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18話 26934スポット 夜の散歩
外は、
音が少なかった。
遠くで、
水が動く気配。
近くで、
靴底が地面に触れる音。
リカは、
歩いている。
長めの上着。
袖は手の甲まで。
昼より少し厚い靴下。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
歩調に合わせて揺れる。
街灯は低く、
数も多くない。
明るさは足りているのに、
視界は広い。
片側に街。
反対側に、
山の気配。
境目が、
はっきりしない。
おかあさんは、
少し前を歩く。
肩までの髪をまとめ、
両手を空けている。
歩幅は一定で、
振り返らない。
会話はない。
それで困らない。
川のそばで、
立ち止まる。
昼とは違う音。
水の動きが、
ゆっくり聞こえる。
リカは、
深く息を吸う。
胸の奥が、
落ち着く。
思い返すと、
ここに来てから、
夜に移動を
使わなくなっている。
戻るための番号を、
考えなくていい。
「寒くない?」
前から声。
リカは、
首を横に振る。
「大丈夫」
短い返事。
歩き出す。
足元の感触が、
確かだ。
団地の階段より、
少し長い道。
でも、
不安はない。
マンションの灯りが、
見えてくる。
三階の窓。
自分の部屋の位置が、
すぐにわかる。
キーホルダーを握る。
番号は、
もう確認しない。
ここに戻るために
使うものじゃなくなっている。
玄関の前で、
一度立ち止まる。
夜の空気は、
まだ静かだ。
リカは、
小さく思う。
ここは、
もう通過点じゃない。
帰る場所に、
なりつつある。
扉を開ける。
中の空気が、
そのまま迎える。
夜の散歩は、
それで終わった。