「もしもし?」
「葉月? 今ちょっといい?」
「電話はしないでって言ったでしょう? 用があるならメッセージにしてよ」
「電話くらい、たまにはいいじゃないか」
「よくないわよ。私達はもう別れたんだから」
「別れたっていっても、俺は航太郎の父親なんだぞ?」
「それはそうだけど、面会の日はちゃんと作ってるじゃない」
「でも、立て続けに二回断られたんだぞ?」
「だからぁ、それは航太郎が忙しいからって言ってるじゃん。それに、あなたが私に電話してるのを知ったら、奥様がどう思うか考えたら?」
「それは問題ないさ。それより、今からそっちに行ってもいい?」
「はぁーーーっ!?」
葉月は、庭に響き渡るような声で叫んだ。
その時、傍にいた莉々子が葉月に言う。
「葉月ちゃん、スピーカーモード、スピーカーモード」
呆れた顔のまま、葉月は携帯をスピーカーモードにしてからテーブルの上に置いた。
置いたと同時に、携帯から啓介の声が漏れてくる。
「実はさっきまで、おまえんちの近くの病院にいたんだ。恩師が入院しててさ。だから、ついでに航太郎の顔でも見て帰ろうと思ったんだよ」
啓介の言葉を聞いて、葉月はただテーブルの上の携帯を睨んでいた。
そこで、慌てて莉々子が葉月を突いた。
葉月は急にハッとすると、携帯に向かってこう叫んだ。
「家には来ないって約束でしょう?」
「せっかく近くまで来たんだから、いいじゃないか。それに、今から航太郎を外に呼び出しても可哀想だろう?」
自分が呼べば、息子がシッポを振って飛んで来ると思っている元夫に対し、葉月はイラッとしていた。
「そんなこと言ったって、それはルール違反よ! 家には来ないって約束したんだから」
「そんなカタいこと言うなよ。だったら航太郎に聞いてみろよ。俺が行ってもいいかってさ」
葉月は怒りに震えながら、隣のテーブルを見た。
すると、男性陣は心配そうにこちらを見ている。全員、葉月と元夫の会話を聞いていたようだ。
葉月が息子の方へ視線を移すと、航太郎は渋い顔をしながら、両手でバッテンマークを作っていた。
(ほらみなさい。やっぱり会いたくないのよ)
葉月は息子に向かってうんと頷く。
そして、携帯に向かって断ろうとした時、莉々子が突然葉月に耳打ちをした。
「元旦那をギャフンと言わせるいい機会じゃない? 離婚した妻が、独身男性に囲まれて楽しくやっている姿を見せてやったら? それに、実の息子が桐生さんにべったりなのを見たら、諦めるかもしれないわよ?」
(それは名案かも! 航太郎は明らかに父親と距離を取りたがっているし、この先もっと多感な年齢だもの。それに来年は受験生だし……またしつこく家にまで来られたら、たまったもんじゃないわ)
そこで、葉月は決心する。
葉月は莉々子にうんと頷いてから、携帯に向かってこう言った。
「わかったわよ。じゃあ、家じゃなくて庭の方に来てくれる? ちょうど今、お友達とバーベキューパーティーをしてたところだから」
「おっ、サンキュー! じゃ、すぐに行くよ」
そこで二人は電話を終えた。
すっかり血圧が上がってしまった葉月は、落ち着こうと深呼吸をする。
そこへ、息子の航太郎が来て、勢いよくまくし立てた。
「何だよ母ちゃん! 俺、父ちゃんには会いたくないって言っただろう?」
「そんなのわかってるわよ。でもさ、今日だけちょっと我慢をすれば、もう二度と来ないかも?」
「そんなわけないじゃん。あの人はいつも自分が正しいって思ってるんだから、絶対また来るに決まってるって! あーやだなー、俺、これ以上あの人に振り回されたくないよ」
まだ中学二年生になったばかりの航太郎の悲痛な思いを聞き、そこにいた全員がシーンと黙り込んでしまった。
しかし、すぐに雅也が言った。
