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それから3日後、翔太の手術の日がやって来た。

瑠璃子は翔太の病室で手術前の準備をしていた。

術後翔太は高度治療室に入る為この病室には戻って来ない。移動の為に荷物をまとめていると翔太の両親がやって来たので瑠璃子は後を引き継いだ。


「手術の30分前に迎えに来ますので」


瑠璃子はそう言ってその場を後にした。


予定時刻になると瑠璃子は新人看護師の田中と共に翔太の病室へ向かった。

翔太をストレッチャーに寝かせると手術室まで移動する。翔太の両親も不安そうな表情でついて来た。


3階の手術室前へ到着すると瑠璃子は明るく翔太に言った。


「翔太君、また後で会いましょう」


そしてストレッチャーから離れその場を翔太の両親に譲る。

翔太へ近付いた父親は息子に声をかけた。


「翔太、頑張れよ!」


次に母親が近付き優しく言った。


「お母さんはここでずっと待っているからね」


すると翔太は母親に向かってこう告げた。


「お母さん、手術が終わったら僕またグラタンが食べたいな」

「うん、いっぱい作って持って来るからね」


母親は涙を滲ませながら笑顔で翔太に言った。


その時手術室の扉が開き手術室担当の看護師がストレッチャーを引き継いだ。

引き渡す際手術室の中がちらりと見え奥に手術着を着た大輔の姿が見えた。

瑠璃子は心の中で大輔に伝える。


「翔太君を頼みます」


瑠璃子は祈るように言ってから病棟へと戻って行った。


その後通常業務を続けていた瑠璃子は、何度も時計を見ながら翔太の手術の事を考える。

手術は午前9時から始まったので終わるのは早くても午後3時前後だろう。

瑠璃子は祈るような気持ちで翔太の帰りを待った。


昼休みになり瑠璃子が食堂へ行くと先に来ていた玉木が瑠璃子に「こっちにおいで」と手招きをする。

瑠璃子は玉木の傍まで行くと、


「お疲れ様です」


と言って玉木の前に座った。


「翔太君の手術、あと数時間かかるかなぁ?」


玉木も気になっているようで瑠璃子に聞く。


「そうですね。手術、絶対成功して欲しいです」

「デスラーが執刀医だから大丈夫でしょ」


玉木の言葉に瑠璃子が驚く。


「あれ? 今日は岸本先生を褒めるんですか?」

「あたしはあいつの腕は確かだと思っているからねー」


玉木はそう言って微笑む。

そこで瑠璃子は以前から思っている事を玉木に聞いた。


「あの、前からお聞きしようと思っていたのですが、玉木さんは岸本先生の事をいつもいじっていますが実は可愛くて仕方ないとか思ってません?」

「あら、やだ、ばれちゃった?」


玉木は肩をすくめて笑った。


「あいつを見ているとね、亡くなった弟の事を思い出すのよ。弟は医者だったんだけど35の時に癌で亡くなったの。デスラーはあの子に性格がそっくりでさぁ、だからついちょっかいを出しちゃうのよ」


玉木の告白に瑠璃子は驚く。


「そうだったんですね……それにしても弟さん、ずいぶん早くに亡くなられたのですね…」

「うん、早過ぎたよね。でも翔太君なんてもっと若いんだから病気なんかに負けないで絶対デスラーに治してもらわないとだよね」

「うん、きっと大丈夫ですよ。絶対に成功します」


瑠璃子は力強く言うと弁当を食べ始めた。



そして午後4時少し前、手術室からナースステーションに連絡が入った。

翔太の手術が無事に終了したので迎えに来てくださいとの連絡だった。それを聞いた看護師達は一斉に良かったねーと拍手をして喜ぶ。


瑠璃子は再び新人の田中と一緒に手術室へ向かった。そしてドアの前で待機していた。

手術室前の椅子にいた翔太の両親は心配そうに『手術中』の赤いランプを見つめていた。

二人は家族控室には行かずに7時間もの間ずっとここで待機していたようだ。

その時赤いランプがフッと消えた。


手術室のドアが開いて中から大輔が出て来た。

大輔はマスクを外しながら穏やかな表情で両親の前に来るとこう言った。


「手術は成功しましたよ。悪い所は全て取り除いたのでもう心配はいりません」


その瞬間翔太の母親が泣き崩れた。

そんな妻を支えながら翔太の父親が大輔に言った。


「先生、本当にありがとうございました」


父親は深々と頭を下げる。

夫と一緒に頭を下げた母親はまだ激しく泣き続けていた。

そんな母親に対し大輔は優しく言った。


「お母さんが差し入れて下さったお食事が翔太君の体力を支えてくれましたよ」


大輔は穏やかな笑みを浮かべると再び手術室へ戻って行った。

その言葉を聞いた瑠璃子は胸が熱くなる。


その後手術室の扉が開き翔太を乗せたストレッチャーが出てきた。

翔太の両親はすぐに駆け寄るとまだ麻酔で眠っている翔太に声をかける。


「翔太よくがんばったな」

「翔太君…お帰りなさい」


ストレッチャーを引き継いだ瑠璃子は、


「これから高度治療室に移動しますのでご一緒にどうぞ」


翔太の両親にそう声をかけると二人は頷きストレッチャーの後をついて行った。



午後4時半になると大輔は手術室から病棟に戻って来た。

すぐに高度治療室に入り翔太の術後の状態をチェックする。

特に問題ない事が分かるとナースステーションに来て瑠璃子に投薬の指示を出した。


「先生お疲れ様でした。翔太君、手術成功して良かったです」

「うん、翔太君は頑張ってくれたよ。それと君が翔太君の食欲を回復させてくれたお陰でもあるね」


大輔は微笑んで穏やかに言うと医局へ戻って行った。


その言葉に瑠璃子はなんだか嬉しくなる。

そして7時間にも渡る大手術を執刀した大輔の偉大さを目の当たりにし、瑠璃子は大輔に対し深い尊敬の念を抱いている自分に気付いた。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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コメント

17

ユーザー

大輔先生、お疲れさまでした。 翔太くん、よく頑張りましたね....😭

ユーザー

😭😭😭✨✨✨🍀 翔太くん🥹よく頑張ったね🥹🍀 大輔センセイお疲れ様でした🥹✨

ユーザー

今ね。世間じゃあ、「玉木」さんは色んな意味でキーパーソンみたいっすよ。

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