「ちょっと! 啓介! 一体ここで何をしているの?」
ちょうど葉月たちの近くに現れた啓介を見て、女は声を張り上げた。
葉月は女の顔を見て、急に思い出す。
(あ! あの日うちに来たあの女……)
その女は、啓介の今の妻の野村麻美子だった。
しかし、麻美子の印象は、昔とはかなり違っていた。
当時は現役CAらしいスタイルと美貌を誇っていたが、目の前にいる彼女は別人のように変わっていた。
(ん? 同じ人だよね?)
葉月はまさかと思い、もう一度麻美子を見る。
そこで、麻美子が歳を重ね、ふっくらしたせいで印象が違って見えたことに気づいた。
(私より3つ上だから今は40? 女の40って複雑な年齢なのね……)
そう思いつつ、葉月は啓介に目を向けた。
啓介は驚いた表情で妻を見つめていた。
「お、お前、なんでここに?」
「恩師のお見舞いに行っただけなのに、泊まってくるなんて言うから、おかしいと思ったのよ」
「な、なんでここにいることがわかったんだ?」
「フフッ、車にGPS発信機を置いているから、居場所なんてすぐにわかるわ」
「ハァッ? い、いつの間に? でも車は駐車場にあるんだぞ? なんで海にいるってわかったんだ?」
「葉月さんの実家に行ってみたのよ。そうしたら、お隣のアパートの若い男性が、親切に教えてくれたの。みんなでサーフィンに行ったってね」
麻美子は勝ち誇ったように言った。
隣のアパートの若い男性とは、葉月のアパートの入居者の西野(にしの)という若者だった。
今日のサーフィンには西野も誘ったが、彼は仕事で参加できなかった。
「え? ちょ、ちょっと待って……どうしてあなたがうちの住所を知ってるの?」
「あら。啓介とあなたは、離婚してからも時々書類のやり取りをしていたでしょう? その時、念のために控えていたのよ」
「「…………」」
葉月は言葉を失った。
(なんて馬鹿なの! 元妻の個人情報を元愛人だった妻に晒すなんて! 子供もいるのに、危機管理がなさすぎるわ!)
葉月は呆れるを通り越して、怒りが込み上げてきた。
その時、雅也が割って入り、こう提案した。
「まぁまぁ、ここで言い争うのもなんですから、莉々子のショップへ行きましょう。そこならカフェもありますし……」
「いーえ、ご心配なく。すぐに夫を連れて帰りますから」
「おい! まだ俺には用があるんだ」
「用? 用って何よ! 離婚した元妻と楽しむなんて、非常識にもほどがあるわ。さぁ、帰りましょう!」
「だから俺は航太郎に用があるんだ……」
そこで皆がハッとした。
この場に航太郎がいたことを思い出し、一斉に航太郎を見る。
そこには、ショックを受けた様子の航太郎が佇んていた。
それは無理もなかった。
目の前には、自分と母親から父親を奪っていった女が立っているのだから。
息子の悲しそうな顔を見た葉月は、思わず胸がズキンと痛んだ。
(この人はなんて馬鹿なの。離婚の際にあれだけ子供を傷つけたのに、離婚してからもまた傷つけるなんて……最低!)
葉月は心の中で吐き捨てた。
その時、追い打ちをかけるように、麻美子が言った。
「ハァッ? 面会だったら、また別の日に設けなさいよ! とっくの昔に離婚したあなたが、今更みんなで楽しむ必要なんてないでしょう? ちょっとは私の気持ちも考えてよ!」
麻美子は夫に怒鳴ったあと、今度は葉月に向かって言った。
「啓介は、今は私の夫なのよ。それなのに、コソコソと夫をたぶらかすなんてひどいじゃない! 夫に未練があるからって、子供をダシにして卑怯な手を使わないでよっ! この泥棒猫!」
そのあまりにもひどい言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
誰もが言葉を失いシーンと静まり返る中、ソフトで落ち着いた声が響いた。
「それはちょっとひどいなぁ……」
それは賢太郎の声だった。
麻美子は反射的に、声のした方をキッと睨む。
しかしその声が、野性味あふれるイケメン男性のものだとわかると、急に表情を和らげて言った。
「じゃあ、私の気持ちはどうなるんですか? 今、彼女は独身で恋人もいないんでしょう? だったら、夫とヨリを戻そうとしているって思われても、仕方ないんじゃありませんか?」
「それは随分と短絡的な考えですね」
「じゃあこの状況をどう考えたらいいのかしら? ねぇ、葉月さん?」
昔夫を奪った女に下の名前で呼ばれた葉月は、思わず鳥肌が立った。
麻美子に言い返そうとするも、言葉がうまく出てこない。
その時賢太郎が再び口を開いた。
「彼女があなたの夫を狙うわけないじゃないですか」
その言い方にカチンときた麻美子は、ムキになって言い返した。
「じゃあ、どうしてうちの夫はここにいるの? 葉月さんが子供を餌にしてたぶらかしたに決まってるじゃないの」
「それはないです」
「どうしてそう言い切れるの?」
「それは、今、私が葉月さんとお付き合いをしているからですよ」
「…………」
(え?)
葉月は驚いた。もちろん、その場にいた全員が驚いている。
そこで、賢太郎がもう一度はっきりと言った。
「葉月さんは今、私と交際しています。昨夜は、皆でバーベキューを楽しんでいたところへ突然あなたのご主人が訪ねて来たんです。せっかく来たのに追い返すのもどうかと思い、そのままご一緒しただけです。それに、今日のサーフィンだって無理強いはしていませんし、ご主人は帰ることだってできたはずです。だから、昨夜あなたのご主人がご自宅へ帰らなかったのは、葉月たちのせいなんかじゃないんです。彼が帰らなかったのはむしろ、あなた方夫婦の問題なんじゃないですか?」
賢太郎はそう吐き捨てると、葉月と航太郎の手を取って歩き出した。
残された人たちは、驚きの表情を浮かべながら、遠ざかる三人の姿をじっと見つめていた。
コメント
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お。ぉぉ……賢太郎さん、かっこよ……惚れてまうやろー!!🫣💕💕💕💕
元旦那夫婦どれだけ航太郎君を傷付けたら気が済む😡😡😡これで航太郎君には2度と目の前に現れるなよ。航太郎君には賢太郎さんと言う内外共に満たしてくれる父ちゃん候補が居るんだからねー。
浮気して家庭を壊した上に更なる暴言と言い掛かりとは😨 寧ろ貴方の旦那が色々と暴走してるのでお引き取りくださいな(ㅍ_ㅍ) それにしても賢太郎はとっさの行動力が素晴らしい🤭 全くその気のない相手には言わないだろうからね。葉月ちゃんに惹かれてるんだよね。:+((*´艸`))+:。航太郎くんだって嬉しかっただろうな💗