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第19話:消された告白
週明けの月曜朝、校内の掲示板にひとつの張り紙が貼られていた。
それはレンアイCARD株式会社から届いた、システムメンテナンスのお知らせだった。
一部ユーザーの恋レアログが、サーバーエラーにより“非表示”になったという。
正式な文面では「復旧に努めております」と書かれていたが、詳細は伏せられていた。
それを見た生徒たちはざわついていた。
天野ミオも、その張り紙を見ていた。
白いカーディガンを羽織り、前髪はピンでとめて顔がよく見えるようになっていた。
掲示を読みながら、小さく息を呑む。
前日、彼女は《共鳴告白》というカードを使っていた。
感情が交差した瞬間にしか発動しない、シンクロ型の告白カード。
放課後の校庭。
大山トキヤに、自分の言葉で何かを伝えようとした。
視線を合わせた。言葉も出した。
アプリは発動音を鳴らし、効果は成立したはずだった。
けれど今朝になって、アプリにはそのログが消えていた。
履歴には何も残っていない。
“昨日、何も起きなかったこと”になっていた。
誰も気づいていないが、ミオは確かにカードを使い、気持ちを伝えようとした。
それが、なかったことにされた。
昼休み、図書室。
ミオは椅子に座り、スマホの画面を見つめていた。
画面には「該当履歴なし」の文字だけが並んでいる。
静かに現れたのは、トキヤだった。
今日は黒いシャツにジャケットを羽織り、髪は少しだけ整えている。
彼は何も言わずに隣の席に座り、ミオの手元を見た。
「昨日のこと、覚えてる?」
ミオがそう尋ねると、トキヤは少しだけ頷いた。
「うん。君が……何かを伝えようとしたのは、わかってた」
それだけで、ミオは顔を伏せた。
カードがなくても、ログがなくても、誰かの記憶に残っているなら、それでいいのかもしれない。
だが一方で、教室では別の騒動が起きていた。
恋レアのログが消された生徒が、「告白をしたのに無視された」と主張し、相手をSNSで非難していたのだ。
その投稿は拡散され、誤解と憶測が渦巻く。
恋レアの“記録性”が崩れたとき、社会のバランスも崩れていく。
カードがすべてを記録してくれる世界。
その前提が壊れたとき、“信じるべきもの”は、結局人の記憶だけになる。
ミオは、トキヤの横顔を見つめていた。
確かに、伝えようとした気持ちはあった。
消されたとしても、それは、ここにいる。