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「……おまえさ、今日、日下部に何言われたの?」
シャツを脱ぎかけた蓮司が、ベッドの端に腰を下ろしながら問いかけた。
遥は答えない。部屋の隅に立ったまま、何もしていない手が、そっと爪を握っていた。
「泣いてたって、言われた?」
ピクリと肩が動いた。
図星だった。蓮司は、それが嬉しくてたまらなかった。
「演技、下手すぎるんだよ。前から思ってたけどさ──今日のは特に、酷かった」
「……」
「自分で気づいてないわけ?」
遥はやっと顔を上げたが、まっすぐ蓮司を見られなかった。
その視線の泳ぎ方が、また蓮司にはたまらなかった。
「別にいいけど? バレてるならバレてるで、ちゃんとやれよ。嘘でも“好き”って言うなら、それなりに見せてみろよ。じゃなきゃ──日下部、信じないままだろ?」
その名前に、遥の唇がかすかに開き、すぐ閉じた。
「……わかってるよ……」
「へえ。なら──言ってみ?」
蓮司がベッドに背を倒すと、遥がようやくゆっくり近づいてきた。
どこか、儀式のように。
「……好き。俺、蓮司のこと……」
「嘘」
蓮司は笑った。
「演技、下手すぎ。声、震えてんじゃん」
遥の顔が引きつる。
「ていうか、おまえさ、自分で“本気じゃない”って思ってんのに、何でこんなこと続けてんの?」
その言葉に、遥の体がふっと止まった。
──自分でも、わからなかった。
「……わかんないよ……」
遥が絞り出すと、蓮司は起き上がり、遥の顎を掴んだ。
「だよな。けど、おまえ──日下部にだけは、信じてほしいんだろ?」
「……」
「“蓮司のこと好きで、付き合ってる”って──そう思わせたいんだろ?」
遥は頷く。ぎこちなく、必死に。
「じゃあさ、ちゃんと身体でも証明してもらわないとな。
今日の“演技”のぶん、きっちり“本気”で、清算しようぜ」
蓮司が囁くと、遥はその場で膝をついた。
──命令されたわけでもない。ただ、それが「役割」だと思っていた。
蓮司はその動きを見ながら、目を細める。
「……ほんっと、バカで可愛いよな、おまえ」
どこか、哀れむように。
けれどその手は容赦なく、遥の髪を掴んだ。
「嘘を本当にしたいなら──壊れるくらい、ちゃんとやれよ」
遥の喉が震えた。
それでも唇は開く。
“自分でも本当か嘘か分からない言葉”を、
“壊れて見えるように丁寧に”演じるために。