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百はな🍑
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街中に響き渡るシオリの宣戦布告。それを聞きながら、僕は隣で震えるカケルに苦笑した。
「……女の子は怖いね」
「な、なんかボク、一生彼女いらないかも……」
「そろそろ行こっか。作戦は予定通り進んでいるみたいだし」
僕がそう言って一歩踏み出した時、背後のトオルから冷徹な否定が投げかけられた。
「――いえ。第一段階は失敗です」
「……え?」
「すみません。皆さんに一つ、試練を与えました。今すぐ、アレンさんたちの助けに向かってください」
「え、え、えー!? 何それ!? 何でよ! 意味わかんないんだけど!」
カケルが絶叫する。トオルは眉一つ動かさず、ただ静かに死の宣告を告げた。
「早く行かないと、アレンさんたちは死んでしまいます」
カケルがトオルの胸ぐらに詰め寄る。
「トオルさん! あなた……っ!」
「No.2……。言いたいことは山ほどあるけど、それは後だ。今はアレンを救出することだけを考えろ」
僕の言葉に、カケルが悔しそうに拳を下ろし、弾かれたように走り出した。僕もその背中を追う。脳内では、トオルのこの『異常な行動』の理由を高速でスキャンしていた。
「……ワタシに頼りすぎていては、皆さんはダメになる。ワタシが居なくなっても、強く生きられるように……」
トオルの小さな独白が、風に乗って耳をかすめた。
「な、なんか言った!? 裏切り者さん!」
カケルが叫び返す。
「いえ、何も。……いってらっしゃい、皆さん」
トオルの不気味なほど穏やかな声が、遠ざかる僕たちの背中を、不自由なほど優しく叩いた。
「ワタシがいなくなっても……」
トオルが最後に漏らした、あの不穏な言葉。何のことだろうか。自決するつもりか、あるいは僕たちの知らない『結末』が視えているのか。……いや、今はその演算にリソースを割くべきじゃない。仲間の救出が先だ。
「どいてもらうよ。……今は、不自由な検問に付き合っている時間はないんだ」
僕は門番を最短の打撃で殴りつけ、クワトルシティの境界線を無理やり突破した。
街に侵入した瞬間、僕は違和感に侵食された。強行突破した僕たちを見ても、住人たちは驚きもしない。叫び声一つ上がらない。ただ、全員が同じような、貼り付いた笑顔で僕たちの横を通り過ぎていく。
「……気持ち悪い。何だ、この人たちは」
これが、ガイアが作り上げた『管理社会』の完成形か。感情を消去され、驚くことすら忘れた人形の群れ。
「は、早く……! はやくアレン君の元に!」
カケルが叫び、テレビ塔へ向けて地を蹴る。僕もその背中を追いながら、視界に映るテレビ塔を凝視した。あの中に、アレンとシオリさんがいる。そして、トオルが用意した『絶望』も。
テレビ塔、放送室。重厚な扉を蹴り開けると、そこには岩のようにそびえ立つ巨躯の男と、背中合わせで構えるアレン、シオリの姿があった。
「来ましたか。反逆者たち」
バッファと名乗った男が、無機質な眼差しを僕に向ける。
「……No.1、こいつは?」
「ガイアの側近の覚醒者だ。バッファ……だとよ」
「そうなんだ。……で、何故作戦は失敗したの?」
僕の問いに、アレンが忌々しそうに毒づいた。
「この街の住人は、ガイアの手で薬漬けにされてやがる。喜び以外の感情を殺されてるんだ。……シオリの能力が、通用しねぇ」
「なるほど。感情の支配による統治か。だからシオリさんの能力は聞かなかったんだね」
僕は状況を高速で理解し、アレンの肩を叩いた。
「とりあえず、ここまで来たんだ。作戦は続行だよ」
「……分かっている。ここで立ち止まる選択肢なんて、最初からねぇしな」
「続行……。いいでしょう。レイ、あなただけはガイア様が直接『抹殺』したいそうです。どうぞ、ビルへ行ってください。場所は……予知者から聞いていますね?」
「挑戦状か。……いいよ、受けて立つよ」
僕はアレンとカケルくんに視線を送る。
「バッファは二人に任せる。……信じてるよ」
僕がそう言いかけた瞬間、視界が猛烈な速度で歪んだ。
バッファの巨体から放たれた、重戦車のようなタックル。僕とアレン、カケルの三人は、防ぐ間もなくテレビ塔の外壁を突き破り、空中へと吹き飛ばされた。
「痛い……っ! 何で……」
地上に叩きつけられ、焼けるような痛みに脳が悲鳴を上げる。
「無傷で行かせるとは言っていませんよ、レイ。……王に謁見するなら、それ相応の絶望を携えていくべきだ」
バッファが悠然とテレビ塔から飛び降り、両手を天に掲げて咆哮した。
「さぁ! 哀れな住人たちよ! 眠れる喜びを解き放ち、この反逆者たちを殺しなさい!」
その声が響いた瞬間、周囲の景色が塗り替えられた。さっきまで穏やかに歩いていた住人たちが、全員、あの不気味な笑顔を貼り付けたまま、一斉に僕たちを睨みつけたのだ。
「えっ……? 嘘でしょ……」
「私の能力を教えて差し上げましょう。この街の住人には、私の力を分け与えています。……分け与えられたモノは、私の意志一つで動く『操り人形』に成るのですよ」
アレンが毒づきながら立ち上がる。
「……クソがっ! 全員、バッファの駒だってのかよ」
どうする。相手はただの一般人だ。殺すわけにはいかない。だが、何もしなければ――僕たちがこの『笑顔の軍勢』に蹂躙される。ガイアの支配する不自由な平和が、今、牙を剥いて僕たちを飲み込もうとしていた。
コメント
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読了しました。第31話、めちゃくちゃ痺れました……! トオルの突然の「試練」発言から、不気味な笑顔の住人たち、そしてバッファの能力——怒涛の展開で息つく暇がなかったです。特に「感情を♡♡♡れた人形」という管理社会の描写がゾッとするほど生々しくて。レイの「信じてるよ」の直後に吹き飛ばされるシーンは衝撃でした。次話が待ち遠しいです!