テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「──証明、してもらおうか。“おまえが、蓮司の彼女じゃない”ってこと」
一人の女子の声が合図になった。
その瞬間、教室の隅に引きずられた遥の身体は、
机と壁の狭間に押し込められる。
「うわ、すっごい無抵抗〜。さすが、男なのに“雌”ってやつ?」
「“される側”って顔してるもんね〜。わかるわかる」
一人が遥の制服のシャツを無理やり引き裂き、ボタンが弾け飛ぶ。
露出した肌に冷たい手が這い、
「──これ、蓮司とヤるとき、どっちが上?」
「ねぇ、声、出してよ。“感じてるフリ”とか得意なんでしょ?」
無理やりに首筋を舐める真似をされ、唾液を擦り付けられる。
誰かがスマホを構え、動画を撮っているのが視界の端に見える。
誰も止めない。
男子たちですら、見て見ぬふりをしている。
「ねぇ、言って。“俺、ただの性処理係です”って」
遥は何も言わなかった。
ただ、目を閉じて、笑ったような、笑っていないような顔。
「──チッ、マジでムカつく」
蹴りが飛ぶ。腹部に、肩に。
地味で見えにくい場所に、“バレない痛み”を刻むように。
「どう? これで“あんたの男”も目、覚ますかもね」
リップを無理やり塗られ、顔を引っ掻かれた遥は、
それでも声を出さない。
ただ一言、小さく。
「──おまえら、何に怒ってんの」
その問いが、まるで“自分の中の正気”を試すかのようで──
「はあ? なに言ってんの。怒ってなんかないし。ただ──」
「おまえが、選ばれたのが、ムカつくだけ」
女子の一人が吐き捨てるように言い、
「こっちは、ずっと“あいつ”見てきたんだよ」
そのあとの言葉は、遥の顔に叩き込まれた平手で、かき消された。
誰もいない教室に、ひとり残された遥は、
半壊の制服のまま、座り込んでいる。
頬の赤みと、唇の端の傷。
首元にはわざとらしいルージュの跡。
誰も声をかけない。
声をかければ、“同類”と見なされるから。
だが、遥はゆっくりと、ボタンのちぎれた制服を引き寄せ、
手で押さえながら、微かに笑った。
「──ほら、蓮司。見てるんだろ。
……楽しい?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!