コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
藤本と別れてから二週間ほどたった。
前から望んでいた事がかなってから、楽しい日々が僕を待っている。
――はずだった。
しかしそんな日々はいっこうにおとずれない。
どこかむなしい日常が僕を包んでいた。
胸にぽっかり穴が空いたようだ。
授業がすべて終わり、僕は一人で帰っていた。
だが、真っ直ぐ駅へは向かわずにブラブラしていた。
なんとなくそうしたかった。
(僕は本当に藤本と別れたかったのか?)
約束の時間よりはるかに早く来る藤本。
僕が十分前に来てもアイツは待っていた。
たとえ適当な返事をしても文句を言わずに話しかけてくる藤本。
そのうちいたたまれなくなり、僕の方からも話しかけるようになった。
二回目のデートで分かったのだが、藤本は花が好きだ。
秋の花が咲いている公園では子供のようにはしゃいでいた。
律義で無邪気な藤本。
僕はそんな藤本を……
気がつくと引合坂にいた。
自分でも何故ここに来たのか分からない。
僕は坂の上で立ち止まった。
木はもうほとんど葉っぱがない。
まぁ当たり前か。
藤本との最初のデートはここだったな。
もう三ヶ月ほど前の出来事だ。
(…帰ろう……)
なんだかむなしくなったので、僕は引合坂をおりようとした。
その時
「えっ!?」
前には藤本。
あっちにとっても以外な事だったらしく、キョトンとその場で止まっていた。
「ふ…藤本!!」
僕が声をかけると、藤本は我にかえったように僕に背を向ける形で走り去ろうとしていた。
「待てよっ!!」
僕は追いかけた。
やはり男の僕の方が速いので、すぐに追いついた。
腕をつかむと、おとなしく止まった。
「何のようですか……?」
藤本は冷たく僕に言い放つ。
「頼む、話を聞いてくれ。」
「…少しだけなら。」
「ありがとう。えっと…まずは……騙してごめん!!」
「……」
「それについては何も言い訳しない。でも…やっと気付いたんだ。付き合っていくうちに本当に好きになってたって。だから、もう一度付き合ってくれ。」
「……」
「前言ってただろ?この坂は『恋人同士を引き合わせる』って。」
「……巧いですね。」
「えっ?」
「また何かの罰ゲームですか?大変ですね。」
藤本は笑顔で僕に言った。
僕は初めて悲しくなる笑顔というのを見た。
「ち、違っ、本当に好きなんだ…。信じてくれ!」
「私だって信じたいです。でも…もうあんな思いは味わいたくないんです……。すいません、私臆病だから。」
藤本はいつのまにか泣き顔になっていた。
その時僕は何も考えずに動いた。
藤本を抱き締める。
優しく、しかし強く。
「ごめん…。けど本当に好きなんだ。ゲームなんかじゃない。怖がらないでくれ。」
藤本は黙ったままだ。
僕は離さない。
しばらく坂の上でそうしていた。
「……離して下さい。」
急に言われたので、僕は反射的に離してしまった。
顔は下を向いている。
「……うれしかったです、とても。私…もう一度信じてみます。」
僕の方を向いたその顔からは涙が出ていた。
しかし、今までに見たこともないような笑顔だった。
「じゃ、じゃあ…。」
「はい。私も好きです。」
僕たちは引合坂の上で抱き合った。