次の日花純は少し早めに出勤した。
今日の開店準備前に話したい事があるからと昨日優香に伝えていた。だから優香も早く出勤してくれるはずだ。
壮馬は花純に合わせて少し早めに家を出てくれた。エレベーター内で壮馬と別れると花純はフローリストへ向かった。
すると既に優香がカフェの椅子に座っていた。優香は花純の姿を見つけると、
「花純ちゃんおはよー」
と言って手を振った。
「すみません朝早くにお時間を作っていただいて」
「ううんいいのよ。あ、ついでにカフェラテ買っておいたからどうぞ」
「ありがとうございます」
花純が代金を支払おうとすると、
「いーのいーのご馳走するわ」
「すみません、ご馳走様です」
花純は恐縮しながらお礼を言うと優香の前に座った。
「で、お話の件なんですが……」
花純が話を始めようとした時優香が被せるように言った。
「花純ちゃんの好きなようにしていいと思うわ」
花純がびっくりしていると優香が落ち着いた声で話し始めた。
「昨夜優斗さんと飲みに行って色々と話を聞いたわ。で、結論から言うと、あなたは壮馬さんと結婚するんだから青山花壇なんかに縛られる必要はないと思うわ。私達が今いる会社はコネ社員ばかりを優遇してそれ以外の社員をぼろ雑巾のように使い捨てにする会社よ。そんな会社にしがみついていても明るい未来なんてないでしょう? だから羽ばたいていいと思うわ」
「優香さん!」
「優斗さんがね、花純ちゃんが私の事を思って会社を辞めないかもって心配していたの。だから今日はっきり言わせてもらうわ。花純ちゃんはこれから新しい道を進むべきだってね」
優香はそう言って穏やかに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。凄く有難いお言葉です。でも優香さんは?」
「実はね、私も辞める事にしたわ」
「えっ?」
「もうね、ほとほとうんざりしたっていうか、私の方こそこんな馬鹿みたいな会社にいつまでもしがみついちゃって時間を無駄にしたかなって。で、漸く決心がついたの。だから私も辞めるわ」
「…………」
花純はびっくりし過ぎて何も言えなかった。まさか優香までこんなに早く退職を決断しているとは想像もしていなかった。
とにかく落ち着こうと一口カフェラテを飲む。すると優香が続けた。
「昨日優斗さんから全部聞いたの」
その時優香はチラリと周りを見回すと花純にもっと顔を近づけるように手招きをする。
花純が言われた通りに顔を近づけると優香が小声で言った。
「もうじき青山花壇は買収されるわ。花純ちゃんも壮馬さんから聞いているでしょう?」
「え? あ、はい。でももっと先の事かと思っていました」
「予定ではもう少し先だったみたいね。でも壮馬パパが急に指示を出したらしわ」
「副社長のお父様が? なんで急に?」
「今なら底値で買い叩けるらしいわ」
「買い叩く?」
「そう。青山花壇の経営状態が芳しくないのは私も気づいていたんだけれどまさかそこまで酷いとは思っていなくてね。壮馬パパが色々調査した結果想像以上に内部が腐っていて酷かったみたい。で、今が絶好のチャンスらしいわ」
「そうだったんですね…」
「で、私は青山花壇は辞めるけれどその後高城不動産が新しく設立する子会社に入れてもらえる事になったの。高城不動産は今後サービス業にも力を入れるらしくてそれを取りまとめる会社の営業企画部の主任に迎え入れてくれるそうよ。そこに入れば今後もフローリストとも関わっていけるし新たなビジネスも起ち上げられるみたいなの。面白そうでしょう?」
優香は目をキラキラさせて言った。そんな優香を見て花純はホッとした。壮馬は優香の事もちゃんと考えていてくれたのだ。
なんだか生き生きと楽しそうな優香を見て花純は心から嬉しくなる。
「だからこれからは花純ちゃんとは職場が違っちゃうけれど、同じ高城不動産の傘下で働く事には違いないんだから今後もよろしくね! お互いに頑張りましょう!」
「はい。優香さんが新天地で頑張るのなら私も頑張れます」
