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高校1年・Nさん
私は、つらいことがあっても人前では普通にします。
笑うし、話すし、授業も受けます。
誰かに「大丈夫?」と聞かれても、「大丈夫」と答えます。
本当は大丈夫じゃないこともあります。
でも、その場で「つらい」と言う方が恥ずかしいし、相手を困らせる気がします。
この前、友達に「最近ちょっと無理してない?」と言われました。
私はいつも通り「全然」と答えました。
でも、その子が帰ったあと、急に苦しくなりました。
自分から平気だと言ったのに、本当は気づいてほしかったんだと思います。
でも、気づかれたら気づかれたで怖いです。
どうして自分から隠しておいて、気づいてほしいと思ってしまうんでしょうか。
遥「……これ、矛盾してるように見えるけど、俺はそんなに変じゃないと思う」
N「本当ですか?」
遥「うん。『自分から言うのは怖いけど、誰にも気づかれないのも寂しい』ってことじゃない?」
N「……たぶん、それです」
蓮司「でも、おまえは相手には『大丈夫』って言ってる」
N「はい」
蓮司「それで相手が引いたら、『なんで気づいてくれなかったんだ』ってなる」
N「……そうです」
蓮司「相手からしたら難易度高いな」
N「ですよね……」
遥「でも、そこで自分を責めすぎなくていいと思う」
蓮司「俺も責めてるわけじゃない」
N「分かってます」
蓮司「じゃあ、まず整理する。
おまえは『大丈夫じゃない』と言うのが怖い」
N「はい」
蓮司「でも、本当は誰かに気づいてほしい」
N「はい」
蓮司「つまり、助けを求めたい気持ちはある。でも、自分から助けを求めるところまでは怖くて行けない」
N「……」
蓮司「だから『大丈夫』と言ったあとで、相手が気づいてくれることを期待する」
N「そうかもしれません」
日下部「ただ、それを相手が正確に読み取れるとは限らない」
N「……はい」
日下部「『大丈夫』と言われたら、本当に大丈夫だと思う人もいる」
N「分かっています」
日下部「だから、気づいてほしいと思うこと自体は悪くないが、相手が気づけなかったことまで責める必要もない」
N「……」
遥「それと同時に、自分が『大丈夫』って言ったことを理由に、全部我慢する必要もないんじゃないかな」
N「でも、自分で大丈夫って言ったのに……」
遥「あとから変えていいと思う」
N「……変える?」
遥「『さっき大丈夫って言ったけど、やっぱり大丈夫じゃなかった』って」
N「そんなこと言えるんですか」
蓮司「言えるだろ」
N「恥ずかしいです」
蓮司「じゃあ、恥ずかしいまま言えばいい」
N「……」
蓮司「完璧に整理してから話そうとするから難しくなる」
N「でも、何から話せばいいか分からないです」
日下部「全部説明しなくていい」
N「……」
日下部「『さっき大丈夫って言ったけど、本当は少しつらかった』だけでも伝わる」
N「それだけ?」
日下部「それだけでいい場合もある」
N「……」
日下部「相手がそこから聞くかもしれない。聞かないかもしれない」
N「聞いてくれなかったら……」
日下部「そのときは、そのとき考えればいい」
N「……」
遥「でも、言ったことで『本当は大丈夫じゃなかった』ってことは伝わる」
N「はい」
遥「それだけでも、今までとは違うんじゃないかな」
N「……そうですね」
蓮司「あと、おまえが『気づいてほしい』と思うことを、そんなに悪いこと扱いしなくていい」
N「でも、自分勝手じゃないですか?」
蓮司「なんで?」
N「自分では何も言わないのに、相手には分かってほしいって思ってるから」
蓮司「思うだけなら自由だろ」
N「……」
蓮司「問題は、それを相手が分からなかったときに、『分かってくれない人だ』って決めつけること」
N「あ……」
蓮司「期待することと、相手に義務を負わせることは別」
N「……」
蓮司「『気づいてくれたら嬉しい』で止めておけばいい」
N「それなら……」
遥「少し楽?」
N「はい」
遥「俺も、気づいてほしいと思うこと自体は悪くないと思う」
N「遥くんもありますか?」
遥「ある」
N「……意外です」
遥「そう?」
N「なんとなく、遥くんは自分から何も言わない感じがして」
遥「……まあ、言わないことは多いけど」
