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#王子
すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
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七枚目には、
確かに書いてあった。
九月十二日 午後十一時四十分。
それが、
翌朝。
変わっていた。
私は、
母の家のテーブルに置かれた死亡通知を見た。
氏名。
水城澪。
生年月日。
五月十七日。
そこまでは同じ。
でも。
死亡日時。
九月十日 午後六時。
「……明日?」
声が出なかった。
三日後だったはずの死が、
一日後になっている。
「触らないでください」
真壁刑事が写真を撮る。
「昨夜、保管した時点では十二日でした」
「じゃあ誰かが書き換えた?」
「保管室への出入りはありません」
「また遠隔?」
「紙ですよ」
分かっている。
それでも、
この事件では、
紙の文字まで変わる。
私は死因を見る。
空欄。
死亡場所。
空欄。
そこだけ、
妙に怖かった。
「死に方が決まってない」
私が言うと、
父が顔を上げた。
「決まってないんじゃない」
「じゃあ?」
「これから決めるんだ」
胸が冷えた。
「誰が」
父は答えなかった。
その瞬間。
スマートフォンが鳴った。
通知。
差出人なし。
死亡日時が変更されました。
その下。
理由:七人目が記憶を回復し始めたため。
私は画面を見つめた。
「見られてる」
「何を?」
「私の記憶まで」
十五年前。
十四歳の私。
二人の赤ん坊が写った写真。
裏に書いた。
どっちが私?
母の答え。
どちらでもない。
そして、
三田村の言葉。
――その夜、お前は千佳を殺した。
私は何も覚えていない。
でも、
昨日から。
少しずつ、
戻ってきている。
階段。
母の声。
私の手。
床に落ちる写真。
「真壁さん」
私は言った。
「死亡日時が早まったのは」
「はい」
「私が思い出す前に殺したいからじゃないですか」
真壁は否定しなかった。
*
午前十時。
岸本総合病院。
柿崎先生の病室。
私は、
七枚目のコピーを見せた。
「午後六時……」
先生の顔色が変わる。
「何か知ってます?」
「十五年前も」
「え?」
「澪さんの通知だけ、時間が違いました」
私は息を止めた。
「十一時四十分じゃなかった?」
「最初は」
「最初は?」
柿崎先生は、
昔の記録を開いた。
十五年前。
母が作った死亡通知。
そこに、
十四歳の私の名前。
水城澪。
死亡日時。
六月二十五日 午後六時。
同じ。
午後六時。
「どうして私だけ」
「千佳さんが決めたんです」
「意味は?」
先生は首を振る。
「聞いていません」
「でも何かあったんでしょう」
六月二十五日。
午後六時。
私は十四歳。
その日は。
頭の奥が痛む。
「学校……」
記憶が揺れる。
夏服。
夕方。
私は、
走っている。
手には、
写真。
母の家。
玄関。
「私、あの日」
言葉が止まる。
柿崎先生が私を見る。
「思い出しましたか」
「病院に来た」
「え?」
「私、学校のあと」
白い廊下。
古い病棟。
階段。
地下へ降りる扉。
「旧産科病棟に来てる」
父が立ち上がった。
「澪」
「父さん、知ってた?」
「……」
「十五年前の午後六時、私ここにいた?」
父は、
ゆっくり頷いた。
「いた」
「何をしたの」
「それは」
「また隠すの?」
私は声を荒らげた。
「明日の午後六時に死ぬって書かれてるんだよ!」
父が黙る。
「十五年前の同じ時間に何があったの!」
長い沈黙。
そして、
父は言った。
「千佳が死んだ」
私は動けなくなった。
「……何?」
「正確には」
父の声が低くなる。
「一度、死んだ」
十五年前。
母は六月十八日に、
八分間心停止している。
それとは別?
「六月二十五日?」
「ああ」
「午後六時?」
「六時三分」
「どうして今まで言わなかったの」
「お前がいたからだ」
胸が強く鳴る。
「私が?」
父は私を見る。
「千佳は、旧産科病棟の階段から落ちた」
呼吸が止まりそうになる。
階段。
手。
母。
戻ってくる。
――澪、やめて。
――嘘つき!
――話を聞いて。
――私、誰なの!
私の手の中。
写真。
母が近づく。
私は。
「押した……?」
父は答えない。
それが答えだった。
「私が母を階段から?」
「十四歳だった」
「押したの?」
「事故だった」
「聞いてるのはそこじゃない!」
私は叫んだ。
「私が押したの?」
父が目を閉じる。
「ああ」
頭の中で、
何かが割れた。
十五年前。
午後六時。
私は母を突き飛ばした。
母は階段から落ちた。
呼吸停止。
心停止。
「死んだ?」
「一度は」
「何分」
「十一分」
私は壁に手をついた。
「それで生き返った?」
「柿崎先生たちが蘇生した」
先生が頷く。
「千佳さんは戻りました」
「なのに私は覚えてない」
「そのあと、強い混乱状態になりました」
柿崎先生が言う。
「あなたは数日間、出来事をほとんど話せなかった」
「記憶を消された?」
先生は首を振った。
「意図的に消したわけではありません」
「でも母は?」
「千佳さん自身が」
先生は続ける。
「澪さんには事故だったと伝えるよう求めました」
「どうして」
「娘を加害者にしたくない、と」
胸が痛んだ。
私は、
母を殺したことがある。
それでも母は、
私を守った。
「じゃあ今回の午後六時は」
私は七枚目を見る。
「十五年前の再現?」
真壁が言う。
「可能性は高い」
同じ場所。
同じ時間。
同じ七人目。
そして、
今度は私が死ぬ。
そのとき。
柿崎先生の病室に、
看護師が入ってきた。
「水城さんに、お預かりものです」
「私に?」
「受付に置かれていたそうです」
小さな箱。
差出人なし。
真壁が先に確認する。
危険物反応なし。
開ける。
中には、
古い腕時計。
針は止まっている。
午後六時三分。
父が息を呑んだ。
「これ……」
「知ってる?」
「千佳の時計だ」
十五年前。
階段から落ちたとき、
母がつけていた時計。
その下に、
折り畳まれた紙。
私の字。
十四歳の私。
お母さんなんか死ねばいい。
そして。
母の字。
その下に、
一行。
澪は私を殺していない。
私は紙を握った。
さらに裏面。
赤い文字。
現在の誰かが書いたもの。
では、十五年前に水城千佳を殺したのは誰でしょう。
その下。
回答期限
明日 午後六時。
死亡日時と、
同じ時間。
私は七枚目を見る。
ようやく分かった。
明日の午後六時は、
私が死ぬ時間ではない。
十五年前。
私が母を一度殺した時間。
犯人は、
その瞬間をもう一度作ろうとしている。
そして今度は。
母ではなく、
私を階段の上に立たせるつもりだった。
コメント
1件
うわっ……第51話、ヤバすぎるわ……。 死亡日時が勝手に変わってしかも「明日の午後六時」って、時間がどんどん迫ってくる感じがすごい。 十五年前の記憶がちょっとずつ戻ってくる描写も怖かったし、自分が母さんを押したって自覚した瞬間の「私が押したの?」って叫び、めっちゃ刺さった。 それでも母が娘を守ろうとしたってところに切なさがあるよな……。 そして時計の針が「午後六時三分」で止まってるとか、伏線の貼り方がうますぎる。 次、どうなるんだろ。めっちゃ気になる🔥