テラーノベル
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みぅ 。
夜。
ファミレス。
閉店まで一時間。
客は少ない。
沙耶香はストローを回しながら、窓の外を眺めていた。
「学校」
ぽつりと言う。
蓮司は顔も上げない。
「どう?」
「普通」
「普通になった?」
「見た目は」
沙耶香が笑う。
「見た目だけ」
「うん」
少し沈黙が落ちる。
店内のBGMだけが流れていた。
「遥」
「うん」
「最近どう?」
「静か」
「へぇ」
それだけ返す。
興味がないわけではない。
聞けば蓮司が話すことを知っているから、急がない。
「この前」
沙耶香が氷を鳴らす。
「屋上のあとも、静かだった」
蓮司は小さく頷く。
「ああ」
「あの時は間に合ったね」
「うん」
「よかった?」
蓮司は少しだけ考える。
「どうだろ」
「曖昧」
「そう?」
「珍しい」
蓮司は笑う。
「別に救われたとは思ってないから」
沙耶香は頷く。
「それもそう」
二人の間では、その言葉だけで通じる。
助かったことと、救われたことは違う。
そんな話は、前にもした。
「最近は?」
沙耶香が聞く。
「耐えてる」
蓮司は短く答える。
「まだ」
「まだ?」
「うん」
また氷が鳴る。
沙耶香はグラスを置いた。
「日下部」
「うん」
「最近よく見てる?」
蓮司は否定しない。
「見てるね」
「気づいてる?」
「半分くらい」
「残り半分は」
蓮司は肩をすくめた。
「そのうち」
沙耶香は笑う。
「かわいそう」
「うん」
「知らないまま必死だ」
「そうだね」
「教えないの」
「教えない」
即答だった。
「なんで」
「その方が自分で気づくから」
沙耶香は少しだけ目を細める。
「趣味悪い」
「今さら?」
「そうだった」
二人とも笑う。
長くは笑わない。
静かに止む。
席を立つ前。
沙耶香が最後に聞く。
「全部気づいたら?」
蓮司は伝票を取りながら答えた。
「そこから、始まる」
「何が」
蓮司は伝票をひらりと振る。
「全部」
その言葉だけ残して歩き出す。
沙耶香は何も言わず、その背中を見送った。店を出る二人の間には、次に何かが動き出すことだけを予感させる静けさが流れていた。
コメント
1件
ええ、第56話、読ませていただきました。短いやり取りのひとつひとつに、沙耶香と蓮司の間に積み重ねられてきた時間と信頼が感じられて、とても好きな空気感でした。特に「助かったことと、救われたことは違う」という部分、言葉にしないと通じないことが多いこの世界で、二人だけの共通言語ができているのが素敵だなと思いました。それにしても「全部気づいたら、そこから始まる」という蓮司の台詞——あれは本当に、胸の奥に引っかかるものがありますね。続きが気になります。