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#幼なじみ
「七星ちゃーん! 七星ちゃーん! どこにいるのー?」
海沿いを走る国道のあたりから、大きな呼び声が響いた。
声の主は杉本豊子・58歳。杉本は湊総合病院の看護助手主任だ。
誰かを探しているらしい。
「七星ちゃーん、いるんでしょう?」
その声が近づいてくるのを聞きながら、煙草をくわえ砂浜に寝そべっていた若い女性が、けだるげに身を起こした。
「はーい、ここにいまーす」
そこへ杉本が小走りで駆け寄ってくる。
「あーいたいた。あらやだ、またそんなところで砂まみれになって寝そべって! それに煙草! いいかげんやめたら? 血管がボロボロになるわよ~」
母親のような口調に、女性は思わず苦笑いを浮かべた。
「ご心配ありがとうございまーす! で、何か御用ですか?」
「あっ、そうそう。今日退院する近藤さんがね、七星ちゃんに挨拶しないと帰れないって言うのよ。昼休みでいないって言っても聞かなくてさ。悪いけど、来てもらえる?」
「分かりました」
返事をした女性は、遠坂七星・24歳。
七星は湊総合病院の看護助手で、杉本は彼女の上司にあたる。
「ほら、急いで急いで! あのおじいちゃん、せっかちなんだから」
「はいはい……」
七星は立ち上がり服についた砂を払うと、階段を駆け上がり国道を渡って病院の通用口へ向かった。
その背中を追いながら、杉本が言う。
「ほんとあなたは不愛想なのに、患者さんからは妙に人気なのよねぇ。その愛想、少しでいいから職場の人たちにも分けてあげたら?」
その言葉に、七星は立ち止まり振り返った。
「私ってそんなに不愛想ですか?」
心外だと言わんばかりの表情に、杉本は笑いをこらえながら答える。
「ううん、私たち看護助手はそう思ってないけど、“あっち側の人たち”がねぇ……」
その“あっち側”が看護師たちを指すと気づき、七星はつんと顎を上げて口を尖らせた。
「だって、あの人たち気分によって態度が変わるし、自分たちの雑用まで平気で押し付けてくるんですよ」
「気持ちは分かるけど、私たちはあくまで“看護助手”って立場だから……ね!」
「はいはい、承知しましたぁ。一歩引けばいいんでしょ?」
七星はうんざりしたように言い返し、通用口の扉を勢いよく開いた。
五分後。
七星は病院の正面玄関で患者を見送っていた。
「近藤さん、くれぐれも無理しないでくださいね」
「七星ちゃん、世話になったな。君がいたから、辛い治療もなんとか乗り越えられたよ。本当に感謝してる」
「それならよかったです」
「今度うちの畑においで。野菜、たっぷり分けてあげるから」
「わ、やった! ありがとうございます」
「じゃあね」
「お気をつけて」
老人は娘に付き添われ車に乗り込むと、笑顔で手を振った。
七星も笑顔で手を振り返す。
車が見えなくなるまで見送ると、七星は踵を返して病院の入口へ向かった。
ロビーを横切ろうとしたとき、二人の男性医師が通りかかった。
院長の野中と優人だ。野中は優人に院内を案内しているところだった。
「おっ、七星ちゃん、お見送りかい?」
呼び止められた七星は足を止め、野中に向き直る。
「はい。胃の手術をした近藤さんが退院されたので」
「ああ、近藤のおじいちゃんか。それは良かったね」
七星が軽く会釈をして立ち去ろうとしたそのとき、野中が再び声をかけた。
「そうだ、七星ちゃん。彼は今日からうちに来た脳神経外科の尾崎優人くんだ。よろしくね」
七星がちらりと野中の隣の男性を見ると、彼は驚いたように固まっていた。
どことなく顔色も青ざめている。
(どうしたんだろう?)
そう思いながら、七星は挨拶をする。
「看護助手の遠坂です」
しかし優人は目を見開いたまま動かない。七星は不思議そうに眉をひそめる。
そこで野中が優人の肘をつつき、助け舟を出した。
「ほらっ、優人。 挨拶」
優人はハッとしたように我に返り、慌てて口を開いた。
「ど、どうも……尾崎です」
七星はわずかに口角を上げてお辞儀をし、「では、失礼します」と言って階段へ向かった。
その後ろ姿を、優人は顔面蒼白のまま見つめていた。
「驚いただろう?」
野中が声をかけると、優人はかすかに頷いた。
「……はい。美奈子にそっくりで驚きました」
「俺も最初会ったとき驚いたよ。瓜二つだもんな」
「はい……。彼女、ここの看護助手なんですか?」
「うん。働き始めて三年くらいかなぁ? 以前、彼女のおばあさんがここに救急搬送されてね。それが縁で看護助手主任の杉本さんがスカウトしたんだ」
「そうだったんですか……」
「当時は派手な金髪でバイクを乗り回してさ……けっこうやんちゃな子だったけど、ここで働き始めてからはずいぶん真面目になったよ」
「そう……ですか……」
野中の説明を聞くうちに、優人の鼓動は少しずつ落ち着いていった。 見た目は亡き妻・美奈子に瓜二つだが、中身はまるで違うらしい。 その事実に、優人はわずかな安堵を覚える。
美奈子は上品で控えめで、いつも微笑んでいた。 優人にとって、あれほど完璧な女性はいない。
だから、顔が似ていても、どこか武骨で不愛想な七星に心が揺れることはない。 すれ違ったときに漂った煙草の匂いには、むしろ嫌悪感すら覚えた。
(まったくの別人だ……心を乱す必要なんてない)
そう自分に言い聞かせながら、優人は歩き出した野中の後を追った。
コメント
19件
亡き妻に見た目は似た正反対の七星ちゃん✨ 優人さんにとって気になる存在になりそう💕 患者さんか好かれる七星ちゃんは媚びたりせず優しい方なのでは? (*´˘`人)
出会いってどこに潜んでいるかわからないですね🤔このあとどうなっていくのかしら でも昨日のゆき❓よりずっと素直で元気があって下こごろなんか無くていい子な感じ(*^^*) 七星ちゃん 患者さんから人気だと言うのがいい子を物語っていると思うな
尖ってるけど患者さんに好感度が高い七星ちゃん🤩 見た目も内面の優しさも亡き妻に瓜二つなのはまだ優人さんは気づいてないね😅 近いうちに優人さんが七星ちゃんの内面の優しさに気づく出来事が起こりそうな予感💫✨