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山本はもう一度トラックへ戻ると、再び鉢物などの商品を台車に積み込み始める。

作業をしながら、後ろにいた優香に言った。


「いい子みたいじゃないか?」

「でしょう? 本人もどうしてここへ来たか分からないみたい」

「そんな感じだな。入ってまだ数年だろう? それで左遷なんて…おたくの会社もえげつない事をするよなぁ…」

「ほんとそうよねぇ。でもね、前向きに頑張る子だから、きっと大丈夫」

「ハハッ、ここには優香ちゃんという強い味方がいるから、俺は何も心配はしちゃあいねぇけどな」

「フフッ、ありがとう」

「しっかし、このご時世若い子らは貴重な人材だってぇのに、それをぞんざいに扱う会社はきっと先が長くねぇぞ…あっ、でも

潰れられたら困るのは俺なんだけどな。委託契約してもらっている身だ、あまり迂闊な事は言っちゃいけねぇ、 ハハハッ!」


山本が豪快に笑ったので、優香も釣られて笑う。

それから二人はまた店へ戻った。


店内では、生花の陳列があと少しで終わろうとしていた。

花純の作業を見ていると、植物をとても丁寧に扱っているのが分かる。


(この子は本当に植物が好きなのね…)


優香はそう思った。

その時花純が優香に聞いた。


「こんな感じで大丈夫でしょうか?」

「うん、花純ちゃんばっちりよ。凄く綺麗に並べてくれたわね。ありがとう」


優香が褒めると、花純は嬉しそうにはにかむ。

そして、今山本が運び込んで来た台車に視線を移すと、ハッという表情をしてから台車の前に駆け寄った。


今山本が運んで来た台車の上には、観葉植物や胡蝶蘭などの鉢物の他に

珍しい食虫植物の小さな鉢も並んでいる。


「食虫植物も取り扱ってるのですか?」


花純は興奮して聞いた。

そしてしゃがみ込むと「ハエトリソウ」や「ドロセラカペンシス」の鉢をじっと見つめる。


花純はずっと「ドロセラカペンシス」を探していたが、都内の園芸店ではなかなか取り扱っていない。

だから近いうちにネットで注文しようと考えていたところ、自分の職場で見つけたので興奮していた。


「なぁに? 花純ちゃん食虫植物好きなの?」

「はい…ずっと探していて…」

「都内の店では、なかなか取り扱ってないわよねぇ」

「そうなんです…だからネットで注文しようと思っていたのですが…」


そこで優香が言った。


「うちで買ってもいいのよ。社員割引きで10%オフになるし」

「いいんですか?」


花純の目がキラキラと輝く。

あまりにも嬉しそうな花純を見て、優香は笑いながら言った。


「もちろんよ。今のうちに、欲しいのを避けておいたら?」

「ありがとうございますっ!」


花純は更に目を輝かせると、いくつかある鉢の中から選び始めた。


本当に純粋に喜んでいる花純を見て、優香と山本が頬を緩ませ微笑み合う。

そして優香が言った。


「この店はね、数年前までは駅の反対側にあったの。その時は凄く古くて汚いビルに入っていてねぇ、最低限の生花や鉢物しか

取り扱っていなかったのよ。だからこんなレアな植物はもちろんなかったわ。でもこのお洒落なビルに移転してからは、こうい

った物も取り扱うようになったの」


すると、今度は山本が言った。


「花純ちゃん、ほら、この辺りには新しく建ったタワマンがいくつもあるだろう? あれが建った頃から急にハイソな家族連れ

が増えたんだよ。タワマンに住む育ちの良いお坊ちゃんやお嬢ちゃん達は、どうやらこういったレアな植物を好むらしいな」


「子供さんが?」


花純は少し驚いた顔をする。


「そう。夏休みの宿題なんかに使うのかしらね? だからこの時期から少しずつ仕入れるようにしているの」

「へぇ~そうなんですねぇ…」


花純はしみじみ言うと、選んだ鉢を手にして立ち上がった。


「買うの決まった? お会計は後でいいから、袋に入れておいたら?」

「ありがとうございます」


花純は満面の笑みで答える。


「じゃあ俺はそろそろ次へ行くかな」


山本はそう言って二人に手を挙げた。


「じゃあまた明日な!」

「「ご苦労様でした」」


二人に見送られた山本は、笑顔で店を後にした。



その後花純は、優香からレジの使い方や備品の置き場所などを一通り教えてもらう。

そして、店内に陳列してある鉢物への水やりを済ませると、店は開店時刻を迎えた。

この日は月曜日だったので、オープン後の午前中は比較的穏やかに過ぎていった。


暇な時間帯を利用して、優香はネット注文のアレンジを作り始める。

家族のバースデイ用のアレンジで、客は今日の昼過ぎに取りに来るようだ。


優香は作りながら、花純にアレンジのコツを丁寧に教えてくれる。

そして客の希望通りのブルーと黄色の美しいアレンジをあっという間に作り上げた。


「うわぁ…素敵…」


優香のセンスは見事だった。

その辺の花屋のアレンジとは一味違い、優美で気品がある。


(私もあんな素敵なアレンジが作れるようにならないと…)


花純は勉強の為に、そのアレンジをスマホで撮影させてもらう事にする。

花純がスマホで写真を撮っていると、


「おはようございまーす! 今日もよろしくー!」


という元気な声が聞こえた。


声の主は、午後からのパートスタッフ寺田洋子だった。

クールな御曹司はフラワーショップ店員を溺愛したい

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コメント

3

ユーザー

山本のおっちゃんも会社のやり方をご存知なんですね。 花純ちゃんのお部屋には、たくさんのお花🌸たちが過ごしてるんですね🌻

ユーザー

食虫植物、育てるの楽しいですよね~🎶 花純ちゃん、仕事に楽しみを見出せそうで良かった....🥰🌱🌴✨

ユーザー

🪴全般が好きそうだけど、食虫植物⁉️も好きな花純ン😊 きっとお家にはたくさんのお子さん🪴が待ってそう🤗 それにしても花純ンの左遷の件は山本のおっちゃんも少し知ってるのかな⁉️

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