「そうよ、その調子! あとね、優斗さんの話だとうちの店のスタッフや山本のおっちゃんはこれまで通り働いてもらってもいいそうよ。スタッフの事が一番心配だったからこのまま続けていけるって知ってホッとしたわー」
優香は心からホッとしている様子だ。
「それは本当に良かったです。え? あ、でも店長は? 優香さんが店長を辞めたら誰が店長に?」
「洋子さんにお願いするわ。洋子さんの義理のお父様、先日介護施設に入所したんですって。で、一気に暇になったからまた社員に戻りたいーってぼやいてたのよ。だからちょうどいいでしょう?」
「洋子さんなら安心ですね。店の事を知り尽くしてますし」
「適任よね。だから私達は何も心配せずに新天地へゴーよ!」
優香はそう言ってフフッと笑った。
そして花純が退職届を本社へ持って行く日に優香も一緒に行くと言った。二人は木曜日にタッグを組み本社へ乗り込む事にした。
そして木曜日がやって来た。
その日は急遽洋子さんに朝からシフトに入ってもらい花純と優香は退職届を持って本社へ向かった。
前もって人事部長に面談の予約を入れておいたので二人は一緒に会議室へ通される。
人事部長が来ると二人揃って退職届を提出した。
「なんでまた二人同時に?」
人事部長は驚きを隠せない様子だった。そこで優香が事前に花純と打ち合わせていた退職理由を伝える。
「実はこの度転職する事になりまして、転職先の会社からなるべく早く来て欲しいと言われまして」
優香くらいの年齢だと転職する社員も珍しくはない。もう既に行き先が決まっているのだから人事部長も引き止める事は出来ないはずだ。
それに元々優香は自分に非がないにも関わらず若い時に左遷された身だ。それなのにまさか今更図々しく引き止める事などさすがに腐り切った人事部でも出来ないだろう。
次に花純も退職理由を説明した。
「私は近々結婚する事になりまして、相手の希望もあり退職させていただく事にしました」
この理由ならさすがの人事部長も手も足も出ない。
結婚相手が辞めるようにと言っている=専業主婦を希望しているか相手の転勤等で引っ越しをするのかもしれない。
普通はそう受け取るだろう。
その時人事部長は、花純の左手の薬指に輝くとてつもなく大きなダイヤモンドの指輪に目を奪われた。
それを見た部長は花純が玉の輿に乗ったのだとすぐに理解する。結婚相手がそれ相応の人物だとしたら余計に引き止める事は出来ない。
その時部長はガックリ肩を落とした。そしてしばらく無言で唸った後、観念したのか素直に二通の退職届を受理した。
その瞬間二人は目くばせをしながらニヤリと笑った。
その後人事部長から説明があり、会社の規則に則り引継ぎや次の人材を確保する為にあと1ヶ月は在籍するようにと言われた。
もちろん二人は快く了承した。
会議室を出た途端、二人は手を握り合って無言で飛び跳ねた。
「意外とすんなりいったわね」
「はい、意外でした」
「もしかして経営難で人員削減したかったとか?」
「それはあるかもしれませんね」
二人は声を出して笑いながら廊下を進む。
「本社へ来るのも最後かもしれないから、記念に社食でも寄って行く?」
優香がそう提案したので、
「いいですね、行きましょう」
花純もノリノリで答えると二人は胸を張って社員食堂へ向かった。
コメント
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青山花壇買収の件が予定よりも早まり、花純ちゃんと優香さんが退職することに.... 退職の許可が すんなり下り、またフラワーショップと そこで働く皆さんがそのまま 存続できるようになり 良かったね~😌💓 優香さんと花純ちゃん、これからの活躍が楽しみです🍀✨
優斗さんから詳細を聞いていて花純ンの負担にならないように話を進めてくれる優香さん💐🥰 さすがとしか言いようがないです✨買収も雄馬パパの指示で早くなりそうだしさすがタイミングを逃さなさない敏腕社長ですよね⚔️✨ しっかりとした言い逃れのできない理由を掲げて2人ともスムーズに退職届を受理してもらい、最後の記念に食堂ランチ🥗 と、なんだか誰かに会いそうなイヤな予感…坂上先輩⁉️元凶のお嬢⁉️イヤー🙀😱😰⚡️