テラーノベル
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「……なるほど。二つ重ねれば『固定』。影の密度を調整すれば、空間をトラップに書き換えられるってわけだ」
僕が独白すると、アレンが忌々しそうに、けれどどこか感心したように口角を上げた。
「また能力の応用か……。チッ、まためんどくさい技覚えやがって」
「まさか。この球、不意打ちには使えるかもしれないけど、不安定ですぐ消える。命の取り合いの実戦じゃ、よっぽど考えて使わないと自分を追い詰める」
僕はすぐさま立ち上がり、砂を払ってアレンへと向かった。特訓はまだ終わっていない。アレンが重心を下げ、野性の鋭い視線で僕を捉える。
「……さぁ、次はどんな攻撃だ。その黒い球か? それとも『消去』か?」
僕は答えず、過去と未来の影を同時に展開した。二つの影がアレンを左右から囲むように高速で旋回し、特異点形成の予備動作を見せる。アレンは影の動きに意識を集中させた。
「どっちに移動する!? それとも――重ねる気か!」
だが、僕は移動もしないし、重ねもしなかった。アレンが僕の攻撃を見極めようとした一瞬の隙、僕は最短距離で踏み込み、無防備な奴の顎を拳で突き上げた。
「影は囮だよ。No.1の『高い警戒心』を、僕の攻撃の踏み台にさせてもらった」
「……あ、が……っ! なるほどな……。ほんと、ムカつくぜ。力押しじゃないところがよ」
アレンがよろけながら笑う。
「なら、俺も『技』を使わせてもらうぜ」
アレンが不敵に笑った直後、着ていたジャケットを剥ぎ取り、僕の顔面めがけて投げつけてきた。
「うわっ!? 何を――」
視界が遮られた一瞬、僕は反射的に過去と未来の影を展開しようとした。だが、何も起きない。……影が、出ない?
「あれ……っ?」
混乱する僕の腹部に、アレンの重戦車のようなタックルが突き刺さった。
「あ、が……ッ!」
「気づいたんだ。覚醒者の能力には、それぞれ固有の『発動条件』がある。レイ、お前……自分の能力のトリガーに気づいてないだろ」
地面に転がった僕を見下ろし、アレンが肩で息をしながら告げた。
確かに……僕はいつも意識せず、影を出していた。考えたこともなかった。
「……教えて」
「はぁ……。お前、影を出す時、いつも無意識に『出す場所』を目で追ってるんだよ。つまり、視認している座標にしか、影は現れない。だから俺はお前の目を服で隠した。見えなきゃ、お前の影は出すことができない」
「……っ、は! なるほど。座標の視覚指定か。……気づかなかった。ありがとう、これでまた一つ、僕は成長できるよ」
「……もう成長しないでくれ。これ以上強くなったら、俺の立つ瀬がねぇだろ」
「……もう成長しないでくれ。これ以上強くなったら俺がお前に勝ちづらくなるだろ」
アレンが呆れたように呟いた瞬間、背後から影が飛び出した。カケルの奇襲――だが、アレンは振り向きもせずにその蹴りを腕一本で受け止めた。
「No.2……。お前にも、致命的な弱点があるぜ」
「な、なんだろう……?」
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「初撃だけしか強くねぇことだ」
アレンの冷徹な一言に、カケルがフリーズする。
「お前は初撃で仕留められなかった時、すぐ焦る。その後の攻撃が単調になりすぎて、読むのは簡単だ。……それからな」
アレンはカケルの腕を掴み、その瞳を真っ向から凝視した。
「俺たち『ナンバーズ』は、あの化け物じみた覚醒者たちと違い、能力を無制限に使えるわけじゃねぇ。お前はガス欠になるのが早すぎるんだよ。一発一発を飛ばしすぎるな。最後の一撃を出す前に止まったら、そこでお前は負けだ」
「べ、別に……。強くなりたいわけじゃないし……」
「負けたら『死』だぞ、No.2」
「はっ! ……そ、それは、嫌だ。絶対に嫌だ!」
「なら、戦い方を考えるんだな。……死なないためにどう勝つかを」
アレンの言葉には、仲間を死なせたくないという無骨な『情』が混ざっていた。
「……しっかり見てるね、No.1。」
僕が茶化すと、遠くからシオリが両手を振って駆け寄ってきた。
「流石アーちゃん! 冷静だし、アドバイスまであげるなんて……もう、最高に格好いいわよー!」
「……っ、その名前で呼ぶなって言ってるだろ!」
顔を赤らめるアレンを見て、No.2が小声で
「(……アーちゃん……。フフフッ、ボクも今度、呼んでみようかな……)」
と不穏な独白を漏らす。
「呼んだら殺すぞ」
「ヒィィィッ! ごめんなさい、何も言ってません!」
阿吽の呼吸で殺意を向けたアレンに対し、僕は溜息を吐きながら肩をすくめた。
「シオリとアレンの二人から『殺す』なんて言われるなんて、No.2はモテモテだね」
「変な人たちしかいないよ、このチーム!」
「No.2も十分、変だけどね」
僕たちがそんな不自由な談笑をしていると、影の中からトオルが静かに姿を現した。
「皆さん。特訓はそのくらいにして、今は体を休めましょう。……一週間後には、この国をひっくり返すことになるんですから」
トオルの言葉で、場の空気が一瞬で「決戦」の色に上書きされる。笑い、怒り、そして殺し合う。僕たちの『日常』は、この一週間で終わりを告げる。
「そういえばトオル。三日前、『行くところがある』って言って出かけてたよね。どこに行ってたの?」
「……それは、一週間後に分かります。楽しみに待っていてください」
トオルはいつもの穏やかな、けれど感情の読み取れない笑みを浮かべて答えた。
「ふーん。」
僕はそれ以上追及するのをやめ、自室へと歩き出した。だが、僕の背後で――トオルが端末を操作し、一通の暗号化メールを送信したことに、誰も気づかなかった。
【宛先:ガイア】『作戦は以下の通りです。あとは、好きに暴れてください』
◆
中枢都市クワトルシティ:ガイアの執務室
「……フン。トオルからの報告か」
漆黒の椅子に深く腰掛けた女ーーこの国の女王、ガイアが冷徹に呟いた。彼女は端末に映し出されたレイたちの潜入プランを一瞥すると、傍らに控える巨躯の男へ視線を向けた。
「バッファ。一週間後の決戦、ナンバーズの二人はお前が片付けろ。……塵一つ残すなよ」
ガイアの側近であり、最強の盾と称される覚醒者、バッファが深く頭を下げる。
「畏まりました。……全て、トオルの言った通りですね」
「あぁ。私に逆らう全ての羽虫どもは、この私自身の手で消し去ってやる」
窓の外には、不気味なほど完璧に管理されたクワトルシティの夜景が広がっていた。
コメント
1件
読み終わりました!特訓シーンもいいですね。レイが影を囮にしてアレンの警戒心を逆手に取る戦術、めちゃくちゃスマートで好きです。でもそこからのアレンの逆転——「視認している座標にしか影は出せない」って弱点の指摘が熱い。自分の能力のトリガーに気づいてなかったレイに気づかせる流れ、アレンの観察力の高さが光ってましたね。 そして最後のトオルのメール…あれ、ガイア宛てってまさか内通者? 一気に空気が変わって続きが気になる終わり方でした。