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#シークレットベビー
朝永ゆうり
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上野文
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畝澄ヒナ
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トド村
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夏の正午。ゴォォ…..と鳴くクーラーの音とジジジ……リリリリ…….と遠くで鳴く蝉達の声。
大学一年生の私、西木日菜はクーラーの効いた自宅のアパートにいた。
クーラーの効いた部屋で布団にくるまり、小説を読んでいた。
夏の音が好き。
賑やかで、部屋で一人でいても気持ちが少し明るくなるから。
ゴォォ……と鳴くクーラーの音とジジジ……リリリ…….と鳴く蝉達の声。
夏の生活音をBGMにリストの生涯を綴った小説をペラペラ読み進める。
プーン………。
耳元で思わず歯軋りしたくなるような嫌な音を耳にする。
蚊だ。人類の敵だ。
勘弁してくれ、読書中だぞ。
この小説を読み終わったらパチンと打ちのめしてやろう。
蓑虫のように毛布にくるまり、小説を読み進める。
「リストとショパンの友情尊い…….」
私が小説の余韻に浸れたのも束の間。
またプーン……..とあの神経を逆撫でする音が聞こえてきた。
また蚊だ、懲りないやつめ。
蚊が、ふらふらと私の左手の舟状骨あたりに止まった。
私は蚊を思いっきりひっぱたいてやろうと右手を振り上げる。
そこではっと気づく。
この蚊、足が4本しかない。
ここまで辿り着くまでに足を2本失ったんだ。
蚊は逃げる気力もないのか、私の腕でじっとしている。
普段の私なら構うもんかとひっぱたいていたであろう。
しかし、私に中にはまだ先刻の小説の余韻が残っていた。
「…….リストとショパンに免じて、今日だけは勘弁してあげる。リストとショパンにあの世で感謝しなさい」
私の意を汲み取ったのか、蚊がプスリと私の肌を刺した。
せっかくなので私は蚊の様子を具に観察することにした。
おなかのあたりにうっすらとした毛が見える。
蚊は、髪の毛より細い後ろ足をゆらゆら動かしながら懸命に血を吸う。
痛い、というよりはじんわりとした痒みが左手首あたりから伝わる。
少しずつ、少しずつ蚊が私の血を吸い、彼女のおなかはラズベリーのような赤色になった。
それでも蚊は血を吸うことを止めない。
5分、いや10分は経っただろうか。
満足したように蚊は私の肌から針を抜き、ラズベリーのようになったおなかを抱えてふらふらと去っていった。
「これも一期一会かぁ…….」
そんなことを思っていると左手から猛烈な痒みを感じる。当然である。
左手首を見ると、赤くなった皮膚に、白いハートマークのような虫刺され痕が出来ていた。
窓の外では、蝉達が鳴いていた。
コメント
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読了しました。第1話からもう、トド村さんの世界観がじんわりと沁みてきました。 「リストとショパンに免じて」で命を助けられた蚊が、懸命に血を吸ってラズベリー色に膨らむ描写が印象的です。小説の余韻が日常の些細な選択を変える——その繋がりがとても好きです。ラストのハートマークの痕も、残酷じゃなくて優しい余白がありますね。 この先、夏の音と共にどんな物語が広がるのか、楽しみにしています。