テラーノベル
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三人はサーフショップへ戻ると、シャワーを浴びてすぐに着替えた。
「みんなが戻って来ないうちに、ここを出ようか」
賢太郎の言葉に、航太郎が笑顔で大きく頷く。
「俺、車で来てるんで、昼メシでも食べに行きませんか?」
その言葉を聞いて、さらに航太郎が笑顔になる。
「俺、もうお腹ペコペコだよー」
「でもこのあと何か予定があったんじゃ?」
「何もないですよ。買い物にでも行こうかなと思ってただけなんで」
「すみません、じゃあお言葉に甘えて……」
「じゃ、行きましょう」
一刻もこの場から離れたかった葉月は、賢太郎の誘いを受けることにした。
先ほどまでの暗い顔はどこへやら、航太郎は嬉しさにはちきれんばかりの笑顔を見せている。
ショップのフロントで莉々子宛てに伝言を頼んでから、三人は裏に停めてある賢太郎の車へ向かった。
車に乗る際、航太郎が、
「母ちゃんは助手席に座んなよ」
と言ったので、葉月は助手席に座る。
航太郎はご機嫌な様子で、後部座席へ座った。
車が動き出すと、葉月が賢太郎に申し訳なさそうに言った。
「すみません、みっともないところをお見せしちゃって……」
「いえ、あの状況なら仕方がないですよ」
「うん、あれはどう考えてもあの人が悪い!」
航太郎は、最近父親のことを『あの人』と呼んでいる。
今日の騒動で、『父ちゃん』と呼ぶことは、もう二度となさそうだ。
「まあ、もう嫌なことはもう忘れましょう。航太郎、何が食べたい?」
賢太郎が航太郎のことを呼び捨てにしたので、航太郎は嬉しそうだ。
「うーん、何があるの?」
「そうだなぁ、イタリアンとかシーフードとか……、あ! 中学生だとステーキとかハンバーガーの方がいいのかな? それとも回転寿司?」
「回転寿司がいい!」
「了解。じゃあ回転寿司にしよう」
賢太郎はハンドルを大きく切り、交差点を曲がった。
日曜のお昼時の回転寿司店は混雑していたが、ちょうどタイミングよく席が空いたので、三人はテーブル席へ案内された。
席に着く時、航太郎が賢太郎の隣へちょこんと座ったのを見て、葉月は驚く。
(結婚していた時は、いつも私の隣だったのに……)
賢太郎が三人分のお茶を用意し始めたのを見ると、航太郎も見習って箸やおしぼりを配り始める。
(ハァ? びっくりだわ! 今までこんなことしたことないのに……)
葉月は思わず頬を緩めた。
全てを配り終えた航太郎が、タブレットを持って先に注文しようとするのを見て、賢太郎がそれを制止する。
「レディファーストだろう?」
「あ、そっか……」
航太郎は「しまった!」という顔をして、タブレットを葉月に渡した。
「母ちゃん、先に注文していいよ」
「う、うん……ありがとう」
葉月は思わず噴き出しそうになる。なんとか笑いをこらえると、とりあえず二皿注文した。
続いて、男性二人が注文を始めた時、奥のテーブルから声が聞こえた。
「航太郎!」
「あ、彰だ!」
声の方を見ると、航太郎の同級生の彰がいた。彰は両親と来ていた。
彰の母親と顔見知りだった葉月は、会釈をする。
「ちょっと行ってきてもいい?」
「いいけど、あまり邪魔しないようにね」
「うん、すぐ戻ってくる」
航太郎は彰のテーブルへ向かった。
急に二人だけになった葉月は、少し緊張していた。
何を話せばいいのかと悩んでいると、賢太郎が先に口を開いた。
「さっきの女が不倫相手?」
いきなりストレートに聞かれたので、葉月は驚く。
「そう」
「そっか。結構気の強そうな人だったね」
「強いわよー。離婚前、家に乗り込んで来たんだから」
「マジで?」
「うん」
「その時、航太郎は?」
「学校に行ってたから、家にはいなかったわ」
「そっか……」
賢太郎はホッとしているようだ。
そこで、今度は葉月が賢太郎に言った。
「さっきは助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。いいアイディアだったでしょ?」
「うん。例え嘘でも、あれなら向こうは何も言い返せないしね。助かったわ」
「ちなみに、俺は嘘にするつもりはないけど?」
「ハッ?」
「うん」
賢太郎はニッコリ笑っている。
「それって、どういう意味?」
「俺たち、つき合ってみないか?」
「…………」
(ハッ? この人、私をからかってるの?)
