その時、ちょうど雪子の元夫・笹倉俊之が昼の休憩を取ろうと地下の階段から上がって来た。
地下の食料品売り場へ異動してからの俊之は相変わらず居場所がなかった。
前の部署にいた時は媚びを売ってすり寄って来る社員も多くいたのに今では皆が俊之を避けている。
雪子との離婚の原因になった河合みなみとは今でもつき合っていた。
雪子と離婚した後すぐにみなみから結婚を迫られたが俊之は結婚する気にはなれなかった。
元々は俊之が既婚者なのを知っていてみなみが積極的に迫って来た。だから魔が差してついそういう関係になってしまった。
俊之は決して本気ではなかった。
そう、魔が差したのだ……
そこからずるずると今日まで付き合っている。
20年前に深い仲になった時はみなみもスタイルが良く男を惑わす色気に満ちていた。まさに魔性の女だ。
そんなみなみも今年で53だ。みなみは別れた雪子よりも3つ年上だった。
今のみなみに昔の面影はなくスレンダーだった身体はすっかり肉付きが良くなり一歩間違えればただのおばちゃんだ。
売り場ではすっかりお局…いやお局を通り越して肝っ玉母ちゃんのような扱いである。
仕事上では頼りになるその貫禄ある態度は、俊之にとっては萎える原因でしかなかった。
俊之は既にみなみに女を感じなくなっていた。
そこへ40代の派遣販売員、江崎美紀が言い寄って来た。
当時エリート部署の部長候補であった俊之に対し様々な色仕掛けをして来た。
俊之が独身だと知るとその勢いは更に増していく。
そこでまた魔が差した……
オスとしての本能を呼び覚ますような甘い誘惑にうっかり手を出してしまった。
それを知ったみなみが逆上し社員食堂で美紀と大喧嘩になる。そこで全て上司に知られてしまった。
定年まであと3年、残りの3年は部長職に就きデパートマンとしての仕事をきっちり終えて華々しく退職する予定だった。
その計画がすっかり狂ってしまった。
(どこでどう間違えてしまったのだろうか?)
俊之はそんな事をつらつらと考えながら階段を上がり1階へ着いた。1階の北出口を出た所にコンビニがあるので俊之はそこで昼食を買おうと思っていた。
その時俊之は雪子が毎日持たせてくれた手作りの弁当を思い出していた。なぜかその愛妻弁当が今になって恋しい。
1階のフロアに出た俊之は、本当は禁止されている休憩中のフロア立ち入りを堂々とする。
スーツで仕事をしていた時は売り場を自由に歩けたのに、食料品売り場のユニフォームになった途端立ち入り禁止とは納得がいかない。皆同じ社員じゃないか。そんな事を考えていると雪子によく似た女性を見つけた。
びっくりした俊之は思わずその女性を追いかけた。女性は横にいる男性と手を繋いでいる。
女性が左を見た瞬間はっきりと顔が見えた。間違いない、雪子だ!
20年ぶりに見た雪子は昔とあまり変わらずに若々しかった。
昔は可愛らしいイメージだったが、今目の前にいる雪子は大人の女性のセクシーさを漂わせている。
昔は決して着なかった身体にフィットしたワンピースを身に纏いとても美しい。雪子は別れた時よりもはるかに綺麗になっていた。
俊之はショックを受けていた。夫と別れた元妻が綺麗になっている事ほど屈辱的な事はない。
雪子は日焼けしたガッチリ体型のイケメンと笑顔で会話をしている。俊之はその男を観察した。
年の頃は俊之と同じくらいだろうか?
平日のこの時間にカジュアルな服装で女とデパートに来るという事は普通のサラリーマンではない。
自営業かフリーランスか? 堂々とした歩き方は男が自信に満ち溢れている証拠だ。
あの男が板倉が言っていた雪子の恋人なのか?
もしそうなら板倉の言った事は本当だった。男はかなりハイスペックなイケオジだ。
俊之は気にな二人の後をつけて行った。
歩きながら食品売り場の白衣を脱ぎ和帽子も外した。着たままフロアを歩いているとかなり目立ってしまうからだ。
雪子と男は楽しそうに会話をしながら上りのエスカレーターへ乗った。
二人が上の階へ向かうのを確認した俊之は慌てて階段へ走り二人の後を追った。
コメント
4件
どこでどう間違ってしまったのだろうか? 答え:俊之、初めからです😤 ちょっと仕事は?追いかけて何するのよ⁉️ あなたと俊さんは月とスッポン‼️俊さんの言動をとくと見て打ちのめされればいい😤
元夫って勝手な男性だったのね…ガッカリしましたよ…虚しいわね😟
自分本位で、自分がおかした罪を全く自覚していない 残念な 元夫 俊之😱 雪子さん、こんな男と 早く別れて正解でしたね~((・ω・`;)) 未練がましく雪子さんを尾行したりして、雪子さんに何かしてこないか心配ですが.🤔 でも 、王子様(俊さん)がきっと彼女を守ってくれますね....🤴👸💖✨