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翌日、栞は仕事が休みだった。

午前中は家事を済ませ、午後はスーパーへ買い出しに出かける。

買い物を終えて帰宅すると、午後三時になっていた。

そこで、栞は直也に連絡を取ってみることにする。この時間なら、直也もきっと手が空いているはずだ。


メッセージを送ると、すぐにオンラインが繋がった。


「先生、今、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ~。そっちは午後三時くらいか? 栞は今日は休みだったよね、何してた?」

「午前中は家事を済ませて、さっきスーパーに行ってきました」

「お! 今日のメニューは何?」

「うーん、今日はパスタかなぁ……」

「あー、栞の手料理が恋しいなぁ……」

「写真で送りましょうか?」

「動画で頼む!」

「ふふっ、料理の動画なんて、送っても意味がないでしょう?」


栞はそう言ってクスクスと笑いながら続ける。


「最近、美幸さんにお料理を教わっているから、レパートリーかなり増えましたよ!」

「お、ちゃんと花嫁修業してて偉いぞ! でも、僕が今すぐ食べたいのは栞なんだけどなぁ~」

「先生のばかっ!」


栞は思わず頬を赤らめて言った。


「寂しいからって金髪美女に浮気したら、許しませんからね~!」

「浮気なんてするわけないだろう! 栞の方こそ、イケメンパイロットに迫られて心変わりするなよなぁ!」


冗談めかして言った直也の言葉に、思わず栞はドキッとした。

実は先週、社内で人気のパイロットに食事に誘われたからだ。

栞はもちろん断ったので、何もやましいことはなかったが、その微妙な表情の変化を直也は見逃さなかった。


「冗談で言ったのに、マジか~?」

「違います! ただ食事に誘われただけで、ちゃんと断ったから……」

「本当に? あーっ、心配だなぁ……今すぐ帰りてー」


直也が悔しそうに言のを見て、栞の胸がキュンと疼く。


「先生、大丈夫です! 私には先生しかいないから……」

「本当に?」

「はい」

「それなら、あと少し我慢するか~」


直也は機嫌を直してにっこり微笑んだ。


そこで、栞は直也に聞きたいと思っていたことを口に出した。


「先生、聞いてもいいですか?」

「ん? 何?」

「ちょっと心理学的なことなんですが……小さい頃、父親に捨てられて父親の愛情を全く受けなかった子って、大人になってから何か影響が出たりするんでしょうか?」

「うーん、どうだろうなぁ~。一概にみんなこうとは言い切れないけど、多少の影響はあるかもしれないね」

「影響があるとしたら、どんなこと?」

「そうだなあ……例えば、人を信頼できなくなるとか、常に不安がつきまとうとか? あとは、他人に対して素の自分をさらけ出せなくて、必要以上に自分のことを大きく見せる子なんかもいるよね。それと、依存体質になる子も多いかな」

「依存体質ってどんなことですか? 買い物依存症とか?」

「うん、それもあるし、恋愛依存症、アルコール依存症、薬物依存症やギャンブル依存症とかいろいろだね。あと、自傷行為を繰り返す子もいる。親の愛情を受けなかった子って、基本甘えるのが苦手だから、他のものに依存しがちなのかもしれないね……」

「そうなんだ……」

「でも、そんなこと聞いてどうしたの?」

「うん。実は昨日……」


栞は直也に搭乗している飛行機で華子に会ったことを話した。

彼女が昔と変わらず栞に対して敵意を向けてきたので、その原因が何なのか知りたいと直也に言った。


「一緒にいた男が、年が離れてたっていうのは、無意識にその男に父親の姿を重ねていたのかもしれないね」

「父親を重ねる?」

「そう。お姉さんは実の父親の愛情をまったく知らないんだろう? だから、歳の離れた男性に対して父親を求めているのかもしれない」

「なるほど……」

「でも、栞が義理のお姉さんのことを心配するなんて、珍しいな」

「心配っていうわけじゃないけど、ちょっと気になっただけ」

「そっか。でも、あんなに嫌がらせをしてきた相手に対してそんな風に思えるなんて、偉いぞ~」

「偉くはないけど、飛行機に乗っているといろいろなお客様に会うでしょう? だから常に相手の立場になって考える癖がついているのかも」

「栞はちゃんと真摯に仕事に向き合ってるんだな。常に思い遣りを持ってサービスに徹すれば、きっと凄い戦力になるぞ」

「ふふっ、頑張ります!」


それからしばらくして、二人は通話を終えた。


栞は再び華子のことを考えた。

彼女はいつもハイスペックな男性との結婚を夢見ていた。安定した暮らしや経済的な余裕、そういった面ばかりを重視していたような気がする。

それは、不安な子供時代を過ごした華子にとって当然のことなのかもしれない。

もちろん、母親である弘子の影響も大きかっただろう。弘子は男性の価値を、地位や金で測るタイプの人間だったので、華子が同じような考え方に至っても不思議はない。


しかし、果たしてそれは華子の本心なのだろうか?


(もしかしたら、彼女はまったく別のことを望んでいるのかもしれない。ただ、自分ではそのことにまだ気付いていないのかも……)


栞はなぜかそんな風に思えた。

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