蓮司「おまえも人のこと言えないだろ」
遥「……うるさい」
Nが少し笑う。
遥「でも、本当に言いたくないときもあるし、言えないときもある。でも、誰にも気づかれなくて平気かって言われたら、そうでもない」
N「……」
遥「だから、矛盾してるとは思わない」
N「でも、気づいてもらったらどうしたらいいか分からないです」
日下部「そこも別だ」
N「?」
日下部「気づいてほしいことと、気づかれた後に何をするかは別」
N「……」
日下部「『最近つらそうだけど』と言われたからといって、その場ですべて話す必要はない」
N「……そうなんですか?」
日下部「『ちょっと疲れてる』だけでもいい」
N「それでいいんだ」
日下部「全部かゼロかにする必要はない」
蓮司「おまえ、毎回そこなんだよ」
N「……」
蓮司「『本当はつらいです』って言ったら、全部話さなきゃいけないと思ってる」
N「……あります」
蓮司「だから言えない」
N「はい」
蓮司「でも、話す量は自分で決められる」
N「……」
蓮司「『今日はここまで』でもいい」
日下部「話したくない部分は話さなくていい」
N「それなら、少し言えそうです」
遥「うん」
N「……でも、もし『大丈夫じゃない』って言ったら、相手が心配してずっと気にするかもしれない」
日下部「それは相手が決めることだ」
N「……」
日下部「心配するかどうかも、どこまで関わるかも、その人が判断する」
N「私が全部考えなくていい?」
日下部「いい」
蓮司「また先回りしてる」
N「……」
蓮司「まだ何も頼んでないのに、『相手が困るかもしれない』ってところまで考えて、自分から閉じてる」
N「そうです」
蓮司「だったら、まず一個だけ伝えてみればいい」
N「一個?」
蓮司「『大丈夫じゃない日もある』」
N「……」
遥「それなら、全部説明しなくてもいい」
N「はい」
日下部「それを伝えた後で、相手が何をするかは相手に任せればいい」
N「……」
Nは少し考えてから、相談用紙を見た。
N「友達に言ってみます」
遥「何て?」
N「『この前、大丈夫って言ったけど、本当はちょっと無理してた』って」
蓮司「それでいい」
N「もし聞かれたら、そのとき話せるところだけ話します」
日下部「それでいい」
N「……」
遥「気づいてほしいって思ってた自分も、別に嫌いにならなくていいと思う」
N「……はい」
遥「誰かに分かってほしいって思うのは、そんなに悪いことじゃないから」
N「ありがとうございました」
扉が閉まる。
蓮司「『気づいてほしいけど、気づかれるのは怖い』か」
遥「……難しいよな」
日下部「でも、分ければいい」
蓮司「何を?」
日下部「気づいてほしい。全部話すのは怖い。少しだけ話す。今日は話さない。
全部同時に決めなくていい」
遥「……そういうの、大事かもな」
蓮司「まあ、相手に察してもらうだけで全部解決しようとすると、いつか詰むけど」
遥「そこは言い方あるだろ」
蓮司「事実だろ」
日下部「だから、少しだけ自分から出せばいい」
遥「……少しだけ、か」
三人の間に、静かな時間が流れた。
🗝 三人からのことば
遥
「自分から言うのは怖い。でも気づいてほしい」と思うことは、矛盾していてもおかしくない。
全部話す必要はないから、言えるところだけ自分から出してみてもいい。
蓮司
「気づいてほしい」と思うことと、「相手なら分かって当然」は別。
期待してもいい。でも、伝える量まで全部我慢する必要はない。
日下部
気づかれたからといって、全部説明する必要はない。
「今日はここまで」と決めてもいい。相手がどう受け取るかまで、一人で決めなくていい。
#ドラマ
シュメール
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コメント
1件
Nさんの「気づいてほしいけど、自分からは言えない」って気持ち、すごくよく分かります。でも蓮司さんの「思うだけなら自由。問題はそれを相手が分からなかったときに決めつけること」っていう言葉が胸に刺さりました。「全部かゼロかじゃなくていい」「今日はここまででいい」って考え方、もっと早く知りたかったな…。 遥くんが「俺もある」って言ったのも、意外で、優しい空気が出てて好きです。この三人の距離感すごくいいですね。