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月遊び

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月遊び

第54話 - 新月１

175

2024年08月06日

#恋愛

#大人の恋愛

#イケメン

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

瑠璃マリコ

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瑠璃マリコ

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それから一週間ほど海斗はロックフェスに向けてのリハーサルが続いていた。

そしていよいよ明日が本番のステージだ。

このロックフェスはデビューしてから毎年参加してきたので大事なイベントだった。

バンドのメンバーも久しぶりの野外ステージとあって皆張り切っていた。

その頃美月は亜矢子と電話をして待ち合わせ場所や時間を決めていた。

「亮は実家に置いて行く事にしたわ。最近実家に一人で泊まれるようになったからちょうど良かったわ。夫婦二人で旅行なんてずっと行ってなかったから母がたまには水入らずで一泊しておいでだって」

「良かったねー。日頃育児に家事に頑張っているんだからゆっくりできるね」

「うん。こんなチャンスがもらえたのも海斗さんのお陰だわ。感謝しなくちゃ」

亜矢子は本当に嬉しそうだった。

フェスが開催される場所は山梨県の山中湖近くだったので、三人は午前中に出発して現地で昼食を取った後海斗達の出番の少し前に会場に入る事にした。

いよいよ明日海斗のライブが見られる。美月は楽しみで仕方がなかった。

亜矢子と電話を切ってすぐにメールの着信音が鳴った。海斗からだった。

【明日のフェスが終わったら駐車場の東出口付近で待ってて。ホテルを予約したから一泊して帰ろう。一泊分の旅の準備をしておいで】

美月はその日すぐに東京へ帰るものだと思っていたので驚く。

まさか海斗と旅行に行けるとは思ってもいなかったので美月は嬉しくて心が躍った。

それから美月は一泊用の旅の準備を始めた。

翌日、美月は待ち合わせ場所の駅前へ行き亜矢子達の車を待った。

しばらくすると浩の車が到着した。

「浩さん、今日はよろしくお願いいたします」

「美月ちゃん婚約したんだってね。おめでとう！　いやー本当に良かった」

「ありがとうございます。これも浩さんと亜矢子のお陰です」

そこで亜矢子が叫んだ。

「美月！　指輪見せてー！」

美月は左手を亜矢子の前に差し出した。

「うわー素敵―！　ダイヤモンドでかっ！　美月が月が好きだからこのデザインにしたのねぇ、さすが海斗さん！」

亜矢子は興奮して言った。

そして美月が持って来た小さな旅行バッグに気づいて聞く。

「あれ？　その荷物どうしたの？」

美月は今日海斗と一泊して帰る事を話す。

「さすが海斗さん！　ちゃんと美月の事を考えてくれているねー」

亜矢子はニコニコして言った。

やがて車は高速へ入り快適なドライブが始まった。

美月と亜矢子はお喋りに夢中でまるで学生時代に戻ったみたいだ。途中休憩を挟みながら順調に目的地へと近づいて行く。

山中湖インターに近づくと少し混雑してきた。やはり夏休み中という事もあり行楽で出かける人とフェスに行く人とで渋滞が発生しているようだ。

山中湖インターを降りると午後一時頃だった。そこで浩は亜矢子とデートでよく訪れたというイタリアンの店に美月を連れて行ってくれた。

「今日は私がいてお邪魔虫でごめんねー」

「お邪魔虫も死語だよー！」

亜矢子が笑いながら言うと浩も言った。

「美月ちゃん大丈夫だよ。僕たちは明日思い出の地を巡って帰るからね」

浩は美月に気を使わせないようにそう言った。そんな浩の優しさに美月は感謝した。

美味しい昼食を終えた三人はライブ会場へ向かった。

浩はハンドルを握りながら少し興奮気味に言った。

「僕が『solid earth』のライブに来たのは確かまだ独身の時だったからなぁ。すごく久々で楽しみだよ」

そんな浩を見て亜矢子はニコニコと嬉しそうだった。

会場へ着くと舞台の上には前のグループの機材を片づけている人達がいた。そして広場には既に海斗達のファンが大勢押し寄せている。

午後三時近くなると真夏の照り付けるような日差しも少し和らいできた。湖の近くなので都内にいる時よりは多少涼しく感じられたがそれでもまだ暑い。

近くの森ではセミの鳴き声が響いている。美月は野外コンサートは初めてだったので興味津々で辺りの様子を見回していた。

前のグループの機材が全て撤去されると海斗達のスタッフがセッティングを始めた。皆『solid earth』と書かれた揃いの黒いTシャツを着ている。スタッフの人数はかなり多かった。

事務所の中で一番の即戦力であるバンドのリーダーを務める海斗は本当に凄い人なのだなと美月は思う。

バンドのメンバーだけでなくそれに携わるスタッフ達の生活を背負いながら、最前線で活動を続けてきた海斗の努力やプレッシャーは並大抵のものではなかったはずだ。

美月は先日アパートで海斗が疲れてぐっすり眠っていた姿を思い出す。

そんな海斗の疲れや気苦労をこれから少しでも取り除いてあげたい……美月は心からそう思った。