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と、その時だった。
うちの右肩に視線が突き刺さるような感覚。
思わず息を飲みそちらを振り向いてみると――、壁際に仏壇が設えられているのが見えた。
今の今まで気がつかなかった。ここは仏間だったんや。
仏壇はたった今、この部屋に出現したかのように見えたが。
だけど、うちの意識が吸い寄せられたのは、そこに置かれた二枚の写真だった。
一枚は、二十代中頃の女の人。
もう一枚はほとんど赤ちゃんと言っていいぐらい小さな子ども。髪の毛を頭の右上でくくっているから、多分女の子だと思う。
二枚とも立派な額縁の中に収められていた。
あれはひょっとして遺影……?
「娘のサヤカと孫のアコです」
東雲さんがうつむいたまま、感情のこもらない声で呟くように言う。
「あの日――、孫はあいつにあのケダモノに噛み殺されたんです。子犬の頃から大切にかわいがって飼ってやったと言うのに。やはりケダモノはケダモノですね。恩義も何もあったもんじゃない」
「えっ、えっ? あの……」
全身を突き抜ける感覚にうちは自然と震え声になっていた。
それは、これまでの十三年間の人生において数えきれないほど味わってきた感覚。
なのに、一向に慣れることができない……。
「ご、ごめんなさい。う、うちにはよくわからへんから――」
「娘は孫の三回忌の日、車で崖から飛び降りました。妻は頭がおかしくなり、時々暴れて手がつけられなくなるので他所様の迷惑になる前に私が娘たちの元へ送り届けました。残った犬二頭も同様に処分しました。あのケダモノとは違って最後まで人に牙を向けることはありませんでしたが、やはりケダモノはケダモノですからね」
あかん。無理や。
東雲さんの言葉自体は理解できるのに、その内容が頭に全く入ってこない。
うちの頭が東雲さんの言うことを理解することを拒んでいるのだ。
ケダモノ……アンディーが……。
東雲さんの孫を、噛み殺した……って、何?
と、不意に東雲さんが顔をあげた。
引き裂かれるようにしてその顔の皮膚が真ん中から溶け――、白い骨が露出する。
たった今まで東雲さんだった者が怨嗟に満ちた声をうちの頭に響かせていた。
「――早く、ここから出て行け」
悲鳴をあげる余裕すらなかった。
突き刺すような刺々しい言霊に思わずうちはその場で跳ねるようにして立ち上がっていた。
次の瞬間。
うちらのいる仏間が、あの陰鬱な廊下が、そしてこの家全体が。
漆黒の闇一色に塗りつぶされていた。