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「なんで生きてんの? 意味あんのかよ」
岸田の声は低く、静かに刺すようだった。叫びでも怒鳴りでもない。だがその無機質な嫌悪のほうが、よほど残酷だった。
「人間のフリしてるけどさ、結局はゴミだろ。……いや、ゴミに失礼か。お前みたいなやつ、存在自体が害なんだよ」
血を拭かれる感触の下で、遥はまばたきもできなかった。
「保健室で寝かせてもらって、何期待してんの? 誰かに心配されたい? ……笑わせんなよ。みんな思ってる。『死ねばいいのに』って」
別の生徒が笑った。けれどそれは楽しげな嘲笑ではなく、本気の不快さから滲む歪んだ吐き捨てだった。
「教室に戻ってくんなよ。お前が座ってるだけで、息するだけで、気分悪くなるんだよ」
「いっつも黙って下向いてさ。気持ち悪いんだよ、哀れなフリか? 同情なんか誰もしてねえよ」
「先生もめんどくさいから見て見ぬフリしてんの。わかんねえのか? お前は本当にいらない」
遥の胸の奥が、ずぶずぶと沈んでいく。
(……俺がいない方がいい。俺が……いるから……)
嫌悪の声は続いた。
「頭から血流してるの見たとき、正直スッとしたわ。ああ、やっと壊れてくれるって」
「死ねばよかったのに。生きて戻ってくんな。二度と、な」
養護教諭が「もう出なさい」と言って彼らを制したが、背を向けて去る間際、最後の言葉が鋭く突き刺さった。
「この学校にとっても、お前の家にとっても、お前なんか不要だよ。生きてるだけで迷惑。——消えろ、遥」
静寂が訪れても、遥の耳の奥にはその言葉が残り続けていた。
胸の内側から、自分の存在を削り取っていくように。