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散らかったソファと、薄暗い照明。香水でもない、生活臭とも違う、どこか“人を滲ませる”匂い。
蓮司は遥の首元を指先でなぞりながら、
「さっきの“恋人発言”、俺にも教えてよ」と、笑って言った。
遥はベッドの端に座っている。
着ていた制服のシャツは、既に脱がされて、胸元は晒されている。
「……教えることなんて、ない。
ただ、言えば“効く”かなって思っただけ」
蓮司は一瞬沈黙し、そして声を立てずに笑った。
そのまま遥の顎を持ち上げるようにして、唇すれすれの距離に顔を寄せた。
「効いたよ。めちゃくちゃに。日下部、すげぇ顔してた」
遥は目を伏せた。
手の甲に爪が食い込んで、白くなる。
「……それだけ、だよ」
「嘘だな」
蓮司の声が、低く潜った。
「おまえ、あのとき──“選ばれたかった”んだろ。
“誰かのもの”として、他のやつらに示されることが、嬉しかったんだろ?」
遥の呼吸が、ひとつ乱れる。
「違う……そんな、わけ……」
「じゃあ、証明してよ」
蓮司は遥の手首をつかみ、背中から抱きすくめるように倒した。
耳元で囁く。
「“本当に嬉しくなかった”なら、今ここで、声出すなよ?」
遥の喉が震えた。
蓮司の指が、肌をなぞるたびに、思考が濁っていく。
「……もう、“感じるふり”じゃ、俺、許さないから」
「感じてなんか、ない……っ」
「じゃあ、こっちも演技かどうか、試させてもらう」
蓮司の唇が、遥の肩口に落ちてくる。
そのまま、骨のラインを辿るように、舌が這う。
遥は歯を食いしばる。
逃げたいのではない。
“逃げる選択肢”を、自分で奪ってしまったことに、気づいている。
(「付き合ってる」なんて、言わなければ──)
(でも、言わなきゃ、日下部に──)
「ほんと、可愛いな。壊れかけてんのに、まだ自分を守ろうとしてる」
蓮司の指が、遥の太腿に滑る。
触れられるたびに、遥の身体が“反応してしまう”。
「……ほんとは、欲しいんだろ? “そういう目”で見られるの。
“使われる”の、嫌いじゃないんだろ?」
遥の口が、かすかに開いた。
返す言葉が、出てこない。
──言葉にしたら、もう戻れない。
けれど蓮司は、遥の表情から、すべてを読み取る。
「それだよ」と、満足げに笑った。
「……壊れるまで、教えてよ。“俺の彼氏”が、どんなふうに演技するのか」
そう言って、蓮司は再び、遥の体に口づけを落とした。
遥は、笑おうとした。
演技だと、示したくて。
“壊れてない”と、言い訳したくて。
けれど、その笑顔は、すでに崩れていた。