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窓の外に大輔がいたので瑠璃子はびっくりして窓を開ける。


「……どうして?」

「スーパーに寄ったら君の車を見つけたんだ」


大輔は「全てを見てわかっているよ」という顔をしてから更に言った。


「僕の車についておいで」


大輔はすぐに自分の車へ戻るとエンジンをかけて車をスタートさせた。


「えっ?」


瑠璃子は突然の事に何が何だかわからないという表情をしていたが、大輔の車が国道へ出ようとしたので慌てて後から追いかける。


大輔の車は国道を真っ直ぐに進むと交差点を右折して県道に入った。

県道を真っ直ぐ進むと瑠璃子のマンションの近くを通り過ぎ、次に瑠璃子の祖母の家があった辺りを通り過ぎる。

そして今度は百合子とランチをした店がある辺りを通り過ぎてさらにぐんぐんと進んで行った。

瑠璃子が車を見失わないように大輔はスピードを落として車を走らせてくれた。そのお陰で瑠璃子はピタリと大輔の車について行く。


車はやがて小さなワイナリーの前を通り過ぎその先の脇道へ入り坂道を上り始めた。その道は瑠璃子が初めて通る道だった。おそらく地元の人しか知らない道だろう。車は小高い山の上を目指しているようだ。


坂道を上り切るとその先に突然開けた場所が現われる。おそらく頂上だろう。

大輔は広場に車を停めると瑠璃子にも隣に停めるよう手で合図をした。

二人は並んで車を駐車するとエンジンを切って外に出る。


「寒いからダウンを着ておいで」


瑠璃子は慌てて助手席にあるダウンを着込む。


大輔は森の中の小道を歩き始めた。辺りは真っ暗だが大輔が携帯の明かりで足元を照らしてくれていた。

5分ほど歩くと森の木々が急に途切れ見晴らしのいい場所へ出た。

その広場の先端まで行った大輔は瑠璃子においでと手招きをする。

言われるがままに瑠璃子が大輔の隣へ行ってみると思わず大きな声を出す。


「うわぁっ……!」


そこには先日観覧車から見た夜景とは比べ物にならないくらいの美しい夜景が見えていた。

すぐ傍に見えるのは岩見沢市内の夜景、そしてその先に煌めいているのはおそらく札幌の夜景だろう。

今二人がいる場所からはかなり遠くの夜景まで見渡せた。

眼下には宝石のように煌めく街明かり、そして夜空には満天の星。まさに地上の星と夜空の星の饗宴といったところだろうか?


瑠璃子がそのあまりの美しさに言葉を失っていると、突然夜空に大きく弧を描くように星が流れていった。


「あっ、流れ星っ」


瑠璃子が叫んでからすぐに大輔に聞いた。


「見た?」

「見たよ。結構長く流れたね」


瑠璃子は大輔も見ていたとわかりホッとする。


(なんて綺麗なの……)


瑠璃子は感動で胸がいっぱいになる。ついさっきまで悲しい気持ちが胸の中を埋め尽くしていたのに今はすっかり夜空の魅力に取り込まれている自分がいた。その無数の星の煌めきを見つめているとまるで心の中が浄化されるような気がした。


無言でただじっと佇んでいる瑠璃子の隣には、寄り添うような大輔の姿があった。


どのくらい時間が経っただろうか?

