そして、三十分後、バーベキューに参加するメンバーが庭に集まる。
アパートに住んでいる若い新婚夫婦・宮崎夫妻も加わり、総勢七名でのバーベキューパーティーが始まった。
バーベキューコンロは二つ用意した。
片方は、雅也が火を起こしてくれていた。
もう一つの火起こしに苦戦している葉月を見た賢太郎は、傍へ来てあっという間に火を起こしてくれた。
賢太郎は、アウトドアに慣れているようだ。
「賢太郎さん、すげー」
驚いている航太郎に向かって、賢太郎が言った。
「撮影で野宿をすることもあるから、こういうのは慣れてるんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、流星の父ちゃんとおんなじだ」
「流星?」
「うん。長野にいる俺の友達」
二人の会話を聞いていた葉月は、そこでハッとした。
「あっ、じゃあ、川の土手で当て逃げされた時も、もしかして?」
葉月の言葉に、賢太郎は笑顔で頷いた。
「あの時は、朝一番の列車を撮るために、あそこで待機していたんですよ。やっぱりあの事故の時のオペレーターは、葉月さんだったんですね?」
「はい。え? でも、なんで私だってわかったの?」
「声が印象的でしたからね。それに、名前も聞いていたし」
「え? 私の声ってそんなに印象的ですか?」
「うん。なんか元気をもらえるって感じの声をしてますよね?」
そこで航太郎が言った。
「うちの母ちゃんの声は、いつも元気でデカいから」
すると、その場にいた全員が声を出して笑った。
「葉月ちゃんは、太陽みたいにいつも元気で明るいからねー」
「そうそう。会うといつも元気をもらえるのー」
莉々子と亜美が立て続けに言った。
「そうかなー? 自分ではそんな自覚ないけどなー」
「フフッ、本当よ。え? でも、事故って何?」
「以前、桐生さんが当て逃げをされた時に、たまたま私が電話を受け付けたの」
葉月の話を聞いて、莉々子はかなり驚いている。
「え? じゃあ二人は、何度も会う前に、実は電話でも話をしてたってこと?」
「うん、そう」
「えー、すごーい! それってなんか運命的なものを感じませんか?」
「たしかに! そこまで偶然が重なるなんてさ。何かあるって思っちゃうよね」
宮崎夫妻は、少し興奮気味だ。
すると、葉月が慌てて言った。
「やだ……本当にただの偶然なんだから。二人とも飛躍し過ぎ!」
恥ずかしくなった葉月は、慌てて椅子から立ち上がると、家の中へビールを取りに行った。
キッチンの冷蔵庫からビールを取り出した葉月は、そこでフーッとため息をついた。
そして呟く。
「なんか今日は調子狂うなぁ……」
「なんで調子が狂うの?」
いきなり背後から声がしたので、葉月は飛び上がりそうになる。
そのソフトで優しい声の主が誰なのか、すぐにわかった。
葉月が振り向くと、そこには賢太郎が微笑んで立っていた。
「な、なんでもないですっ」
すると、賢太郎は葉月に近づき、あっという間に壁際に追い詰めた。そして右手を壁につくと、葉月の耳元で囁いた。
「俺がいるから、調子狂うんでしょ?」
その声を聞き、葉月は全身の力が抜けてしまう。そして、莉々子の言葉が頭に浮かんだ。
『あの声ヤバくない? ソフトで優しくてなんか耳に心地良くて……ベッドの上であの声で囁かれたら、私、絶対腰が砕けちゃう~~~』
まさに今、葉月はその心境だった。
(やばいやばいやばい……)
葉月は賢太郎から逃れようと、右に動いてから言った。
「そ、そんなことないから。あ、お手洗いだったら、あっちですよ?」
それを聞いた賢太郎は、思わずクスッと笑った。
「ビール持つの大変だと思ったから、手伝いに来たんだよ」
賢太郎は爽やかな笑顔で言うと、ビールの六缶パック二つを軽々と持ち上げて、庭へ戻って行った。
賢太郎の姿が庭へ消えると、葉月はヘナヘナと床に崩れ落ちる。
「もしかしたら私、からかわれてる?」
しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いた葉月は、何事もなかったように庭へ戻った。
賢太郎は、雅也と一緒に肉を焼きながら、宮崎夫妻と楽しそうに話しをしている。
その傍には、ぴったりと航太郎がくっついていた。
葉月はホッと息を吐くと、もう一つのテーブルにいる莉々子の隣に座った。
