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加害グループ村井の場合(村井視点)
今日も“あいつ”は、時間どおりに来た。
──律儀な奴だと思う。
誰も「来い」なんて明確には言っていないのに、
来なかったら何があるか、わかってるから。
理科準備室の奥、カーテンの裏。
光も少ない場所。棚の影、ガラス瓶、薬品臭。
なのに、妙に“人間くさい”空間になったのは、きっとこいつのせいだ。
遥は喋らない。いつもそうだ。
こっちが問いかけても、黙ってる。けど、それがまた、逆に興奮するんだ。
目だけは、絶対逸らさない。
睨んでくる。挑発してくる。
──だったら、こっちだって、黙って終わるわけにいかねぇ。
「ボタン、二つ外して」
言うと、遥は一瞬だけ目を伏せる。けど、すぐにまた上を向いた。
「聞こえてんだろ?」
少し声を強めると、喉が動くのがわかった。
答えじゃない。でも、“反応”はした。
それで十分だった。
──今は、そういう“シーン”だから。
──聞こえてるくせに、やっぱり黙ってる。 そういうところ、ほんとずるいと思う。
俺の後ろには、柚木と稲葉。
あいつらは俺よりやりたい放題だ。けど、こいつの“沈黙”が、どこかでそれを際立たせる。
「これ……さ、マジで脱がせたら声出んじゃね?」
稲葉が指先で遥のシャツの縁を引っかける。
笑ってんのに、目が全然笑ってない。
こういうときの稲葉が、いちばん怖い。
──それでも、遥は目を逸らさない。
殴られても、指を這わせられても、睨んでる。
いや、睨んでるっていうか……たまに、あれは「諦め」なんじゃないかって思うときがある。
「脱げよ、って言ってんの」
柚木が蹴った。膝裏を。遥の身体が前に崩れた。
それでも、押し黙ってた。
俺たちを、拒絶してるのか、それとももう、受け入れすぎて何も感じなくなってんのか──わからなかった。
「……やめろよ」
そのとき、遥が言った。
声だった。震えてもいなかったし、叫びでもなかった。
ただ、淡々としたトーンで、低く、短く。
でも、それが逆に──俺たち全員の動きを止めた。
柚木が小さく笑ったふりをして、ごまかすみたいに言った。
「なに? 反抗? じゃあ、“それ”も録ろうぜ」
スマホを向ける。
けど、俺は、画面越しに遥の表情を見て──思わず息を呑んだ。
──泣いてない。
怒ってもない。
けど、“殺す”って目をしてた。
たぶん、本気だった。
あの瞬間だけ、俺は思った。
こいつ、次は──ほんとに誰か、刺すかもしれないって。
「……言葉、いらねぇよ」
稲葉が、舌打ちした。
「“鳴く”だけで、充分だったのにさ」
そう言って、手の甲で遥の頬を軽く叩く。
空気が変わった。
いつもは「遊び」だったはずの空間が、
一瞬で「何か違うもの」に変わった気がした。
俺は、喉が乾くのを感じながら、目を逸らした。