海へ到着すると、準備体操を終えたあと、雅也の講習が始まった。
サーフィンの基礎知識や海でのルール、ボードのどの部分に足を置くかなどを教えてもらう。
一通りの説明を聞いたメンバーは、いよいよ海へ入ることに。
「じゃあ、海に入ったら沖へ向かってパドリングしますよ! ついて来て!」
サーフィンが初めての女性たちは、迫りくる波にキャーキャーと声を上げながら海に入った。
もちろん、初心者の男性たちも楽しそうだ。
メンバーは、いくつかの波を乗り越えながら、ちょうどいいポイントで止まった。
「じゃあ、まずはうちの莉々子がお手本を見せますね。パドリングのスピードとボードに立ち上がるタイミングをよく見ていて下さい。じゃ、莉々子よろしく」
「はいよー」
ちょうど大きなうねりが迫って来たので、莉々子は素早くパドリングを始めた。
うねりはボードを追いかけるようにさらに大きくなり、波が追いつく前に莉々子はボードの上に素早く立ち上がった。
その瞬間、莉々子が乗っているロングボードは、波に押されるようにして、勢いよく前へ進んでいった。
「キャーッ、莉々子さんカッコイイ!」
「すごーい。あんなに早く進むんだー」
「あんな感じで波に乗れればOKです。波に追いつかれる前に立ちあがるのがポイントなので、素早く動いてね。じゃあやってみましょうか?」
「「はーーーい」」
初心者のメンバーは、早速サーフィンを開始した。
最初は、誰もが波に置いていかれたり、上手く立ち上がれずに海に落ちたりと、なかなか上手くいかなかった。
しかし、莉々子と雅也のアドバイスを受けるうちに、次第に上達していく。
特に最初苦戦していた舟木は、一度コツを掴むと急速に上達していった。意外に素質がありそうだ。
そして、何度かチャレンジするうちに、全員上手に波に乗れるようになった。
初心者たちが一人で楽しめるようになったのを見届けると、葉月もサーフィンを始めることにした。
その時、波乗りを終えたばかりの航太郎が、パドリングをしながら戻ってきた。
「次の波は私がもらいまーす」
葉月は笑顔で息子に伝えると、すぐに波に乗り始める。
「あ、母ちゃんズルい!」
航太郎は慌てて母親を追いかけるように、後へ続いた。
葉月親子の腕前を見ていた雅也は、隣でプカプカと浮いている賢太郎に言った。
「あの二人、なかなかやるでしょ?」
「そうですね」
「葉月さんのお父さんはサーファーだったんですよ」
「なるほど……。で、そのお父さんは?」
「残念ながら、葉月さんが離婚をする少し前に亡くなりました」
「そうでしたか……」
賢太郎はそう返事をすると、二人をじっと見つめた。
その時、雅也が声を張り上げる。
「次の波イイ感じですよ! どうぞお先に」
「ありがとうございます。ではお先に!」
雅也が譲ってくれたので、賢太郎はすぐに力強いパドリングを始めた。
それに気づいた葉月と航太郎は、賢太郎のライディングを見守る。
「母ちゃん、賢太郎さんが乗るよ!」
「そうね。お手並み拝見といこうじゃないの」
二人の視線の先には、絶好のタイミングでボードに立ちあがった賢太郎の姿があった。
賢太郎は前膝を胸で抱え込むような姿勢をとると、小刻みにターンを始める。
その見事な激しいアクションは、周りにいる人たちの視線を虜にした。
(う、上手い……)
「すげえっ! ローカルのサーファーよりも上手いじゃん。賢太郎さんカッケー!」
航太郎は、尊敬の眼差しで賢太郎を見つめていた。
「ほんと、凄いわね! 昔やってたのかな?」
「そういえば、賢太郎さんの実家は千葉の海の近くなんだって」
「千葉?」
「そう。ほら、サーフィンのオリンピック会場になったところ?」
「そうなんだ」
長いライディングを終えた賢太郎は、ボードの上にまたがると、ウェーブのかかった髪を後ろに撫でつけた。
その仕草は、野性味あふれる男の色気に満ちている。
(うわっ……やばっ……)
一瞬にして心をわしづかみにされた葉月は、慌てて頭を振った。
(ダメダメ! 相手は年下の……それも有名人なのよ! そういう対象で見ちゃダメ!)
葉月はそう自分に言い聞かせた。
そんな葉月の少し先に、啓介がいた。
啓介は、今の賢太郎の見事なライディングと、それに見とれていた元妻と息子のことをしっかりと見ていた。
「チッ! 葉月のやつ、あんな若造に絆されやがって」
啓介はブツブツと呟きながら、後ろを振り返る。
ちょうどその時、大波がこちらに向かってきたので、すぐにパドリングを開始した。
同時に、近くにいた息子に向かって声を張り上げた。
「おいっ、航太郎、お父さんのライディングを見てろよ!」
その声に気付いた航太郎は、父親を見る。葉月も同時に元夫を見た。
しかし、啓介のパドリングは、どこか頼りなく感じられた。
(……あんなんじゃ波に置いていかれるわ…もっと力強くしないと! 普段は重い操縦桿を握っているのに、なんて弱々しいの……)
その時、啓介がボードの上に立ち上がった。
しかし、波はすでに啓介のボードを追い越していたので、彼は無残にもそのまま海に沈んだ。
その姿を見て航太郎が言った。
「センスないなぁ……」
(フフッ、息子にダメ出しされちゃってるわ。無様な姿を見せるだけなら、やらない方がよかったんじゃないの?)
息子の呟きを聞いた葉月は、笑いながら次の波に乗った。
しばらく海で楽しんだあと、葉月と航太郎は一緒に海から上がった。
砂浜へ行くと、初心者メンバーが既に休憩していた。
「葉月さんお疲れー! 超カッコ良かったよー」
「航太郎君もすごく上手なんだねー。あんな上手いとは思わなくてびっくりしちゃった」
「久しぶりだったから、身体が悲鳴を上げてるわぁ」
「俺も明日は筋肉痛かも」
「あれ? 他の人達は?」
「あ、今戻って来る……」
葉月が波打ち際の方を振り返ると、賢太郎と雅也が話しをしながらこちらへ歩いてくるのが見えた。
その少し後ろを、ふてくされたような顏をした啓介が歩いていた。
そこで、莉々子と亜美が葉月の傍へ来てコソコソと言った。
「元旦那さんの面目丸つぶれだったね」
「これに凝りて、もうここには来ないんじゃない?」
「作戦大成功!」
「うん。マジ助かった」
莉々子と亜美がクスクスと笑い出したので、思わず葉月も釣られて笑う。
その時、突然三人の背後から、ヒステリックな女性の声が響いた。
「啓介っ! あなたこんなところで一体何をやってるの? もうっ!」
葉月たちが後ろを振り向くと、そこには鬼の形相をした一人の女性が立っていた。
コメント
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啓介、サーフィン🏄も恋愛も「センスないな~」😮💨
怖い💦💦ついに登場ですね⁉️
ひぇ〜、最近旦那の行動がおかしいから探していたのかも。 さてどうする?