テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
バァキキキン…!
「……はぁ、はぁ。……重い。なんだこの打撃……。僕は3人分の拳を重ねて防いだはずなのに」
腕の芯まで痺れるような重圧。2メートルの巨体が生み出す質量攻撃は、理屈を超えて僕の肉体を削りに来ている。
「おっ、耐えたなぁ! さすがは覚醒者いい防御だ」
デッドQの追撃が迫る。
僕は反射的に、背後の地面に『過去の影』を飛ばした。影が着地した瞬間、僕の肉体はその位置へと瞬時に同期し、デッドQの拳が空を裂く。
「殴り合いじゃ勝負にならない。デッドQの能力はまだ分からない。まずは情報を引き出さないと……。でも、こいつの口を割らせるのは、拳じゃ無理……。あー、ショットガンがあれば」
「あのー、ナンバーズさん?ショットガンとか持ってきてます?」
僕は倒れているNo.3に優しく問いかける。
「……あ、あぁ。車のトランクの……中だ」
返辞を聞くのと同時に、僕は『未来の影』を、数メートル離れた彼らの車両へと飛ばした。
「なぁ、逃げんなよ? そんな距離、一歩で詰めてやるよ!」
デッドQの巨体が爆ぜ、猛スピードで僕の目の前まで肉薄する。 その巨大な拳が僕の顔面を捉えるコンマ数秒前。
「逃げてないよ」
トランクを開け、ショットガンを掴んだ『未来の影』を、現在の僕へと同期させる。
デッドQの瞳が驚愕に見開かれた。 何もないはずの僕の両手に、唐突に重厚な鉄塊が現れたからだ。
「……あ? いつの間に…」
僕はゼロ距離で、デッドQの鼻先に銃口を押し当てた。
ドォォォォンッ!!
夜の監獄に、肉を撒き散らす轟音が響き渡る。
僕はデッドQの顔面を、至近距離から散弾で丸ごと消し飛ばした。
「……あ」
硝煙の中、首から上が文字通り「消えた」巨体がゆっくりと地面に倒れ伏す。 あまりに手応えがありすぎた。
「やば……。ついに顔面、吹っ飛ばしちゃった……。死んだ? これじゃ情報が聞き出せない……!」
僕は自分のしでかしたことに青ざめ、慌てて駆け寄ろうとした。
だが、その瞬間。
地面に転がっていた「それ」が、何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。
「な、……えっ?」
消し飛んだはずの頭部が、ドクドクと不気味な音を立てて肉を盛り上げ、瞬く間に再生していく。
眼球が、皮膚が、髪が元通りに。 デッドQは首を一度ボキリと鳴らし、眩しいものでも見たかのように目を細めて笑った。
「うーん…… 今のはびっくりしたぜ」
「……嘘でしょ。あんだけの攻撃を喰らって、すぐ起き上がるなんて…」
僕たち覚醒者の肉体はデタラメだ。でも、僕の脳……120%に加速したこの思考中枢だけは、本能が警鐘を鳴らし続けている。
『ここを壊されたら、僕たち覚醒者でも死ぬ』
教わったわけじゃない。でも、自分と同じ力を持つデッドQの顔面を消し飛ばした瞬間、確信した。
あれは、僕たちにとっての「絶対的な終焉」のはずだ。
なのに。「うーん? びっくりしたぜ。さぁ、続きをしよう」 デッドQは、再生したばかりの新しい瞳で僕を捉え、邪気のない笑みを浮かべた。
脳を撒き散らし、覚醒者の核を粉砕されたはずの男が、何事もなかったかのように「思考」を再開している。
「……まじ? 脳を壊されたのに何で生きてるんだ……!?」
本能が告げる弱点を突いたはずなのに、目の前の怪物は倒れない。 再生が速いとかそういうレベルじゃない。デッドQの能力に何か秘密があるのか。
「どうした! 次はどこを吹っ飛ばしてくれるんだ? あはは! 楽しいなぁ、おい!」
絶望的な実力差。 僕はショットガンを再び強く握りめた。
――激闘が続く監獄。その喧騒から遠く離れた路地裏で、もう一人の怪物が口を開く。
◆
なぜだ。 踏み出そうとした右足が、まるでコンクリートを流し込まれたように地面に縫い付けられている。 指先一つ、視線一つ動かせない。
レイとの戦闘のせいか? いや、あいつの影にこんな搦め手はなかったはずだ。
「……シオリ、といったか。覚醒者というのは……本当か」
脂汗を流しながら、俺は喉の奥で辛うじて言葉を紡いだ。
背後に立つ女は、俺の耳元に唇を寄せ、毒のように甘い声を流し込む。
「本当よ? 私の純粋な思いが、やっと神様に届いたの。そしたら神様が力をくれたわ……。アレン様を、私だけのものにするための力を」
「……神だと? そんなもの、俺は信じない。俺が信じるのは自分の力……この肉体だけだ」
脂汗を流し、全身を強張らせながら俺は吠えた。
俺が積み上げてきた研鑽も、兵器としての性能も、すべては俺自身のためにある。
「ふざけるな。……俺は、お前のものになんてならない!」
魂を絞り出すような叫び。
だが、シオリは怯えるどころか、愛おしい子供のワガママを聞く母親のような、残酷なまでに優しい笑みを浮かべた。
「うふふ……アレン様、まだそんなこと言えるなんて素敵。でも、身体は正直よ? もう一歩も動かせないでしょ?」
シオリの細い指が、俺の首筋を冷たく這う。
「もう、あなたは私のものなの。……あなたの『身体』は、さっき私が支配しちゃった。あとは私のお家でゆっくり……あなたの『心』を支配するだけ」
「……体を支配しただと……?」
俺の言葉は、雨の音に掻き消されそうなほど弱々しく響いた。
「そう、それが私の力なの」
シオリは俺の胸板に耳を寄せ、まるで宝物の鼓動を確認するように目を細めた。
「私の力はね、相手が私を『怖い』とか『気持ち悪い』とか、そういう負の感情を抱いた瞬間に発動するの。その思いが引き金になって、あなたの細胞一つ一つを私の奴隷に変えちゃう。……簡単に言うと、動けなくなっちゃうのよ」
シオリは俺の頬をなぞり、少しだけ寂しそうに眉を下げた。
「私に対して負の感情を抱くなんて、本当は少し残念なんだけどね……。でもいいの、もうあなたは私のものだから。あふ、あはは!」
雨音に混じる、狂った高笑い。 俺が彼女を「化け物」だと忌み嫌い、「不気味だ」「気持ち悪い」と遠ざけようとしたその感情そのものが、自分を縛る鎖になっていたのだ。 抗うほどに肉体は固まり、逃げようとするほどに支配は深まっていく。
最強の「兵器」として再構築されたはずの俺の身体が、自分自身の「心」によって裏切られていく。
俺には、この状況をどう打破すればいいのか、全く分からない。
……だが!!! 俺の目的は変わらない。こんなところで、得体の知れない女の飼い犬になってたまるか。
覚醒者たちをすべて叩き潰し、俺が唯一無二のスーパースターに返り咲く。
その野望の灯火だけは、この冷たい雨の中でも決して消せはしない。
2,444
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!