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二週間後、栞は友人たちとランチをしていた。
メンバーは、高校時代からの親友・綾香、大学時代の親友・愛花、そしてバイト仲間の瑠衣の三人だ。
数年前、三人は栞を介して仲良くなり、それ以来四人で集まる機会が増えていた。
経済学部出身の綾香は、現在大手メガバンクに勤めている。彼女は大学時代、同じ学部の村田と二年交際していたが、就職を機に別れてしまった。その後、いくつか出会いはあったものの、今はフリーで新たな出会いを探している。
アルバイト仲間の瑠衣は、服飾系の女子大を卒業後、大手アパレルメーカーに就職した。
現在はアシスタント業務をしているが、将来は商品企画に携わりたいと意欲を燃やしている。
瑠衣は今、アルバイト時代から憧れていた先輩の高柳優斗と交際中だ。
優斗は、大学院を卒業後大手メーカーに研究職として採用された。
性格もキャリアも正反対の二人だが、交際は順調に続いていた。
栞と同じ学部の愛花は、現在、旅行雑誌を扱う出版社で働いていた。
直也の取材を手伝ったことがきっかけで、テレビ局のアルバイトも経験したが、テレビ業界のハードな環境を目の当たりにし、テレビ業界へ進むことは諦めた。そして、今は出版社で新人編集者として頑張っていた。
愛花の大学時代からの恋人・田崎隼人は、現在歯科医師として大学病院で働いている。もちろん、二人の交際も順調だ。
四人の中で、一番先にゴールインするのはこの二人だろうと皆が予想していた。
四人は美味しいイタリアンに舌鼓を打ちながら、話に花を咲かせていた。
「栞~、その後、有名人とか飛行機に乗って来た~?」
愛花が興味津々で栞に尋ねた。
「守秘義務があるので、お答えできませーん」
「ケチ! 少しくらい教えてくれてもいいじゃん!」
「ふふっ、ごめんね~」
「そりゃ無理よ。そういう噂話って、すぐSNSで拡散されちゃうから。迂闊に情報を漏らすとクビになっちゃうし~」
「そうそう、コンプライアンスはきちんと守らないとね」
瑠衣に続いて、綾香が頷きながら言った。
「でもさぁ、進んだ方向は違うけど、みんな頑張ってるようで良かった良かった!」
愛花は満足そうに頷くと、話を続けた。
「でね、今日は重大発表がありまーす!」
その言葉を聞いた三人は、ハッとした表情で愛花を見つめた。
「もしやっ?」
「えっ、嘘!」
「マジで?」
三人が驚きの表情を浮かべると、愛花はにっこり笑って言った。
「この度、私と隼人は、結婚することになりました~!」
「「「「キャー――ッ!」」」」
三人は興奮して声を上げた。
「やっぱり愛花が一番乗りだ~!」
「キャーッ、おめでとう!」
「先を越されたわっ!」
「で、式はいつなの?」
「来年の春を予定してるけど、日程はこれからなんだ。決まったらすぐに連絡するから、みんなちゃんと出席してよ!」
「「「もちろん!」」」
そこで、現在フリーの綾香がニコニコしながら言った。
「じゃあ私は、その時に出会いを探そうかなー? 歯医者さんがいっぱい来るんでしょう?」
その言葉に、瑠衣がすかさず反応する。
「くぅーっ……歯医者狙いかー、最高じゃん! 彩香、絶対チャンスを逃すなよ~!」
「うん、頑張る!」
すると、今度は愛花が口を開く。
「瑠衣の彼だって超エリートじゃん。将来を約束された研究職だし」
「そういえば、優斗さん、海外赴任になりそうだって言ってなかった?」
「そうなの。今、そういう話が出てるみたいでさぁ。もし海外赴任が決まったら、一緒に来てくれって言われちゃった!」
「「「えーっ! それってプロポーズじゃん!!!」」」
三人が口を揃えて叫ぶ。
「そうなんだけど、悩んでるんだよねー。せっかく希望のアパレル会社に入れたのにさぁ、もしついて行くことになったら、会社を辞めなくちゃだし」
「えー、嘘~、もったいない!」
「やっと手に入れたポジションを捨てるとなると、やっぱ悩むよねー」
「そう。だから、すぐに『イエス』とは言えないんだよなぁ……」
瑠衣は、寂しそうに微笑んだ。
その時、愛花が口を開いた。
「ねぇ、瑠衣の夢って、自分で作った服を売ることだったよね?」
「うん、そうだけど?」
「それって『大手アパレルで働くこと』じゃないよね?」
「まあ、厳密に言えばそうだけど……」
「だったら、自分で服を作りなよ! 作ってネットで売ればいいじゃん!」
「は?」
愛花の言葉に、瑠衣はポカンと口を開けている。
そこで、綾香が頷きながらこう言った。
