テラーノベル
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二十四年前、俺は貧困層の吹き溜まりで生まれた。世界が輝いて見えたことなんて一度もない。
「おい、トオル! ガキだからって何もしないで、なんか盗んでこいよ!」
五歳の時、親から飛んできたのは愛ではなく拳だった。
「使えないわね……私たちからこんなゴミが生まれるなんて。消えて欲しいわ」
「トオル、テメェ働いてこい。それが無理なら死んでくれ」
……こんな世界、なくなればいい。一生恨んでやる。そう呪うことだけが、俺のクソみたいな人生を繋ぎ止める唯一の思いだった。
一年後、この街が戦争に巻き込まれた。瓦礫の山を走る中、親は俺を捨てて逃げた。
「はぁ、はぁ! 早く逃げねぇと……トオル、テメェは付いてくんな! 足手纏いなんだよ!」
その直後だった。親の背中に銃弾が吸い込まれ、そのまま動かなくなった。俺は悲しさも、嬉しさも、一切感じなかった。どうせ、俺もすぐに殺される。自由になんて、なれっこないんだ。一人の兵士が、無感情に銃口を俺に向けた。
「……死ぬんだ。好きなこと、やりたいこと。何一つ、見つからなかった」
目を閉じたその時、一人の男が戦火を裂いて走ってきた。
「やめなさい! 子どもまで殺すつもりか!」
「ゼス先生! 甘いこと言わないでください。これは戦争だ! 情けなんて必要ないんです!」
兵士の怒声に、その男――ゼス先生は、凛とした声で言い放った。
「それなら、ワタシもここで殺しなさい」
「そ、それは……っ」
「情けなんて必要ないんでしょう? ワタシは本気です。この子の命を奪うなら、ワタシの命もここで奪いなさい」
沈黙が戦場を支配する。分隊長と呼ばれた男が、忌々しそうに銃を下ろした。
「……分かりました。ゼス先生、その子は殺しません。……お前たち、行くぞ。」
「しかし!」
「先生が死んだら、誰が俺たちの傷を治療してくれるんだ?」
嵐が去った後、俺は地面に座り込んだまま、自分に命を懸けた変な大人を見上げた。
「……なんで。俺みたいなゴミを、助けたんだ」
「子供は未来の可能性です。あなたはまだ何も知らない。楽しいこと、辛いこと……他にもたくさん。まだ小さいのに、諦めるのは早すぎますよ」
ゼフ先生は俺と同じ高さまで腰を落とし、真っ直ぐに俺の瞳を凝視した。ゴミだと言われ続けた俺を、『可能性』と呼んだ変な大人。
それから、俺は先生の紹介で孤児院に入ることになった。
「トオル君。何か好きな食べ物はないの?」
孤児院の先生が優しく問いかけるが、俺の脳内には『空腹を満たす』という意識しか存在しなかった。
「……わからない」
「うーん、じゃあ毎日いろんな料理を作るから、好きな食べ物を一緒に見つけましょうか」
食事、遊び、会話。俺にとっての『当たり前』は、ここではすべてが新しい発見だった。
「トオル君! ババ抜きしようよ!」
「……うん」
トランプというカード。
「ババは誰が持ってるんだ~!」
「ババ? 持ってるよ、はい」
俺がカードを見せると、子供たちは一斉に声を上げた。
「あはは! 出しちゃダメだよ!」
「え?」
「ルール分からないなら教えるから、ちゃんと言わないと!」
「……ごめん」
「大丈夫だよ! えっとね、ルールは……」
驚いた。俺と同い年くらいの子供たちは、みんな物知りだ。そして大人たちは、見返りもなく俺に笑いかける。
……なんで、こんなに優しいんだ。
それから俺は、孤児院での日々を通じて、好きな食べ物、嫌いな遊び、たくさんの『好き嫌い(個性)』を覚えていった。
俺という空っぽな箱に、色鮮やかな感情が詰め込まれていく。
そして、十年の月日が流れた。
十六歳になった俺は、絶賛反抗期中だった。……正直、びっくりしている。自分だけはそんなもの無縁だと思っていたが、この歳になると、世界のすべてに対して尖った反抗心が芽生えてくるのだ。
毎日、喧嘩に明け暮れていた。俺はそこそこ強かった。勝てば周りに人が集まり、まるで自分が世界の王にでもなったような優越感に浸っていた。
「トオル! また喧嘩したの!?」
孤児院の先生の叱責にも、「うるせぇよ、話しかけんな」と毒を吐く。
そんな、荒んだ日常が続いていたある日のこと。公園の隅で、少年が大人たちに囲まれ、いじめられているのを見つけた。最初は見て見ぬ振りをしようとした。だが――その少年の怯えた瞳が、かつて虐待されていた頃の自分と重なって見えた。
「おい、おっさんたち。ガキいじめて楽しいか? ……カッコ悪いな、アンタら」
「あぁん!? こっちはストレス溜まってんだよ! ガキはいいよなぁ、何も考えてなくてよぉ!」
「テメェらの方が、何も考えてねぇだろうが!」
力任せに大人たちを追い払った。俺も無傷じゃ済まない。あちこちがズキズキと痛む。
「あの……ありがとう、お兄さん」
「気にすんな。……早く帰れよ」
少年を見送り、俺はベンチに深く腰掛けた。
「……はぁ、痛ぇ」
ふと、冷めた思考が頭をよぎる。
今、反抗期を気取って周りに当たり散らしている俺も、あの大人たちと同じくらいカッコ悪いんじゃねぇのか?周りに逆らい、自分が正しいと思い込む。……冷静に考えれば、これまでの行動すべてが恥ずかしく思えてきた。
喧嘩が強いだけで偉くなった気でいた俺は、ただの馬鹿野郎だ。自分の『格』の低さに打ちひしがれていた、その時だ。
背後から、懐かしく、穏やかな声が鼓膜を震わせた。
「トオル君――『合格』ですよ」
コメント
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ぽたおさん、第27話読了しました……! 幼いトオルがゼス先生の「子供は未来の可能性」という言葉に救われた場面、すごく沁みました。あの壮絶な過去から孤児院で“普通”を覚えていく丁寧な描写に胸が熱くなりました。ババ抜きのルールを知らなかったエピソード、切なくて忘れられないです。 反抗期で尖った今のトオルもリアルで、最後の「合格」にグッときました。続きが気になります🌷
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