瑠璃子は満足したのか大輔の方をチラリと見ると漸く口を開いた。


「元彼が急に会いに来て婚約は破棄したからまたやり直さないかって言ったんです…」


瑠璃子は悲しそうに笑う。

突然そんな事を言われた大輔は少し驚いているようだ。


「どんな思いで私が東京から逃げて来たか何もわかっていないの」

「婚約した相手は妊娠していたんじゃ?」

「嘘だったんですって。彼と結婚したいがためについた嘘」

「……そっか…で、頑張って決着をつけたんだね」

「はい、これでやっと前に進めそうです」


瑠璃子は深く深呼吸をするともう一度美しい夜空を見上げた。


2人はそこに30分ほどいただろうか? 夜の冷え込みが一層厳しくなってきたので大輔はそろそろ帰ろうと瑠璃子に告げた。


真っ暗な帰り道、大輔は瑠璃子が迷わないようにとマンションまで車で先導してくれた。

マンションの前に到着すると、大輔は瑠璃子に手を挙げてから自宅へ戻って行った。


部屋に戻った瑠璃子はまず最初に泣きはらした顔を洗った。

その後アクセサリーケースの中からダイヤのリングとネックレス、そして金のブレスレットを取り出しテーブルの上に置く。そして次にチェストの引き出しからクリスタルビジューのバレッタを持って来てアクセサリーと一緒に並べた。

最後に中沢と一緒に撮った写真を数枚持ってくる。どれも中沢との思い出の品だった。


指輪を手に取ると瑠璃子は指輪を貰った時の事を思い出す。

中沢はこの指輪を瑠璃子の誕生日にサプライズで用意していた。しかし中沢は瑠璃子の指のサイズを間違えてしまい瑠璃子の指には大き過ぎてすっぽ抜けてしまう。それを見た二人は大笑いをした。

当時を思い出し瑠璃子の目にまた涙が溢れてきた。


瑠璃子は思い出の品を使っていない空の小箱に入れてからクローゼットの奥へしまった。

これらは後日処分するつもりだ。


その後瑠璃子はバスタブに少し熱めのお湯を張りゆっくりと風呂に入った。

今夜は心も身体も冷え切っていたので芯から温まろうといつもよりも長い時間入っていた。


バスルームを出ると帰宅してから2時間が経過していた。気持ちはだいぶ落ち着いていた。

とりあえず瑠璃子は熱い紅茶を入れテーブルの椅子に座る。


今の瑠璃子は心がからっぽで抜け殻のようだった。

特に何をするでもなく熱い紅茶をすすりながら右手でパソコンを引き寄せる。

そして電源を入れると無意識に『promessa』の小説のページを開いた。

前回更新されていなかった小説が2話更新されていたので瑠璃子はすぐに小説を読み始める。


中学生だった少女は親の転勤で東京へ帰る事になった。

引っ越しまであと1ヶ月という時少女はラベンダーとの別れを惜しむように毎日ラベンダー畑へ通った。そこで少女はある青年と出逢う。

最新の2話には少女と青年の交流、そして青年に恋心を抱き始める少女の切ない心情が描かれている。

初恋の心理描写を読んでいると無意識に瑠璃子の瞳に涙が滲んだ。しかしその涙は先ほどのようにとめどなく溢れ出る涙とは違った。そこで瑠璃子は自分の中に悲しみを乗り越えられる可能性を感じる。


小説を読み終えた瑠璃子は次に『promessa』のエッセイをチェックした。

するとほんの10分前に更新されたエッセイがある事に気付く。

瑠璃子はすぐにエッセイを読んでみる。




『流れ星』


流れる涙を星に変える事ができたらいいのに

僕はそう思った

悲しみの涙が流れ星に変わるなら

君はきっと泣くのをやめて微笑むから


流れる涙を星に変える事ができたらいいのに

僕はそう願った

苦しみの涙が流れ星に変わるなら

君はきっと前を向いて歩いて行けるから


僕は君が流す涙をすべて流れ星に変えてあげたい

その為に僕は今夜流れ星を探し続ける

そして僕はその流れ星に願いをかける




瑠璃子はエッセイを読み終えると先ほど大輔と過ごした時間の事を思い出していた。

『promessa』のエッセイはどこか瑠璃子の行動とリンクする事が多いように感じる。

今夜もそうだ。

最新のエッセイを読みそれは確信へと変わる。


もしかしたら『promessa』の正体は大輔なのでは?


その時瑠璃子の直感がざわざわと大きく反応した。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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