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第十七監獄
到着した僕の目に飛び込んできたのは、重火器の爆音と、肉を削る金属の悲鳴だった。
「……あはは! 痒い痒い! もっと深く抉ってくれよ!」
瓦礫の山の中央。
そこでは、二人のナンバーズが、一人の男を包囲して猛攻を加えていた。
一人は、両腕が巨大なガトリング砲へと改造されたNo.3。
絶え間なく火を噴く銃口から、数千発の弾丸がデッドQの肉体を蜂の巣に変えていく。
もう一人は、右腕が凶悪な大型チェンソーと化したNo.4。
唸りを上げる回転刃が、デッドQの腹部を裂き、大量の血飛沫を雨の中に撒き散らしていた。
だが、攻撃を受けている当の本人は、避けるどころか悦喜の表情でそれを受け入れている。
僕と同じ凄まじい再生力が傷を即座に塞ぎ、致命傷をただの刺激へと変換していた。
「……なんだ、あれは。あいつら……ナンバーズは確かに強い。さっき戦ったNo.1やNo.2だって、僕を殺しかけるほどの化け物だった。」
銃弾に打たれ、チェンソーで切り刻まれながら、デッドQはあくびさえ漏らしている。
降り注ぐ弾丸も、肉を裂く回転刃も、デッドQにとってはただのそよ風に等しい。
その光景に、僕は自分の背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。
「……どけ。そいつは、僕が相手をする」
僕が二人のナンバーズの間に割って入ると、銃声とチェンソーの轟音がピタリと止まった。
「……貴様、覚醒者のレイ……か? ふざけるな。デッドQを殺すのが俺たちの任務だ。邪魔をするなら、お前もここで処分する」
腕を銃器に変えたNo.4が、感情の欠片もない声で銃口を僕に向ける。
だが、僕は迷わずその銃身を素手で掴み、力任せに横へと押しやった。
「……話の分かんない人だな。」
「なっ……!?」
僕が呟くと同時に、背後から二人の『影』が音もなく染み出した。
過去、現在、未来――三位一体の拳が、No.3とNo.4の鳩尾を正確に撃ち抜く。
「が、はっ……!?」
防御すら許さない速攻でナンバーズを地面に沈めると、瓦礫の山の上から爆圧のような笑い声が降ってきた。
「ははは! いいじゃねぇか! その雑魚どもより、よっぽど面白そうだ!」
瓦礫を降りてきた男――デッドQ。
近くで見ると、その巨体は暴力の塊そのものだった。
見上げるような身長、丸太のような筋肉。彼が放つ圧倒的な殺気に、僕は思わず一歩後退りそうになるのを堪えた。
「……戦いに来たわけじゃない。覚醒者……僕と同じ君に、この力のことを聞きに来たんだ」
僕は震える声を抑え、努めて冷静に問いかけた。
だが、デッドQは僕の言葉など最初から興味がないというように、バキバキと拳を鳴らす。
「あー、あー。理屈はどうでもいい。さぁ、勝負しようぜ……ゲームだよ、ゲーム」
「……こっちも、話のわからない人だな。僕が知りたいことを教えてくれたら、存分に戦ってあげるから」
取引のつもりだった。だが、デッドQの瞳に宿る狂気は、僕の予想を遥かに超えていた。
「いや、それが人にものを頼む態度か? ……ハッ、いいぜ。じゃあ、俺に勝ったら教えてやるよ。じゃあ行くぞ……。」
――ドォォォォンッ!!
言葉の終わりと同時に、地響きと共に巨体が消失した。
「来るッ!!」
僕は反射的に影を三体に増やし、正面から迫る巨大な拳を迎え撃つ。
◆
一方、激突の余波すら届かない、雨の静寂に沈んだ路地裏。
なんだ、この女は。
振り返ったはずの、その真後ろ。
心臓を素手で掴まれたような錯覚に、俺の呼吸が止まる。
ずぶ濡れの黒髪、不気味に白い肌。そして、夜の闇に発光するかのような白いドレス。
「……誰だ」
絞り出した声が、自分でも驚くほど震えていた。
女は恍惚とした表情で、俺の傷口から流れる血を見つめている。
「私? ……私はね、シオリ。アレン様を世界で一番愛している、ただの女の子だよ」
シオリ。
聞いたこともない名前だ。
「……シオリ? ナンバーズか。何番だ……」
国家防衛局の隠し球、あるいは欠番のナンバーズか。
俺は女を排除するため、無理やり腕を動かそうとした。
女性を殴る趣味はないが、関節技で組み伏せるくらいは容易いはずだ。
「俺はあいつを追わないといけないんだ。お前に構ってる暇はない」
苛立ちと共に言い放ち、強引にその場を立ち去ろうとした。
だが、女はくすくすと、場違いに可憐な声で笑った。
「私はナンバーズ? じゃないよ? ……覚醒者だよ、アレン様」
「……何?」
足を止めた俺を、シオリの漆黒の瞳が射抜く。
「私はね、アレン様のすべてを知ってるよ。好きな食べ物、使ってる洗剤……人には言えない秘密、ぜんぶ」
「……ストーカーか」
吐き気がした。だが、女の口角はさらに吊り上がる。
「アレン様? お母さん……親友……自分せいで死んじゃっただよね?トラウマなんだよね? 可哀想… 私がお母さんの代わりになってあげようか?」
「な…… 」
俺だけの秘密、俺しか知らない罪、なぜこの女その事を……。
「あとね、えっとね、アレン様がなんでナンバーズになったかも知ってるよ。……悔しかったんだよね? 誰よりも輝きたくて、でも届かなくて、だから『兵器』にまで成り下がって。……私はね、そんな可哀想で愛おしいアレン様を、自分だけのものにしようと思って来たの」
「貴様、どこでそれを……ッ!」
心臓を冷たい手で直接掴まれたような衝撃。
俺が誰にも言わず、墓場まで持っていくはずだった『劣等感』、『罪悪感』。
それを暴かれた瞬間、俺の脳は、思考を拒絶するほどの強烈な「恐怖」に支配された。
ギチ、ギチギチ……ッ!
全身の細胞が悲鳴を上げ、岩のように硬直する。
踏み出そうとした足も、叫ぼうとした喉も、シオリという存在に対する生理的な拒絶によって封印される。
「あ……が……っ」
「あふ、あはは! 素敵……。もう二度と、あんな子のあとを追わないで。今日からここが、あなたと私だけの世界だよ。アレン様。一緒に私のお家に帰りましょう」
雨音に消えていく、シオリの甘い囁き。
一歩も動けないまま、俺はただ、闇の中で微笑む「白い影」を見つめるしかなかった。
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#貴種漂流譚