俺のいない時に従兄弟殿に会って、何を聞いたのかと問い詰めるつもりだった。
そもそも、夜、俺以外の男と二人きりで会うこと自体が問題だ。
椿に、そこら辺の意識を改めさせようとカフェの窓を叩いたのに、なぜ俺が彼女の顔色を窺っているのか。
険しい表情でカフェから出て来た椿は、俺の腕を引いて足早に、勇ましく、家までの道のりを無言で歩いた。
そして、帰るなり言った。
「お風呂に入りましょう!」
椿と一緒に風呂に入ったことはない。
二つ返事で頷けばいいものを、俺はなぜかできなかった。
「どうぞ」
何を言っているのだと自分にチョップでもしてやりたいが、本能的にこれは悪魔の誘惑だと思ったのだ。
「お湯張るな。先に――」
「――一緒に入るんです!」
「……はい」
俺の恋人は、なぜ恋人を風呂に誘うのに胸の前で拳を握っているのだろう。
非常に気になったが、俺は気持ちを切り替えた。
椿という女は、俺の知る女に当てはめてはいけない。
椿が先に入り、髪と身体を洗い終えてから呼ばれた。
意気揚々と誘ったくせに、俺が入ると、バスタブの中で膝を抱えて壁を睨んでいる。
俺は髪と身体を洗って、バスタブに浸かった。
「ふーーーっ」
一息つき、一向に俺を見ない椿の首筋に指を這わせた。
洗い髪をまとめ上げていて、うなじから肩のラインが色っぽい。
「椿から誘ったくせに、放置?」
「……こっ、んなに恥ずかしいとは思いませんで」
バスタブの縁に肘を立て、拳でこめかみを支えるように頭を預ける。
ぽちゃんと水滴が垂れる音と、俺たちの息遣いが風呂場に響く。
「ベッドで裸は平気なのに、風呂じゃ恥ずかしいの?」
「ベッドでも恥ずかしいです」
「ホント?」
「それより!」
椿が顔を上げ、それでも壁を見たまま俺に寄って来る。狭いながらも足を広げると、間に身体を収めてきた。
「椿?」
バックハグを求められているのかと手を回す。
「おっぱいを! 揉みますか!?」
「はい!?」
椿がおかしい。
最近では、求めれば応えてくれるが、こんな風に誘うような挑むような言動は初めてだ。
「揉ん……で欲しいのか?」
何かの罠かと警戒しつつも、彼女の肩越しに見える、膝に押し潰されたおっぱいから目が離せない。
「そう……ですね! はい! 揉んでください!」と言うと、彼女は抱えていた膝から手を離して足を伸ばした。
やはり、おかしい。
が、お湯に浮かぶまあるいおっぱいに罪はない。
「じゃあ、遠慮なく」
俺は両手でしっかと持ち上げるように、彼女の白い肌に指を沈めた。
「ん……」
椿の甘い声が響く。
指を動かす度に、湯が揺れる。
椿が、何か考えて俺を誘っているのはわかったが、どうでも良くなった。
無防備なうなじに噛みつくように吸い付いた。
片手で胸を揉みしだき、片手は腹をなぞって降下する。
「あっ……、ん……」
茂みの奥の唇を指で擦り上げると、椿の腰が揺れた。
「こっち向いて」
耳朶を咥えながら囁く。
が、椿は俺を見ようとしない。
「椿……?」
頭をもたげて鎖骨ら辺にキスを落とすと、振り返る代わりに後ろ手に俺の猛りを握られた。
「おいっ!?」
おっかなびっくりに触られ、扱かれ、気持ちいいと言うよりはくすぐったい。
「シたい……ですか?」
「ん? うん」
「ダメです」
「へっ!? なんで?」
乳首をくりくりと捏ね回すと、椿がぐったりと俺にもたれ掛かってきた。
「彪……さ――」
「椿!?」
「駆け引きって……難しい……デスネ」
駆け引き!?
はぁっと艶めかしく息を吐いたかと思えば、椿はそのままずるずるとお湯に身体を沈めていく。
「椿? おいっ!?」
彼女の肩を掴んで抱き起すと、浅い息を繰り返していた。
逆上せたようだ。
俺は椿を抱き上げて風呂を出ると、バスタオルに包んでベッドに運んだ。
口移しで水を飲ませ、ドライヤーを持って来て濡れた髪を乾かす。
駆け引き……って。
椿には最も不得意なことの一つだろう。
それでも、こうして慣れない誘惑までしたということは、なにか、俺に頼みがあるということ。
それが何か、大方の見当はついている。
俺はもう一口水を飲ませると、椿の身体を抱き締めて眠った。
「駆け引きは、目が覚めたらな」
どうせ、勝てやしない。
ならば、せめて、俺のたった一つの願いを引き換えにしようと思う。
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