「今は個人が作った物もネットで販売できる時代だもんね~! ちなみに、今日私が持ってるバッグ、ネットの手作りサイトで買ったんだよ~」
綾香はそう言いながら、皆にバッグを見せた。
そのバッグは、しっかりとした作りの革製で、とてもおしゃれなデザインだった。
「へぇ~、個人の手作り品とは思えない! ああいうサイトって、普通の主婦が作って出品したりしてるんでしょう?」
栞が感心した様子で尋ねると、綾香が答える。
「そうよ。このバッグの作家さんは普通の主婦の方なんだけど、超人気で出品するとすぐに売り切れちゃうの。これも、やっとの思いで手に入れたんだ」
そこで再び愛花が口を開いた。
「海外に行ったら、珍しい布や手芸小物が手に入るんじゃない? だったら、そういうのを使って作ってみたら?」
愛花のアドバイスを聞き、瑠衣がハッとした表情で言った。
「そっか! そういう手もあったか!」
「そうそう。人とは違う個性ある作品を作れば、きっとファンもつくんじゃない? それで、もしヒットしたらうちの出版社から手芸本を出してもらえるよう、掛け合ってあげるからさ~」
「えーっ! それいい~!」
「こういう時、出版社勤務の友達がいると便利だよねー」
「ほんと、すごい! どんどん可能性が広がる~!」
そこで、愛花が瑠衣に聞いた。
「優斗さんのこと好きなんでしょう? だったら、手放しちゃダメだよ」
「そうだよ! 瑠衣は優斗さんがいないと生きていけないんだから」
「そうそう! それに、優斗さんだって瑠衣が一緒じゃないとがっかりすると思うな~」
次々とかけられる励ましの言葉に、瑠衣は目を潤ませながら言った。
「ありがとう! みんなのお陰で決心がついたよ。優斗に『ついて行く』って言ってみる!」
「キャーッ、そうこなくちゃ!」
「優斗さん、絶対喜ぶよ!」
「もう一組ゴールイン決定~!」
笑顔の三人を見つめながら、栞は胸がいっぱいになった。
ここにいる仲間たちは、誰かが悩んでいると、いつも励ましの言葉をかけ、常に前向きな方向へと導いてくれるのだ。
栞自身も、彼女たちに何度助けられたかわからない。
(私には、こんなに素敵な仲間がいる……)
これもすべて、直也に出逢ったお陰だった。
いじめに苦しんでいた高校時代、まさかこんな素敵な友達ができるとは思っていなかった。
(先生は私に素敵な友達まで与えてくれた……)
栞は感慨深い思いを胸に抱きながら、三人に笑顔を向けた。
友人たちと別れた後、栞は電車に乗って帰路についた。
最寄り駅で電車を降りてマンションへ向かっていると、青空に白い月がぽっかりと浮かんでいる。
もう少しすれば、日が沈む。
その時、携帯にメッセージが届いた。メッセージは直也からだった。
【月が綺麗だったから、栞に送るね】
メッセージに添えられた写真には、カリフォルニアの夜空に浮かぶ美しい月が写っていた。
その写真を見た瞬間、栞は無性に直也に会いたくなり涙腺が緩む。
しかし、栞は涙をぐっとこらえると目の前に浮かぶ月を撮影し、メッセージとともに直也に送った。
【ありがとう! 私も月のお返しね!】
すると、すぐに直也から返事が届いた。
そのメッセージは、まるで栞の心情を見透かしているようなものだった。
【傍にいてあげられなくてごめんね。でも、栞への想いはずっと変わらないから。だから、あと少しだけ我慢してくれ】
栞は、メッセージの一文字一文字を目でゆっくり追いながら、こぼれ落ちる涙を手で拭った。
そして再び空に浮かぶ月を見た。
(あと少し……もう少しの我慢だから、頑張らなくちゃ!)
栞は自分にそう言い聞かせると、背筋を伸ばして歩き始めた。
コメント
17件
仲良し4人組の恋バナが楽しくていいなぁ〜🎶って思ってたら、プラス思考のアドバイス✨ このアドバイスで結婚に背中を押してもらえるなんて感謝で胸いっぱいだね😊💞💗 栞ちゃんもナイスタイミングで直也さんからの連絡で嬉しくも寂しさもひとしおだけど、月フォト🌕でググッと我慢😣 離れている分再会の喜びが大きいよ〜栞ちゃん🌸
大切な友人達の嬉しい報告に胸いっぱいだね( ˘͈ ᵕ ˘͈♡) ふと寂しさが募るよね。直也さんはまるで栞ちゃんの気持ちを読んだかのようなメッセージだったね。切なくて会いたくて私も泣くな‥😢 早く戻ってきて欲しいね(´っω・。)
遠く離れた場所で、同じ月を同じ瞬間、見上げている…素敵ですね🌙 お月様を通して、二人の繋がりを感じます。 違う場所、違う時間、同じ月でも見た目はまるで違う。 考え方や生き方も、見方を変えればまるで違う。 お月様を眺めていると、直也先生の教えが走馬灯の様に過ったのではないでしょうか? あと満月を何回見たら二人は逢えるのかな🌕️✨️