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ひかることば
改札を抜けた先の壁に、広告が一枚貼られていた。
ワードクラフト。
それだけの文字。
説明はない。
割引も期限も書かれていない。
立ち止まった拍子に、肩にかけた鞄が少しずれた。
毛羽立った茶色のコートの袖口は擦れて薄くなり、
指先が外気に触れる。
爪は短く、右手の親指だけ角が欠けている。
端末で検索すると、すぐに出てきた。
購入、発送、利用。
淡々とした項目の並び。
数日後、届いた箱は軽かった。
中には掌に収まる装置がひとつ。
角の丸い直方体で、表面はなめらか。
レキシリーダ、と刻まれている。
説明書はない。
椅子に腰を下ろし、
膝の上に装置を置く。
細い脚の椅子が、わずかに鳴った。
触れてみる。
熱も振動もないのに、
内側をなぞられる感覚だけがあった。
言葉が、並ぶ。
普段は考えもしない単語。
使い古したもの。
いつからあったのか思い出せないもの。
その中で、
ひとつだけ、輪郭が強い。
ひかる、というほどではない。
ただ、そこにある。
指を離す。
装置は沈黙する。
画面は消え、
部屋には時計の音だけが残った。
それでも、
さっき見えた言葉だけは、
まだ、内側に残っていた。
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