そこで莉々子が言った。
「葉月ちゃん、見てよ。航ちゃんったら、あんなに嬉しそうに賢太郎さんの傍にくっついてさー。本当に彼のファンだったのね」
「うん。尊敬してるんだって。桐生さんみたいな大人になりたいって言ってた」
「へぇー、そっかぁ。じゃあ、憧れの人に会えた喜びで、天にも昇る気持ちなんだろうね」
「フフッ、そうかも」
「で、お母さんの方は、どうなのよ?」
莉々子がニヤニヤしながら聞いた。
「どうって……特に何もないわよ」
「今はなくてもさぁ、これからあるかもしれないよ?」
「ないない」
「えー? でも、航ちゃん、あんなに喜んでるんだよ?」
「まぁ、確かに、航太郎はお父さんが欲しいみたいなんだよね」
「え? そうなの?」
「うん。実はこの前言われたんだ。合コンでも行って、イケオジを捕まえろって」
「へぇーっ! 航ちゃん、そんなこと言ったの?」
「びっくりでしょ? 普通、思春期ってそういうの嫌がるもんじゃないの?」
「そうだよねぇ。でもさ、そう言うっていうことは、本当にお父さんが欲しいのかもしれないよ?」
「どうなんだろう……もしかしたら、一時的なものかもしれないし? それに、全く知らない他人と一緒に暮らすとかって、やっぱり無理な気がする。なんか色々と気を遣いそうだし」
「どうなんだろう? でも、そういうのって、やっぱり相性なんじゃない?」
「相性?」
「そう。だって、親の再婚で血の繋がらない家族と上手くやっている人なんて、世の中いっぱいいるでしょう?」
「まぁ、そうだけど……」
その時、葉月の携帯が音を立てて鳴った。誰かからメッセージが来たようだ。
葉月が携帯を見ると、先日の合コンで一緒だった舟木からメッセージが来ていた。
【こんばんは。先日はありがとうございました。ところで、昨日、取引先からハーブティーを山ほどもらったんだけど、もしよかったらもらってくれないかなぁ。ハーブティー好きだって言ってたよね? 今、ちょうど葉月さんの家の最寄り駅にいるんだけど……】
葉月がメッセージを見て固まっていると、莉々子が携帯を奪ってメッセージを見た。
そして叫んだ。
「キャーッ、誰? この人? 葉月ちゃんのボーイフレンド?」
「ち、違います……この前の合コンで……」
「えーっ、葉月ちゃん、合コン行ったのー? キャーッ! ちょっと詳しく話を聞かせなさいよー」
すると、隣のテーブルから亜美が飛んで来た。
「合コンって何ですか?」
「ちょっとちょっと見てよ亜美ちゃん、これ!」
今度は亜美がそのメッセージを見て叫ぶ。
「キャーッ! すぐそこまで来てるって! もうここに呼んじゃいましょうよ」
「いいね、それ! 呼ぼう呼ぼう!」
すると、隣のテーブルの男性陣が反応した。
「何? 誰を呼ぶの?」
「葉月ちゃんが合コンした人が、すぐ近くまで来てるんだってー」
「おおっ、そりゃ呼ばなくちゃ!」
「でしょでしょ? 呼んじゃおうー!」
「呼んでみんなに見てもらって、いい人かどうか判断してもらったら?」
「そうだよ、葉月さん! 是非是非!」
葉月以外が、勝手に盛り上がっている。
「わかった。じゃあ呼ぶわね」
葉月はすぐに返事を送った。
ワイワイと皆が盛り上がっている中、賢太郎だけが静かにじっと何かを考えている様子だった。
コメント
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賑やかに楽しくバーベキューしていたのに 舟木さんの登場⁇ 莉々子さんと亜美さん絶対何か企んでいそう‼️賢太郎さんと並べたらどちらが良いか葉月ちゃんに見せて考えさせるのかな? 賢太郎さん葉月ちゃんを早く振り向かせて‼️お願い🙏
壁ドン&囁きボイスにキュ➸(,,♡-♡,,)➸ン♡💕💕 賢太郎さんは割りとグイグイいっちゃう人?(* ॑꒳ ॑* ) 葉月ちゃんと何度も接点あるし既に気になる存在なのかしら( *´艸`)クスクス 舟木さん??却下でお願いします😂😂
賢太郎さん、いきなりの壁🧱ドン🤩‼️ キャ~😆🩷 読んでるだけでドキドキ💗しちゃう⤴️⤴️⤴️ 賢太郎さん、グイグイ来ますね~😆‼️ 航ちゃん、ピッタリくっついてるんですね~😁 このタイミングで、ハーブ🌿舟木?? 葉月ちゃんファミリーからの印象うっすい舟木の判定や如何に🤭