは、この人プロの写真家なの?)
気になった葉月は隣の会話に聞き耳を立てる。
「うん。今、神奈川県内を回って撮ってる最中ですよ」
「すごーい! 発売はいつ頃ですか?」
「うーん、早くても年末か年明けくらいかなぁ?」
「そうなんだ! 私絶対買いますねっ!」
「ハハッ、ありがとう。でも無理しないで……」
賢太郎は穏やかに微笑むとワインを一口飲んだ。
その仕草を盗み見ていた葉月は、こんな風に思った。
(超イケメンだわ! 三人の中では一番かも? でも写真って一体何を撮っているんだろう? あれ? そう言えば、この前事故受付をした人も、確かカメラマンだったような……。なんか最近身の周りにやたらとカメラマンが多いわね……)
葉月は心の中でそう呟くと、再びバツイチメンバーとの会話に戻っていった。
コメント
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わぁ~‼️別の合コングループで、お隣のテーブルに賢太郎さん👀‼️ お互い、隣のテーブルの会話が気になっているようですが....🤔 お近づきになれるのは一体いつかなぁ⁉️
まさかのニアミス🤭 ここからどうなっていくのか楽しみ〜
合コンで同じ空間に別の合コン集団が座ってると気になるよね👀 賢太郎さんと隣り合わせになるなんて奇遇だわ! これからの展開に期待しちゃう❤