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重田💋(omoda)
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星キラリ

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#大人ロマンス
保谷東
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相談者が椅子に座ってから、しばらく何も言わなかった。
蓮司は急かさず、机の上のペンを指先で転がしている。
「……自分から距離を置いたんです」
「誰から?」
「友達です。嫌いになったとかじゃなくて、ちょっと疲れて。しばらく一人でいたいなって」
「で?」
「向こうも、何も言わなかった」
蓮司がペンを止める。
「それが嫌だった?」
「……嫌っていうか」
相談者は少し考えた。
「寂しかった」
「離れたかったのに?」
「そう」
「面白いな」
「自分でも矛盾してると思います」
「矛盾してるというより、二つ別のことを同時に思ってたんじゃないか」
「二つ?」
「一人になりたい。でも、いなくなってほしいわけじゃない」
相談者は黙った。
「……それ、すごく分かる」
「じゃあ、離れなきゃよかった?」
「それは違うと思う」
「じゃあ、何が嫌だったんだろう」
蓮司は少しだけ椅子にもたれた。
「距離を置いたことじゃなくて、距離を置いたあとに何も起きなかったことじゃない?」
「何も起きなかった……」
「止められるとか、理由を聞かれるとか、『また話そう』って言われるとか。そういうのを、少し期待してた」
相談者は視線を落とした。
「……あったかもしれない」
「でも実際は?」
「『分かった』って」
「それだけ?」
「それだけ」
蓮司が小さく笑った。
「きついな、それ」
「ですよね」
「でも、その『分かった』って、別に『どうでもいい』とは限らない」
「でも追いかけてこなかった」
「追いかけるのが正解とも限らないだろ」
「……そうだけど」
「おまえが『一人になりたい』って言ったなら、普通は一人にしてやる」
相談者は少し困った顔をした。
「でも、そこで本当に一人にされると、寂しいんです」
「人間、面倒だな」
「蓮司さんに言われたくないです」
「なんで?」
「なんとなく」
蓮司は笑った。
「まあいいけど」
少し間があって、相談者が続ける。
「たぶん、自分から離れたのに、向こうが何とも思ってないみたいに見えたのが嫌だったんだと思います」
「つまり?」
「……自分って、その程度だったのかなって」
「そこだな」
蓮司はペンを机に置いた。
「距離を置きたい気持ちと、大事にされてるって確認したい気持ちは、別なんだよ」
「確認?」
「自分から離れる。相手は追ってこない。それを見て、『じゃあ俺がいなくても平気なんだ』って考える」
「考えます」
「でも、相手からしたら『本人が離れたいって言ったから、邪魔しないでおこう』かもしれない」
「……どっちか分からない」
「分からないな」
あっさり言われて、相談者が顔を上げる。
「そこ、分からないんですか」
「相手の頭の中なんて分からないだろ」
「……まあ」
「だから、追ってこなかった事実から、『大切じゃなかった』まで勝手に進めないほうがいい」
相談者はしばらく考えた。
「じゃあ、寂しいときはどうしたらいいんですか」
「戻れば?」
「簡単に言いますね」
「別に、元通りになれって言ってるわけじゃない」
蓮司は机の端を指で軽く叩いた。
「『一人になりたい』って思った自分も嘘じゃない。『やっぱり少し話したい』って思う自分も嘘じゃない。その時々で変わっていいだろ」
「でも、都合よくないですか」
「友達って、契約書じゃないからな」
「……」
「離れたあとに寂しくなったなら、寂しくなった。それだけでいいんじゃない」
相談者は少し笑った。
「なんか、もっと怒られると思ってました」
「何を?」
「自分勝手だって」
「まあ、自分勝手ではあるだろ」
「やっぱり」
「でも、人間なんて大体そんなもんだ」
蓮司は何でもないことのように言った。
「離れたいときに離れたい。追いかけてほしいときもある。そっとしてほしいのに、完全に放っておかれると腹が立つ」
「……最悪ですね」
「俺なら面倒だから付き合わない」
「それ、友達なくしますよ」
「もういるから大丈夫」
相談者が吹き出す。
少し笑ったあと、また静かになる。
「……じゃあ、今から連絡してもいいのかな」
「何て?」
「『久しぶり』とか?」
「久しぶりってほど時間経ってないだろ」
「じゃあ……『元気?』」
「普通だな」
「何が正解なんですか」
「正解を探してる時点で、また難しくしてる」
「じゃあ?」
蓮司は少し考えてから答えた。
「『ちょっと話したくなった』でいいんじゃない」
相談者は黙って頷いた。
「……それなら言えそう」
「なら、それでいい」
「もし、向こうが冷たかったら?」
「そのとき考えればいい」
「もし、普通だったら?」
「それも、そのとき考えればいい」
「追いかけてきてくれなかったことは?」
蓮司は少しだけ目を細めた。
「それは、今さら答え合わせしなくてもいいんじゃないか」
「どうして?」
「追いかけてこなかった理由なんて、本人にしか分からない。『大事じゃなかったから』って決めたら楽だけど、それはただの想像だろ」
相談者は俯いていた顔を上げた。
「……離れたかったのに、追ってきてほしかったって言うの、変じゃないんですね」
「変じゃない」
蓮司はペンを拾う。
「ただ、相手に心の中まで当ててもらおうとすると、面倒になる」
「自分から言わないといけない?」
「全部じゃなくていい」
「じゃあ、少しだけ?」
「そのくらいでいいだろ」
相談者は立ち上がった。
「ありがとうございました」
「ん」
扉の前まで行ってから、相談者が振り返る。
「……蓮司さん」
「何」
「もし向こうから連絡が来なかったら、こっちからしてもいいですよね」
「おまえが話したいなら」
「そっか」
今度は振り返らずに、相談者は部屋を出ていった。
蓮司は閉まった扉を見ながら、独り言のように呟いた。
「離れたいって言った人間を追わないことと、大切に思ってないことは、同じじゃないんだけどな」
机の上のペンを、また指先で転がした。
「そこ、結構みんな間違える」
コメント
1件
読み終わりました。 「一人になりたい」のに「追いかけてほしかった」——その矛盾、めっちゃ分かるなって思いました。蓮司さんの「相手の心の中まで当ててもらおうとすると面倒になる」って言葉、すごく刺さりました。追いかけてこなかった理由を勝手に決めつけるんじゃなくて、「話したくなった」で戻っていいって、すごく優しい答えだなって。ラストの蓮司さんの独り言、じんわりきました。ruruhaさんの描く会話、いつもリアルで心に残ります🌙