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バーナーの火が小さく唸っている。日下部が真面目に、クッカーの鍋をじっと見ていた。
遥「……インスタント味噌汁、焦げねえの?」
日下部「わからん。でも底、焦げそうな音してる」
蓮司「ていうか、焦げるほど温めんの? もうお湯でいいじゃん。味噌汁に情熱かけすぎだろ」
遥「……クソ真面目すぎて逆に怖い」
日下部「飲むだろ? どうせ」
遥「……まあ」
蓮司「はいはい、日下部の飯はだいたい“無言で全員に配られる”から怖いんよ。気ぃ使ってんのかと思ったら、ただの習性っていう」
遥「“いつもこうしてる”って顔、してるな……」
日下部「……してねえ」
蓮司「じゃあなんでサバ缶持ってきてんの? 朝に?」
日下部「非常食だ」
遥「どこの遭難想定してんだよ……」
湯気のたった味噌汁を、日下部が3つのカップに黙って注ぐ。
黙って差し出して、黙って座る。
蓮司「……あー、なんかこれ、合宿の朝って感じ。味噌汁の温度だけはちゃんとしてるのが腹立つ」
遥「しょっぱいな、これ」
日下部「普通だと思うが」
蓮司「遥、昨日夜中ずっと外いたせいで味覚狂ってんじゃないの。寒さでバグった味覚の人だ」
遥「……寒くても味覚は狂わねーよ。たぶん」
蓮司「“たぶん”なんだ。かわいいじゃん」
遥「うるせぇ」
朝の空気はもうだいぶ軽くなって、テントの向こうから他のグループの笑い声が響いてきた。
蓮司「あー、あっちはリア充キャンプだな〜。朝からパンケーキ焼いてる。きらっきら」
遥「……ああいうの、どうしてんの?」
蓮司「え? 俺? 無言で帰るね、あれ。見なかったことにして」
日下部「俺は混ぜてもらう」
遥「……嘘だろ」
蓮司「こいつまじか……」
日下部「パンケーキ食いたいし」
湯気と共に、少しだけ笑い声が混じった。
変に馴れ合わないまま、それでも誰も席を立たなかった。
それがこの3人の“朝”だった。