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百はな🍑
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「――消えた……っ!?」
ガイアの驚愕の声が、誰もいない空間に虚しく響いた。現在という時間の座標から一時的に外れ、世界から数秒間姿を消した僕のステルス空間。姿が見えない今の状況なら、近接戦闘が苦手なガイアは、どこから攻撃が来るか絶対に分からないはずだ。
それに、僕の予想が正しければ、環境を書き換える『血の契約』には、一度効果が切れてから次に発動するまでに、多少のインターバルが必要なはず。現に、さっきみたいに周囲の石ころに血をあらかじめ付着させるような予備動作も、今の奴はしていない。
(もらった。この近距離なら、一撃で無力化できる――!)
無音の空間を滑るように肉薄し、ガイアの喉元へ向けて拳を突き出した、その刹那。
「――これなら、行けると思った?」
姿が見えないはずの僕の瞳の前に、ガイアの冷酷で美しい顔が正確に向き直った。男勝りな凄みすら帯びた女王の冷笑。
ガチィィインッ!!!
突如として、僕の目の前で重ね合わせていたはずの『過去の影』と『未来の影』が、不自然な物理的衝撃によって強硬に左右へと引き離された。
「な――っ!?」
時間の重なりを強制的に引き剥がされたことで、座標消失のシステムが完全に崩壊を起こす。世界へ強制的に引き戻された僕は、完璧にバランスを崩して宙に浮いた。
がら空きになった僕の胸元へ、ガイアの鋭いカウンターの拳が突き刺さる。それと同時に、僕の背後の『アスファルトの地面』が、奴の血を吸ったままの四角い形状のまま巨大な手のひらのように跳ね上がり、僕の身体を容赦なく挟み込むようにして地面へと叩きつけた。
ドガァァアンッ!!!
「あ、ぐっ……、は、あ……っ!」
濡れた路面に叩きつけられ、口から鮮血が飛び散る。全身の骨がきしむ激痛の中で、僕は信じられない思いで上空を見上げた。なぜ、世界から消えていた僕の座標がバレた。なぜ、重なっていた影を外側から引き剥がすなんて芸当ができた。
ガイアはドレスの裾を揺らしながら、冷徹な瞳で僕を見下ろした。
「影を重ね合わせた極小のブラックホール。……それに私が、さっき『自分の血』を与えたのを忘れたのかしら?」
(――あ……っ、まさか……!)
「影を重ね合わせる前に、ちゃんと私の血を拭き取ってあげないとダメじゃない」
ガイアはクスクスと妖しく笑いながら、地面に這いつくばる僕を見下ろした。
「教えてあげるわ。私の『血の契約』はね、生物や人間といった生命体には効果がないの。だから貴様自身の肉体を奴隷にすることはできない。……でもね、レイ。お前の『影』は、生物でも人間でもないでしょう?」
影を依り代にして時空を支配していた僕の能力が、その無機物であるという性質を突かれて、完全にガイアの支配下に上書きされてしまっていたんだ。
打つ手なし、か……。僕の手札をすべて解体され、僕は濡れたアスファルトの上で息を詰まらせた。
「ふふ、絶望しているかしら? なら、もう一つヒントをあげるわ。私が同時に操れる環境は、二つまでよ」
ヒントを与えられたところで、今の僕にはどうすることもできない。さっき僕の胸元に突き刺さったガイアのカウンターの拳。その威力自体は、これまでに戦ってきたどの覚醒者たちの物理攻撃よりも遥かに弱かった。拳の軌道も、ただの素人の殴り方だ。
でも、そもそもその華奢な肉体に、1ミリも近づくことができないんだ。近づこうとした瞬間に、周囲のすべての景色が牙を剥いて僕をハメ殺しにくる。
僕は魂の底から、冷徹な『恐怖』が背筋を駆け上がるのを体感した。勝てる未来が見えない。
(……また、僕の影に血を付けられたら、その瞬間に僕の座標はすべて奴の手のひらの上に上書きされる。もう、安易に影を出すことすらできない……!)
能力そのものを封じられ、逃げ道を完全に消された僕の目の前で、ガイアは容赦なく手のひらの傷口から大量の鮮血を絞り出した。男勝りな凄みを帯びた女王の腕が、鋭く一閃される。その血が降りかかったのは、僕たちの両サイドにそびえ立つ、二つの巨大な高層ビルだった。
軋み、弾け、コンクリートと鉄骨の塊が物理的な悲鳴を上げる。左右に佇んでいた強固な建造物が、自重をへし折りながら同時に動き出し、まるで二匹の巨大な大蛇が獲物を挟み込もうとするかのように、白昼の空を覆い尽くしながら僕の頭上へと迫ってきた。視界が完全に遮られ、街の光が消える。左右から押し寄せる、数万トンという無慈悲な質量の暴力。
視界が完全に遮られ、街の光が消える。左右から押し寄せる、数万トンという無慈悲な質量の暴力。ガイアはドレスの裾を激しく風に揺らしながら、冷徹な美しい瞳で、動けない僕をじっと見つめていた。
「さよなら、哀れな反逆者」
◆
少し離れた崩壊した街並みの陰で、ワタシは静かに懐中時計の針を見つめていた。脳内に流れ込んでくる無数の未来の映像。
ガイアを倒し災厄を防ぐ選択肢のために。
「そろそろワタシの役目を果たす時が来ましたか。」
ワタシは静かに立ち上がり、二匹の建造物の大蛇がのたうち回る、レイとガイアの戦場へと向かって迷いなく歩き出した。
「もう少しです。ゼス先生……」
コメント
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おお…これはまた容赦ねえな。影を媒介にされてるって発想、確かに盲点だったわ。ガイアの「血の契約」が無機物限定ってルールをちゃんと伏線にしてたのも上手い。レイの完全敗北ルート、絶望感がすごい伝わってくる。でもワタシが動き出したってことは…ここから逆転か、それとも別の選択肢か。続きが気になりすぎるわ🔥