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布団に潜り込んでも、まぶたの裏に文字と笑い声が浮かぶ。
《笑える》
《キモい》
《男?女?どっち?》
《こいつ自分からやってるんだろ》
知らない誰かが、自分の必死さを「自発的な滑稽さ」にすり替えていく。
その変換があまりにも自然すぎて、遥自身の中にも入り込んでくる。
――もしかして俺、本当に笑われて当然なんじゃないか。
――拒めなかった俺が悪い。
――必死になるのが滑稽に見えるのは、やっぱり俺のせいなんだ。
思考は次第に「彼らが酷い」ではなく「自分が酷い」へとねじれていく。
否定の言葉が頭の中でループする。
「俺が悪い」
「俺がだめ」
「俺だからこうなる」
「俺だから、選ばれる」
翌朝の鏡の前。
洗面所に立ち、自分の顔を見る。
「なんでこんな顔してるんだよ」
唇が勝手に動き、低くつぶやく。
「声も、歩き方も、全部。おかしいからバカにされるんだ」
顔を洗っても消えない。
タオルでこすれば赤くなる。
その赤みさえ、笑い声と結びついて見えてしまう。
学校に着けば、机の上にまたプリントされた写真が置かれていた。
破り捨てたいのに手が動かない。
「どうせ俺がやったことだし」と心が囁く。
クラスの笑い声に混じって、自分の声が聞こえる。
「俺が悪い。俺がだめ。俺が……」
頭の中で、他人の言葉と自分の声が重なって消えてなくなる。
やがて遥は、いじめられている自分を否定するのではなく、
存在している自分そのものを否定するようになっていく。
机に座っているだけで、心が呟く。
「座るなよ。目障りだ」
廊下を歩くだけで、足音が言う。
「響くなよ。うるさい」
呼吸すれば、肺が囁く。
「生きるなよ。笑われるだけだ」
拡散した「笑い」は、教室を越えて、ネットを越えて、
最終的には遥の心の奥にまで定着してしまった。
もう誰も責める必要はない。
遥自身が、自分を一番激しく責め続けてくれるからだ。