テラーノベル
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放課後。
同じ教室。
机の配置も、ほとんど変わっていない。
ただ、空気だけが少し違う。
静か。
でも、軽くない。
「なあ」
呼ばれる。
中央。
立つ。
囲まれる。
「顔」
短く言われる。
意味が一瞬分からない。
「その顔なに?」
続く。
自分の顔に意識が向く。
何もしていないつもりだった。
でも、見られている。
「……普通だけど」
答える。
「普通?」
繰り返される。
「それが?」
笑い。
「無表情ってこと?」
言われる。
少しだけ口元を動かす。
整えようとする。
「今笑ったよな?」
すぐ来る。
否定しようとする。
「違う」
言う前に、
「ふざけてんの?」
被せられる。
距離が近い。
逃げられない。
「ちゃんとしろよ」
“ちゃんと”がまた来る。
何が正しいか分からない。
「……どうすればいいの」
口に出る。
その瞬間、空気がわずかに揺れる。
「は?」
低い声。
「指示待ち?」
笑い。
「自分で考えろよ」
さっきと同じ言葉。
でも、考えても否定されるのは分かっている。
「……考えてる」
言う。
「じゃあそれやれよ」
即座に返る。
何を。
言葉が詰まる。
「ほら、止まった」
笑いが落ちる。
「やっぱ無理じゃん」
軽く言われる。
その一言で、流れが決まる。
「なあ」
別の声。
「こいつさ」
周りを見るように。
「空気悪くする役だよな」
笑いが広がる。
「それな」
すぐ同意が来る。
「なんかいるだけでさ」
少し間。
「重い」
その言葉で、固定される。
役割。
決まる。
「違う」
反射で言う。
すぐに。
でも、
「ほら」
指をさされる。
「今もだろ」
一斉に視線が来る。
逃げ場がない。
「否定した時点で」
誰かが言う。
「空気悪くなった」
笑い。
成立する。
何もしていないのに。
「……違う」
もう一度言う。
声が少し強くなる。
その瞬間、
「はい、それ」
遮られる。
「今の」
指をさされる。
「そういうとこ」
断定される。
何も返せない。
言えば言うほど、材料になる。
「じゃあさ」
軽い声。
「逆にやってみ?」
意味が分からない。
「明るく」
短く言われる。
試すしかない。
少しだけ、声を上げる。
「……大丈夫」
言ってみる。
その瞬間、笑いが爆発する。
「無理すんなって」
「キモ」
即座に来る。
「似合ってねえ」
言葉が重なる。
顔が固まる。
戻す。
「はい無表情」
すぐ拾われる。
「だからそれだって」
どっちも違う。
どっちもダメ。
逃げ道がない。
「なあ」
低い声。
近い。
「ちゃんと役割やれよ」
言われる。
役割。
もう逃げられない。
「……分からない」
小さく言う。
「分かるだろ」
すぐ返る。
「そこに立ってるだけでいいんだよ」
軽く。
でも、重い。
「何もしないで」
続く。
「邪魔な空気出してろ」
笑い。
矛盾。
でも、成立している。
何もしないのに、“していること”にされる。
立つ。
動かない。
何も言わない。
でも、
「ほら」
声。
「今の」
指をさされる。
「感じ悪い」
成立する。
理由は後付け。
でも、決定だけが先にある。
「……どうすればいいの」
もう一度、言ってしまう。
その瞬間、腹に衝撃。
強い。
息が抜ける。
体が折れる。
「それ聞くなって言ってんだろ」
低い声。
「自分でやれよ」
でも、やっても否定される。
分かっている。
分かっているのに、体がついていかない。
呼吸が戻らないまま、立たされる。
「ほら」
誰かが笑う。
「ちゃんと空気悪くなってる」
周りが頷く。
それで確定する。
遥は立っている。
何もしていない。
でも、“何かをしていることにされる”場所に、完全に固定される。
抗うほど、証明になる。
黙っても、証明になる。
どこにも逃げ道がない。
コメント
1件
うーん……読んでて胸が詰まるような第88話でしたね。 短い文と「指さし」で固定されていく感じが、読んでるこっちまで息苦しくなる。何をしても否定される、黙っても証明になる、この“逃げ道のなさ”の描き方がすごく的確で……。特に「役割」という言葉で固定される流れ、あそこは背筋が冷えました。 ruruhaさんの文体、最小限の言葉で空気を圧縮するのが本当に上手い。伏線の置き方も含めて、「なぜこの場所が逃げられないのか」が説明じゃなく感覚で伝わってくるのが、この作品の強みだと思います。
くつしたのあな
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