「えっ……ちょ、ちょっと待って……」
「アレ? 俺なんか変なこと言った?」
賢太郎は、とびっきり魅力的な笑顔を見せた。
(うわぁ、やば……こんな笑顔を見ちゃったら、抗えないじゃない……)
葉月の心はぐらりと揺れたが、なんとか必死に抑える。
「冗談はよして。年上をからかうもんじゃないわ」
「三歳差なら、大して変わらないさ」
「なんで私の歳を知ってるの?」
賢太郎はニヤリと笑って航太郎を見る。
そこで航太郎から聞いたのだと悟った。
「と、とにかく……悪い冗談はやめてよ」
「冗談じゃないよ」
「だったら余計に無理よ! 私は子持ちのバツイチなのよ! だからそんな余裕ないの」
「恋愛するのに、子持ちバツイチとかって関係ある?」
「当たり前じゃない。あるに決まってるわ」
「海外じゃ、子供がいても普通に恋愛してるよ?」
「ここは日本だもの。それが普通なの!」
「普通……か。じゃあ、お試し期間を設けるってのはどう?」
「お試し? 何それ?」
「試しに恋人ごっこをしてみるんだよ。それで大丈夫だって思えたら、ちゃんとつき合えばいい」
「無理無理! そういうの、今マジで考えられないから」
「お試しぐらい、いいと思うんだけどなぁ……」
その時、航太郎が彰を連れて戻ってきた。
「賢太郎さん、彰がサイン欲しいって! いい?」
「こ、こんにちは! 航太郎の友達の彰です。あ、あのっ、テレビいつも見てます!!!」
「彰君初めまして! テレビ見てくれてありがとう! サインはここでいいの?」
「はいっ! そこにお願いします!」
賢太郎はペンを受け取ると、手帳にサラサラとサインをした。
「ありがとうございました!」
「じゃあ彰、またな!」
「うん! 航太郎また明日ね!」
彰は嬉しそうな笑顔でペコリとお辞儀をすると、両親のいるテーブルへ戻って行った。
「航太郎、ほら、寿司来てるぞ」
「あ、ほんとだ。あー腹減ったー」
二人は寿司を食べ始める。
男性二人が寿司を食べる様子を見ながら、葉月はまだ心臓がドキドキしていた。
(と、とりあえず、お茶でも飲もうっと……)
葉月は気持ちを落ち着かせようと、賢太郎が淹れてくれた日本茶をゆっくりとすすった。
コメント
53件
彼みたいな知名度のあるイケメンが、子持ちのオバサンを本気で相手にするわけない....と 、躊躇する気持ちは よく分かる....🤔 でも 何よりも航太郎くんが彼にスゴく懐いているし、面倒くさい元旦那避けにもなるし....😆👍️💕 思い切って お試しで付き合ってみようよ‼️😎💕💕 葉月さん、勇気を出して~✊‼️
素敵すぎるわ。これはこのまま、親子になるしかないでしょ。
賢太郎さんかなり本気だと思うよ。子持ちだからとかバツイチとか囚われなくて大丈夫だよ🤭 賢太郎さん気負わず自然体でいいなぁ。 葉月ちゃんも一歩踏み出してみよう(´,,•ω•,,)💕💕