「航ちゃん、大丈夫だ! 俺にいい案がある」
「いい案って何?」
航太郎はすがるような思いで、雅也を見た。
「お父さんが来たら、航ちゃんは軽く挨拶だけしてから、二階に逃げちゃえばいいんだよ。ほら、ちょうどさっき言ってたじゃん。賢太郎さんに流し撮りの方法を教えてもらうって。それを言い訳に、二人で二階に行っちゃえばいいんだよ」
雅也の提案を聞いて、航太郎は急に目を輝かせた。
「えっ? いいの?」
そこで莉々子が言った。
「いいんじゃないの? 会いたくないものを、無理に会う必要もないんだし」
「そうだそうだ、自分のことしか考えてない父親なんて、こっちから捨ててやれーっ」
「ちょっと……」
過激な発言をした夫を、亜美がたしなめる。
その時、ボソッと賢太郎が言った。
「俺も、無理強いはよくないと思いますね。特に航太郎君は多感な時期ですし」
それを聞いた全員が、もっともだという顔で頷く。
「じゃ、そうしましょう。まずは、お父さんが来たら、航ちゃんが挨拶をする。で、その後すぐに、賢太郎さんと二階へ行く。よしっ、これで行きましょう」
「いいねいいね!」
「うわー、なんか楽しくなって来たー」
「良かったね、航太郎君」
舟木もノリノリで楽しそうだ。
そこで、莉々子がしみじみと言った。
「おばちゃんなんてさ、航ちゃんがまだ幼稚園の時から知ってるんだもん。葉月ちゃんが里帰りした時に、よく一緒に遊んだのよ? 覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
「だから、航ちゃんのことは、自分の息子みたいに可愛いの。だから、おばちゃんが絶対に守ってあげるからね」
「うんっ、莉々子さんありがとう!」
「そうよ、航太郎君はこの家のアイドルなんだから、みんなで守ってあげるからね」
「亜美さんもありがとう」
皆に励まされた航太郎は、ご機嫌になり笑顔が戻った。
「ごめんねー、内輪のことなのに迷惑かけてー。それに桐生さんまで巻き込んじゃってすみません」
「気にしないで下さい」
そこで、航太郎がせいせいしたように言った。
「やったぁー! これで今後あの人とは会わなくて済むかもしれない」
「え? あんたそんなにお父さんと会うの嫌だったの?」
「嫌に決まってるじゃん。だってあいつ浮気したんだろう?」
「「「…………」」」
そこで、大人達が黙り込む。
「大体ねぇ、パイロットなんてチャラいんだよ。パイロットイコール浮気男の代名詞みたいなもんなんだから」
息子の言葉に、葉月は衝撃を受けた。
「えっ、ちょ、ちょっと待って。パイロットだからって、全員が全員、浮気者とは限らないんじゃない?」
「そんなんだから、母ちゃんはホイホイ騙されちゃうんだよ。あのね、パイロットっていう職業自体がもうヤバいの。だから、母ちゃんは結婚する時によーく相手を観察しなきゃダメだったんだよ。いい? 俺の言ってる意味わかる?」
「…は……はい」
「ったく、そんなんだと、また悪い男に騙されちゃうから、気を付けてよ母ちゃん!」
そこで、どっと笑い声が響く。
「息子の方がしっかりしてるなー」
「本当ね。航ちゃん、逞しくなったねー」
「偉いぞ! 航太郎!」
「その調子で、お母さんを悪い男から守らないとね」
「任せなさいっ!」
航太郎はニッコリ微笑むと、嬉しそうに賢太郎の隣の席へ駆け戻って行った。
コメント
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ぅおーーーーッ😆明日が楽しみ⤴️⤴️⤴️
まさかのスピーカーw 悪いことはできないんだよ、自分有責の離婚思いしれっ!
どうなるのかしら…心配よね…葉月さん大丈夫かしら…