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岡崎社長との通話を終え、子供達の元に戻ろうとして――、ギクリとして私はその場で立ち止まっていた。
背中にドッと冷や汗があふれ、両手両足の先から血の気が引き、氷のように冷たくなってゆく。息があがり、鼓動が激しくなり、気が遠のきそうになる。
私がそこに見たのは、決して醜悪な化け物なんかじゃない。むしろ、その逆だ。
いくつものボンヤリとした光を内に宿した灯篭が流れる、夕暮れに赤く染まった川。
そんな儚くも幻想的な景色を背景に、二人が――マキオとキミカちゃんが、それぞれ手ごろな石の上に腰を下ろしていた。
ナイショ話をしているらしく、二人は互いの耳元に口を近づけ、何事かをささやき合っている。絵にかいたような仲睦まじさ。とても、お互い初対面とは思えない。知らない人が見れば、本当の姉弟だと誤解するかもしれない。
母親としては、キミカちゃんに感謝するべきなのだろう。
本当なら自分の友達と遊んでいたいだろうに、一日中、私達親子のために街を案内してくれただけでなく、決して気難しくないとは言えない息子の面倒まで見てくれているのだから。
それなのに私は――たまらないほどの嫉妬を覚えていた。自分とは一回り以上も年齢差がある女の子に対して。
「あ、ミサキさん」
マキオと抱きしめ合っていたキミカちゃんがこちらに気がつき、片手をふってくる.
「電話、大丈夫やった?」
「ええ、何とか……」
足元で砂利がやたら大きな音を立てているのを感じながら、私は二人に近づいてゆく。
口もとを緩ませ、何とか笑顔をつくろいながら。
「この後、どないする? 堀口台のほうに行けばまだ回ってないとこ、あると思うけど……」
「ごめんね、キミカちゃん」
マキオの手を取り、自分のほうに引き寄せながら私は言った。
「今日はあちこち案内してもらって本当に感謝しているんだけど、私達はそろそろ……」
「あ、そっか。……マー君だって、疲れてるやんな」
にっこり笑ってキミカちゃんが言葉を続ける。
「ほな、ホテルまで案内しよか? 確か『ふもと』やったっけ?」
「い、いや、そこまでしてもらわなくても――。スマホのアプリを見れば、帰り道は分かるし……」
「そっかー。……ほな、マー君。しっかり、宿に帰るまでお母さん守ったげてや」
「うん。わかった」
屈託のない笑顔のまま、マキオとハイタッチをするキミカちゃん。
やっぱり、この子はいい子だ。多分、私がこれまでただの一度も出会ったことがないぐらいいい子だ。なのに、どうして私は――。
「じゃ、じゃあ、また明日よろしくお願いします――」
挨拶もそこそこに私はマキオの手を引き、そそくさとその場から離れだした。
女の子を一人で夜道を帰すべきではないと言う普段なら当たり前の考えも一切湧いてこなかった。
一秒でも早くこの場所から、いや、あの子から離れなければ。でなければ、この狂気じみた想いに飲み込まれ、私は何をするか自分でもわからない。
あの子、塚森キミカは危険だ。
このままじゃ、マキオを、息子を、塚森キミカに奪われる――。
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