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月遊び

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月遊び

第55話 - 新月2

271

2024年08月07日

#恋愛

#大人の恋愛

#イケメン

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

瑠璃マリコ

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瑠璃マリコ

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舞台のセッティングが終わり海斗達のバンドの開演時刻となった。

照明が灯り舞台袖からバンドのメンバー達が出て来くる。観客達は次々と声援を送り始める。

最後に海斗が出て来てステージの中心に立つと観客からの声援は一層大きくなった。

「「海斗―っ！」」

「「海斗さーん！」」

海斗はギターを持ったまま後ろを向くと中島と山崎と視線を合わせる。そして最後にドラムの吉田に目で合図すると演奏が始まった。

まずは海斗と中島の激しいギターのセッションが始まる。そこへ吉田の激しいドラムが加わり迫力ある開演となった。

美月と亜矢子はあまりの迫力に思わず固まっていた。今日の演奏が横浜のイベントの時とは全く比べ物にならない事くらいは二人にもわかった。

ロックフェスと言うだけあり海斗達は本物のロックで挑んで来ている。魂の奥に響き渡るような演奏は、一瞬にして人々の心を掴んでしまった。

気付くとファンが一丸となり音楽に合わせて大きく体を揺らしている。

海斗の歌声が響き渡るとさらに観客達はその音楽に没頭した。海斗の力強い声は聴いている者の心を鷲掴みにする。

そこには美月が初めて見る海斗の姿があった。

いつもの穏やかで優しい笑みを浮かべた海斗ではなく、一流のミュージシャンとして活躍するプロの姿だった。

美月は感動のあまり一心に海斗を見つめる。もちろん亜矢子も美月と同じ心境だろう。

一方、浩は若い頃何度も海斗のライブに行った経験があるのでライブの雰囲気には慣れているようだった。

会場にいるファンと一緒にノリノリでリズムに乗っていた。

その後も有名な曲が何曲か続き観客達は全員が『solid earth』の魅力にすっかり引き込まれていた。

そしていよいよ最後の曲となる。

最後の曲は新曲だ。今度発売される新しいアルバムのタイトルにもなっている『earthshine（地球照）』だ。今日はアルバム発売に先行して新曲のお披露目となった。

その曲は宇宙をイメージさせるような壮大な曲だった。それは今までの『solid earth』のイメージを新たに塗り替えてしまうほどの衝撃的な曲だった。

曲調は今までとは全く違う構成がなされており、何かのテーマ曲や壮大な映画の音楽にも使えそうなくらいレベルの高い仕上がりとなっている。

昔からの『solid earth』のファンさえも言葉を失ってしまうほどの名曲だ。

曲だけでなく歌詞も素晴らしかった。宇宙の旅を人生の旅になぞらえて描かれたその歌詞は聴く者の涙を誘う。

会場からはすすり泣きのような声も響き始めた。

ノリノリだった浩も、いつの間にか立ち止まり感動した様子でその曲に聞き入っていた。

最後の演奏が終わると一瞬静寂が訪れた。そしてすぐに盛大な拍手が沸き上がりあちこちから声援と指笛が鳴り響いた。それはいつまでたっても止むことがなかった。

亜矢子も感動して涙を流していた。もちろん美月の瞳も潤んでいる。感動のあまり何も言えない女性二人に向かって浩が言う。

「すごい曲だったな。solid earthの新境地開拓だな」

浩が独り言のように呟く。そして今度は美月に言った。

「美月ちゃん凄かったね。海斗さん本当に凄いよ」

美月は頷くのが精一杯だった。

ライブが終了すると『solid earth』のファンが移動を始めた。

美月達三人もゆっくりと出口の方へ向かって歩き始める。そこで亜矢子が美月に聞いた。

「海斗さんとはどこで待ち合わせているの？」

「駐車場の東出口の辺りにいてって言われた」

「東出口は車の出入りが少ないから目立たなくていいね」

駐車場に着くと浩と亜矢子が美月に言った。

「美月、海斗さんによろしくね。素晴らしい演奏でしたって伝えてね」

「美月ちゃん、海斗さんにチケットのお礼言っておいてね。あとライブすっごく感動しましたって！　あ、あと新曲も素晴らしかったーって伝えて下さい」

美月は笑顔で頷く。

「こちらこそ今日は連れて来ていただいてありがとうございました。この後夫婦水入らずで楽しい旅行をね！」

美月と二人はそこで別れた。

美月は駐車場の案内板を見て東出口を確認しそこへ向かって歩き始める。広い駐車場の一番隅にその出口はあった。

待ち合わせ場所へ着いたがまだ海斗は来ていなかったので美月は柵にもたれて海斗を待つ。

今日美月は暑い中でも大丈夫なように涼し気な淡いブルーグレーのノースリーブのワンピースを着ていた。

ワンピースは長身の美月をほっそりと見せ彼女の魅力を一層引き立てていた。

海斗は演奏が終わるとメンバーに挨拶をしてからすぐに外へ出た。サングラスをかけて車まで急ぐとすぐに東出口へ向かった。

待ち合わ場所まで車を移動させると花壇の花を撮影している美月がいた。今日の美月は華奢で儚げですぐにでも抱きしめたいような雰囲気に満ちている。

そんな美月に目を奪われたまま海斗は車を美月の前に進めた。

近くの森では夏の終わりを惜しむようなひぐらしの声が響いていた。